妖精の森の、日常のおはなし。

華衣

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本編

6.僕の名前

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 リスの親子と家に帰った僕は、夜までまだ時間があったから、一緒に巣穴づくりに良さげな場所を探した。大木を中心に、半径10メートルぐらいは安全そうだったから、その範囲で立地を決めた。その時点で本格的に夜になってきていたから、親リスは食料を取りに行けなくて困っていた。なので、一昨日見つけた美味しい木の実をあげた。僕はカボチャモドキの中身を食べればいいからね。そしたら、親リスにめちゃくちゃ感謝されてしまった。

『妖精様、本当にありがとうございます! なんとお礼をしたらいいか⋯⋯』
「いいよいいよ。リスさんたちが住んでくれると、こっちも嬉しいからさ」

 ⋯⋯いやほんと、あわよくばもふもふを触りたい、なんて下心がちょっとあるから、そんなに感謝されると居た堪れない⋯⋯。

「⋯⋯あー、ところで、その『妖精様』っていうの、ちょっと堅苦しくない?」
『そうでしょうか? ではなんとお呼びすれば⋯⋯』
「うーん、そうだな──」

 ──そういえば、前世の名前は思い出せてないんだった。なぜか、僕個人を特定できるような記憶が抜け落ちている。特に支障はないから気にしてないけどね。だから、僕の名前は一から考えないとだ。うーん、異世界だから、外国っぽい名前の方がいいよね。それと、せっかくだから妖精っぽい名前にしたいな。妖精といえば自然だよね。リーフ、ウッド、フラワー⋯⋯なんかしっくりこないな。あ、そういや、前世で僕はチョコミントアイスが好きだったな。だから、「ミント」なんてどうだろうか。

「『ミント』⋯⋯そう、僕の名前は『ミント』だよ。そう呼んで欲しいな」
『わかりました。ミント様ですね!』
「いや、様はいらない⋯⋯」
『⋯⋯?』
「ま、いっか」

 口に出すと、とてもしっくりときた。僕は、今日から「ミント」として、ここで生きていくんだ。前世を忘れるわけじゃないけど、違う存在として生きていく。やっと、決意が固まった気がした。


 ▷◇◁


 ようやく、あの子は自らの存在に名を付けましたね。ここ数日、いつ存在が溶けてしまうかと心配していましたが、もう大丈夫でしょう。

 世界が生まれ消えゆくこの場所で、世界を見守り、時に干渉するものたちの手が回らなくなったのは、いつからでしたか。いくら、数多の世界に存在する生物が昇格した存在で、その数が膨大だとしても、世界の数に及ばなくなってしまってはどうしようもありません。ここ最近、世界の急激な増加により、1世界にひとりでは全ての世界を見守ることができなくなっています。
 昇格すると言っても、その数は生物の数に比べればとても少数です。新たに昇格するものはいますが、世界が生まれる速度の方が早く、追いつかないのです。そこで、世界を見守るものたちをまとめている大神おおがみ様から、“自然と昇格するのを待つのではなく、昇格に至らない魂を昇格できるよう育てる”という試みをするように、と命令がなされました。そして、私が初めて育てる魂に、あの子を選んだのです。
 記憶が曖昧なのは、私が調整をしたからです。全ての記憶を残すと、存在が過去に囚われ、別の肉体だとしても、元々昇格に至らなかった存在だったため、昇格することができなくなってしまいます。かといって、記憶をまっさらにしてしまうと、輪廻転生と同じになってしまい、干渉した意味がなくなってしまいます。なので、囚われない程度に記憶を残し、新たな生を、最初から考える力をもって生きていく、というのが昇格につながると、私たちは考えたのです。
 干渉できるとは言っても、それは生物はらば魂のみの時だけ、というのを伝え忘れていましたね。肉体に生を受けた生物には、もう干渉することはできないのです。

 これで、あの子の魂が昇格し、世界を見守るものになってくれることを願うばかりです。ですが、なにかを成す必要はなく、ただ幸福に育てばいいのです。あの子に負担は強いません。私としても、平和に生きていて欲しいと思っています。

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