妖精の森の、日常のおはなし。

華衣

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本編

34.ぽかぽか

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 ヴィンデくんの部屋には、おもちゃやぬいぐるみが結構あった。本棚には勉強のための教科書とともに、小説や絵本が大量にあった。いかにも子ども部屋って感じ。ぬいぐるみが山になっている部屋の角にそろそろ近づいて、一番小さな白猫のぬいぐるみを抱いてみた。人だったら指でつまめるくらいのそれを、僕は両腕で抱いている。

「あ、そのぬいぐるみ、ミントくんにちょうどいいね」
「うん!(コクン)」

 ボタンの目がくりくりして可愛い。思わずすりすりとほっぺを擦りつけた。
 その後、何して遊ぼうかなーとふたりで色々部屋を見て回っていると、部屋のドアがコンコンとノックされた。グィドさんがドアを開けると、大きめのワゴンを押したエフィさんが居た。カラカラ音を立てるワゴンには、銀色の が被せられたお皿がいくつも乗っていた。

「僕がお昼はここでミントくんといっしょに食べるって伝えてたんだ」

 を開けると、美味しそうな料理が湯気をたてていた。デザートもたくさんあって、ヴィンデくんに何度もありがとう! と伝えた。エフィさんとグィドさんが横長のテーブルに料理を並べ終えて、ふたりで昼食をいただく。

「今日もおいしい」
「うんうん(コクコク)このサラダも美味しい!」

 色々な野菜が混ぜられたサラダを指し示しながら食べていると、ヴィンデくんは「僕は野菜ニガテ⋯⋯」と、サラダだけはフォークをよけて、ステーキやパンをもぐもぐしていた。まだまだお子様舌なんだな、と微笑ましくなった。でも、野菜は食べなきゃダメだよ! レタスのような葉っぱをちぎって、ヴィンデくんの口元に押し付ける。僕の勢いに、しぶしぶ口を開けてもしゃもしゃと食べてくれた。これ幸いとサラダを食べさせていく。その僕たちのじゃれ合いに、グィドさんとエフィさんがほっこりしていたのには気づかなかった。


 昼食を食べ終え、デザートも余さずいただくと、ぽかぽかした太陽の光が入ってくるのも相まって、だんだん眠くなってきた。ヴィンデくんも、さて何して遊ぼうかとおもちゃを探りに行っていたけど、いつの間にか頭をゆらゆらさせていた。

「王子、お昼寝をしてはいかがですか」
「妖精様も眠たそうですよ」

 グィドさんとエフィさんにそう言われて、僕たちはいっしょにお昼寝をすることにした。王子がお昼寝していいのかな、と思っていたら、今日は午後からはなにも予定はないらしい。安心してお昼寝できるね。
 ベッドにいっしょに入って、天蓋が降ろされる。すぐに眠気がやってきた。

「むにゅ⋯⋯みんとくん、おやしゅみ⋯⋯⋯⋯」

 半分寝ている声で言うヴィンデくんに、僕も目を閉じながら「おやすみ⋯⋯」と呟いた。


 ⋯⋯その後、飛び起きたらもう夕日が沈んでいくのを見て、僕たちは寝過ぎた⋯⋯! と遊ぶ時間が少なくなったのにショックを受けた。⋯⋯主にヴィンデくんががっかりしていた。

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