妖精の森の、日常のおはなし。

華衣

文字の大きさ
44 / 51
本編

43.翻訳魔法

しおりを挟む

「翻訳魔法を使う、とは言ったが霊力では魔法は使えない。まあ、言ってしまえば霊力向けの術式を開発するんだ」

 霊力じゃ今ある翻訳魔法を発動することができないから、新しく霊力でも使える翻訳魔法を術式から創るらしい。

「ただ、霊力は今も解明されていないことが多い。俺も研究は進めてはいるんだが、成果は芳しくないんだな~。そこで! 妖精様にも協力してほしいんだ」
「協力だと? ミントを危険に晒すつもりか?」

 急にハーヴェイさんから緊張感が伝わってくる。空気がピリピリしていて、エフィさんもガストーネさんも表情が硬くなっている。少し間が空き、ガストーネさんが気を取り直すと弁明をした。

「いやいやいや、そんな危険じゃないって! ほら、今までだって失敗したことも無かっただろ、俺?」
「そのことでは無い。今まで何回騎士たちを実験台にしてきたと思ってるんだ!」
「⋯⋯あ~、それは~、まあ⋯⋯必要なこと、だったし~? ⋯⋯」
「⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯」
「⋯⋯ごめんなさい」

 ⋯⋯なんか、この人に頼んで大丈夫かな? と、エフィさんと顔を見合わせた。



 その後、ハーヴェイさんは僕が危険なことはするな、と脅してガストーネさんに約束を取り付けていた。まあ、心配してくれているのは嬉しいけどね。
 そして、ガストーネさんの術式開発に、僕が付きっきりで協力することになった。しばらく遊べないんだよーとヴィンデくんやメイプル様に手紙を送ると、直ぐに返事が返ってきて、二人とも、さみしいけど頑張れ! って感じだった。優しい。

 さて、今僕たちはさっきの研究室と続き部屋になっている、ガストーネさんの専用の研究室に来ていた。さっきハーヴェイさんに案内された研究室は、いわゆる執務室のようなもので、国から公式に依頼された研究などをしている場所だ。で、今いるガストーネさん専用研究室は、完全にガストーネさんの趣味でやっている研究がまとめられている。今回は僕個人の依頼だから、こっちの趣味研究室で進めていくようだ。

「さてさて~? まずは、妖精様に翻訳魔法の原理を説明しようかな」

 ガストーネさんが、乱雑に積まれた紙束の中から、一つの紙束を抜いて持ってきた。そこに書かれた文を指し示しながら、魔法の説明をした。

「まず、翻訳魔法はかける体の部位によって効果が変わる。耳なら、聞いた言葉が理解できる言葉として翻訳される。のどなら、話した言葉が相手に伝わる言葉に翻訳される。ここまではいいな?」

 ガストーネさんの言葉に、真剣に聞きながらうんうんと頷く。

「妖精様にかけるのが難しい理由として、言語を翻訳するには、元から魔法にその言語を組み込んでおく必要があるんだ。例えば、1の言語を2の言語に翻訳したいとする。そうすると、翻訳魔法の回路の中に、1と2のどちらの言語も組み込む必要がある。いわば、通訳のように言語を学ばないといけねぇんだ」

 ⋯⋯あ! そっか! 僕の話している言葉が、その翻訳魔法に組み込まれていないから使えないってことか。⋯⋯もしかして、かなり大変なことをしようとしてる? 僕がなんとなく察したのに気づいたのか、ガストーネさんはニヤリと笑った。

「そう、今日から妖精様の言葉の辞書を創るぞ~! イェ~~~イ!」

 ギャーーー!!!

しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

【一秒クッキング】追放された転生人は最強スキルより食にしか興味がないようです~元婚約者と子犬と獣人族母娘との旅~

御峰。
ファンタジー
転生を果たした主人公ノアは剣士家系の子爵家三男として生まれる。 十歳に開花するはずの才能だが、ノアは生まれてすぐに才能【アプリ】を開花していた。 剣士家系の家に嫌気がさしていた主人公は、剣士系のアプリではなく【一秒クッキング】をインストールし、好きな食べ物を食べ歩くと決意する。 十歳に才能なしと判断され婚約破棄されたが、元婚約者セレナも才能【暴食】を開花させて、実家から煙たがれるようになった。 紆余曲折から二人は再び出会い、休息日を一緒に過ごすようになる。 十二歳になり成人となったノアは晴れて(?)実家から追放され家を出ることになった。 自由の身となったノアと家出元婚約者セレナと可愛らしい子犬は世界を歩き回りながら、美味しいご飯を食べまくる旅を始める。 その旅はやがて色んな国の色んな事件に巻き込まれるのだが、この物語はまだ始まったばかりだ。 ※ファンタジーカップ用に書き下ろし作品となります。アルファポリス優先投稿となっております。

中年オジが異世界で第二の人生をクラフトしてみた

Mr.Six
ファンタジー
 仕事に疲れ、酒に溺れた主人公……。フラフラとした足取りで橋を進むと足を滑らしてしまい、川にそのままドボン。気が付くとそこは、ゲームのように広大な大地が広がる世界だった。  訳も分からなかったが、視界に現れたゲームのようなステータス画面、そして、クエストと書かれた文章……。 「夢かもしれないし、有給消化だとおもって、この世界を楽しむか!」  そう開き直り、この世界を探求することに――

異世界転生したので森の中で静かに暮らしたい

ボナペティ鈴木
ファンタジー
異世界に転生することになったが勇者や賢者、チート能力なんて必要ない。 強靭な肉体さえあれば生きていくことができるはず。 ただただ森の中で静かに暮らしていきたい。

祝・定年退職!? 10歳からの異世界生活

空の雲
ファンタジー
中田 祐一郎(なかたゆういちろう)60歳。長年勤めた会社を退職。 最後の勤めを終え、通い慣れた電車で帰宅途中、突然の衝撃をうける。 ――気付けば、幼い子供の姿で見覚えのない森の中に…… どうすればいいのか困惑する中、冒険者バルトジャンと出会う。 顔はいかついが気のいいバルトジャンは、行き場のない子供――中田祐一郎(ユーチ)の保護を申し出る。 魔法や魔物の存在する、この世界の知識がないユーチは、迷いながらもその言葉に甘えることにした。 こうして始まったユーチの異世界生活は、愛用の腕時計から、なぜか地球の道具が取り出せたり、彼の使う魔法が他人とちょっと違っていたりと、出会った人たちを驚かせつつ、ゆっくり動き出す―― ※2月25日、書籍部分がレンタルになりました。

猫好きのぼっちおじさん、招かれた異世界で気ままに【亜空間倉庫】で移動販売を始める

遥風 かずら
ファンタジー
【HOTランキング1位作品(9月2週目)】 猫好きを公言する独身おじさん麦山湯治(49)は商売で使っているキッチンカーを車検に出し、常連カードの更新も兼ねていつもの猫カフェに来ていた。猫カフェの一番人気かつ美人トラ猫のコムギに特に好かれており、湯治が声をかけなくても、自発的に膝に乗ってきては抱っこを要求されるほどの猫好き上級者でもあった。 そんないつものもふもふタイム中、スタッフに信頼されている湯治は他の客がいないこともあって、数分ほど猫たちの見守りを頼まれる。二つ返事で猫たちに温かい眼差しを向ける湯治。そんな時、コムギに手招きをされた湯治は細長い廊下をついて歩く。おかしいと感じながら延々と続く長い廊下を進んだ湯治だったが、コムギが突然湯治の顔をめがけて引き返してくる。怒ることのない湯治がコムギを顔から離して目を開けると、そこは猫カフェではなくのどかな厩舎の中。 まるで招かれるように異世界に降り立った湯治は、好きな猫と一緒に生きることを目指して外に向かうのだった。

才がないと伯爵家を追放された僕は、神様からのお詫びチートで、異世界のんびりスローライフ!!

にのまえ
ファンタジー
剣や魔法に才能がないカストール伯爵家の次男、ノエール・カストールは家族から追放され、辺境の別荘へ送られることになる。しかしノエールは追放を喜ぶ、それは彼に異世界の神様から、お詫びにとして貰ったチートスキルがあるから。 そう、ノエールは転生者だったのだ。 そのスキルを駆使して、彼の異世界のんびりスローライフが始まる。

親友と婚約者に裏切られ仕事も家も失い自暴自棄になって放置されたダンジョンで暮らしてみたら可愛らしいモンスターと快適な暮らしが待ってました

空地大乃
ファンタジー
ダンジョンが日常に溶け込んだ世界――。 平凡な会社員の風間は、身に覚えのない情報流出の責任を押しつけられ、会社をクビにされてしまう。さらに、親友だと思っていた男に婚約者を奪われ、婚約も破棄。すべてが嫌になった風間は自暴自棄のまま山へ向かい、そこで人々に見捨てられた“放置ダンジョン”を見つける。 どこか自分と重なるものを感じた風間は、そのダンジョンに住み着くことを決意。ところが奥には、愛らしいモンスターたちがひっそり暮らしていた――。思いがけず彼らに懐かれた風間は、さまざまなモンスターと共にダンジョンでのスローライフを満喫していくことになる。

暗殺者から始まる異世界満喫生活

暇人太一
ファンタジー
異世界に転生したが、欲に目がくらんだ伯爵により嬰児取り違え計画に巻き込まれることに。 流されるままに極貧幽閉生活を過ごし、気づけば暗殺者として優秀な功績を上げていた。 しかし、暗殺者生活は急な終りを迎える。 同僚たちの裏切りによって自分が殺されるはめに。 ところが捨てる神あれば拾う神ありと言うかのように、森で助けてくれた男性の家に迎えられた。 新たな生活は異世界を満喫したい。

処理中です...