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お使い④
しおりを挟むカフェを出て、薬剤師の家を訪ねる前に街を歩いてみたいというベルティーナの提案で二人は散歩をしていた。田舎ではあるが人は多く、お店も朝早くから開店している所も多い。普段王都から出ないベルティーナはどの店も興味津々に眺め、偶に気になった店があると入って品物を手に取り、気に入れば購入していく。
「アルジェントは欲しい物はない?」
「ない、かな。俺はいいから楽しみなよベルティーナ」
「私一人楽しんでもしょうがないでしょう。あ」
「うん?」
不意に声を発したベルティーナはある方向を見ていて、気になったアルジェントも振り向くと。家族四人だろうか、両親と歳の近そうな男の子と女の子が手を繋いでカフェに入って行き。入口付近にある看板を見ていたカップルも続いて店内へ入って行った。
「ベルティーナ?」
「え? あ、ああ、ごめんなさい」
ベルティーナは羨ましそうに、どこか寂し気に家族やカップルを見てしまった。自分ではどう足掻いたって手に入れられない存在。イナンナから、赤ん坊の時は大事にされていた話を聞いても物心がついた時から、優秀な兄と比べられ、従妹を溺愛している所を見せられ続けているとそんな話を聞いても多少の動揺はあっても心は動かなかった。
「ねえ……アルジェント。もしも、お父様やお母様が叔母様の魅了に掛かっていなかったら、今とは違っていたのかしら」
「どうかな。いくら魅了に掛かってるからって、君と兄君をしつこいくらい比べるかな」
クラリッサの溺愛やアニエスとの過剰なくっ付き具合は魅了によるものとしても、ビアンコとの比べられ方は魅了の影響を受けている確率は低い。結局の所、優秀な長男と落ちこぼれの長女の図は魅了があってもなくても出来上がる運命だったのだ。
そうよね、と溜め息を吐いたベルティーナは気持ちを切り替えた。
「あの人達の話はお終い。薬剤師の許へ向かいましょうか」
「散歩は良いの?」
「ええ」
再び歩き始め、向かう先を薬剤師の家へと変えた。
アルジェントが不意にリエトの初恋の君について切り出した。
「あの王太子が溺れた湖って、昔俺やベルティーナがよく遊んだ湖だよね」
「そうね。アルジェントの女装があまりに似合い過ぎて笑ってしまったわ」
「君に似せたアレね。ドレスの色も君好みにしたよね」
「オレンジ色のドレスの事? アルジェントならきっと似合うと思ったの」
双子の振りをするなら着るドレスも好みに合わせてもらった。
水中の中でも息を吸えるように魔法で工夫をしてもらい、ドレスを着ながら自由に泳げる体験に感動した。普通ではまず絶対に無理なものを、現実にする魔法に魅了されるが悪魔の彼だからこそ持つ力。人間である自分が望む代物じゃない。
「殿下を助けた同じ年頃の貴族令嬢ね……助けられるの?」
「どうだろうね……余程、泳ぎが得意なご令嬢だったのかな」
「令嬢だから普通はドレスを着るわね……泳げるの? ドレスを着たまま」
「さあ」
考えれば考える程、リエトを助けた貴族令嬢の想像図が浮かばない。同い年の令嬢というのはリエトの錯覚で、本当は成人女性ではないかと疑問を抱いた。
「ベルティーナは気になるの?」
「アルジェントが話題を振ったんでしょう。まあ、気になるのは気になるわ。私が見つけて殿下をぎゃふんと言わせるのも有りかも」
冷静なリエトがぎゃふんと言う……考えるだけで優越感に浸れるも、ハッとなって首を振った。
「今のは無し。殿下にも関わるのはうんざりだから、無しよ」
「はーいはい」
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