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番外編:半分こにしたかった
ガラスの器に盛られたプリンの上には、贅沢に旬の果物や生クリームが沢山載せられていて、青紫の瞳をキラキラと輝かせて見つめるメリルは隣に座るフィロンを見上げた。
「フィロン様、こちらは?」
「人間界で流行っているスイーツだと聞いた。メリル、お前はこういったスイーツが好きだっただろう?」
「はい!」
フィロンが自分の好きなものを知ってくれている。彼の愛妾となって既に五十年以上は経った。日々魔王としての激務に追われるフィロンだが、時間が出来ると必ずメリルの許に来る。栗色の頭にフィロンの頬が乗った。
「フィロン様? 最近、疲れが溜まっておりませんか?」
「いや……お前が言うほど疲れてはない。ただ」
現在人間界で生活をするフィロンの弟ネーヴェからフィロンにある報せが届いた。人間界で生活をする悪魔は自身が悪魔だとバレないよう極力魔力を使わない。無論、人間に危害を加えるのは以ての外。魔界を降りる際は、まず申請書が魔王城に届けられ、書類審査が通った後は門を通る際管理局が厳重な検査をする。厳しい検査を通れて漸く人間界に来られる。
「ルールを破る魔族がいる。そいつの捕獲と生家への処罰を現在審議中なんだ」
ただの魔族ならば良かったのだが、ルールを破った魔族は魔界でも屈指の名家出身者。人間界で穏やかに、平和に暮らしたい悪魔にとってルール違反者は敵。基本厳罰が処せられるも、名家の当主が一度の失態で厳罰は厳しいと連日フィロンに直談判に来ていた。
「さっさと始末してやりたいが重鎮の座にいるせいでそれも叶わない。もうそろそろで片がつくと思うが……」
「……」
長く魔界に貢献してきた魔族の一族を処罰するには相応の理由が必要となる。面倒くさそうに溜め息を吐いたフィロンに対してメリルはスプーンで生クリームとプリンを掬うとフィロンの口元に運んだ。
怪訝そうに見つめられ、少し恥ずかしさを抱きつつ食べてほしいと願った。
「疲れている時は甘い物を食すといいと聞きます。私一人で食べるより、フィロン様と一緒に食べたいです」
「……」
ジッとフィロンに見つめられ、段々間違えてしまったかと焦り始めたら、スプーンを持つ手を握られ、生クリームとプリンを食べてもらえた。
フィロンとしてはメリルの為に運んだのだが、メリルとしてはフィロンと一緒がいい。
「思ったより甘くないな」
メリルの手からスプーンを取ったフィロンがプリンと生クリームを同時に掬い、メリルの口元に運んだ。顔を赤くするメリルは恥ずかしそうに口を開け、パクリとスプーンを口に含んだ。
「……私にはとても甘いです」
通常時ならフィロン同様甘くなかったのかもしれない。今はフィロンに食べさせられているから、甘味が増しているだけ。またプリンを掬うとメリルの口元に運ばれ、吃驚してフィロンを見上げた。
「じ、自分で食べられます」
「お前が最初におれにやったんだ。何より、お前の為に持って来たんだ。早く食べろ」
「はい……」
此処には自分達以外誰もいない。
誰もいなくても恥ずかしい。
恥ずかしさで若干涙目になりながらプリンを完食。結局フィロンが食べたのは最初の一口だけ。半分こにしたかったメリルとしては不服だったものの、楽しそうに食べさせてくる姿を見て安心した。疲れが溜まる一方なのにメリルを抱く事だけは欠かさないフィロン。余計疲れが溜まるのではと心配するものの、疲労が溜まるのはメリルの方。体力の差に大きな開きがあると解っていても心配になる。
器をテーブルに置き、フィロンに引き寄せられたメリルは心地好い温もりと一定の鼓動を打つ心音を聞きながら瞳を閉じた。
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