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甘い日々
13年間、フィロンの婚約者としてあり続けたメリルが愛妾となって早2ヶ月経過した。その間にも、アールズ公爵家令嬢イレーネが次の婚約者として正式に決まった。
予想通りの展開にメリルは不安を抱いた。イレーネは公爵令嬢としてはメリルよりも何倍も相応しい上に、容姿も魔力も知識も兼ね備えた人物。魔王以上の魔力を持ち、絶世の美貌の持ち主であるフィロンの隣に立つにこれ以上の令嬢はいない。
メリルは愛妾になってから1度もラウネル公爵邸に戻っていない。フィロンに宣言された通り、あの日からフィロンの私室にて生活をしていた。
する事といえば―ー何もない。
朝はフィロンの抱き枕になっているので、起きるのはフィロンが目を覚ましてから。拘束から逃れて起きようとしたら不機嫌なフィロンに組み敷かれ何度か抱かれているので起きるのを待つ。何もなければ、使い魔が運んで来た朝食を隣室に行ってフィロンと頂く。不思議なことに、メニューはずっとメリルが公爵家で食べていたのと同じだった。
昼は、執務を熟すフィロンの膝上に乗せられて固くなっている。何度か降りようと動こうとしたら、書類を書く手を止めてソファーに押し倒されて抱かれた。此方も終始固まっていた。でも、時折メリルの緊張を解そうとしているのか、頭に何度も優しい口付けを落とす。フィロンの部屋を誰も訪れない。書類は転移魔法を使って運ばれ、伝言等も使い魔を使って受け取っている。
夜は夕食を終えるとフィロンに抱かれる。執拗に、激しく、時々意地悪に。
何度も抱かれているとメリルの身体は、フィロンの何気無い触れようにも感じる程敏感になってしまった。
「メリル」
「フィロン、様……」
――今夜もまたフィロンに何度も絶頂させられ、求められたメリルは荒い呼吸を繰り返した。
汗で張り付く髪を煩わしげに掻き上げたフィロンは、とんでもない色気を放出していた。本人は無自覚からの行動だろう。慣れないメリルが元から赤い顔を更に赤くして逸らせば、少々怒った声で呼ばれた。
顎を掴まれ、無理矢理フィロンの方へ向かせられた。ゆっくり重ねられた唇から甘い息が零れた。仕草は乱暴でも、口付けを交わす動きは至極丁寧でメリルを安心させた。汗に濡れた背中に腕を回した。
「ん……んう、あ…………フィロン様……」
「メリル……。お前は、おれの、ものだ」
「は、い……フィロン様の、ものです」
何もしていない時も、抱かれている最中も、こうやって終わった後もフィロンは確かめるように紡ぐ。メリルは自分のものだと。これにメリルが肯定したら、身体から力を抜いて安心する。豊かな膨らみに顔を埋めてすりすりしているのが、冷たく堂々とした彼に似合わず、可愛く見えた。
髪を撫でたら怒るだろうか……一抹の不安を抱きつつ、青みがかった銀糸に触れた。何も言ってこないのでふわり、ふわりと撫でる。しっとりと濡れているが汗の匂いと薔薇の香水の香りが混ざって、淫靡な気持ちになってしまった。
思っていたよりも柔らかく、触り心地の良い髪なだけに慌てた。
撫でている手を止めたら「撫でていろ」と命令された。こう言われれば、止められない。一定のテンポを保って撫で続けると不意にフィロンが顔を上げた。
「メリル。何か欲しい物はあるか?」
「欲しい物、ですか?」
突然聞かれても咄嗟に思い付かない。元々、人より物欲が弱いメリルが父にプレゼントを強請るのも滅多になかった。精々、綺麗な花を沢山見たいとお願いするくらい。
「すぐじゃなくていい。ゆっくり考えろ」
「は、はい」
「それから、明日は青薔薇園で昼食を取る。いいな」
「! はい」
青薔薇園は魔王の魔力によって咲き誇る。魔界でしか咲かない青薔薇はメリルの大好きな花。大好きなフィロンと一緒に見られるだけじゃなく、食事まで取れる。滅多にない機会に、メリルが欣喜するのは自然な反応だった。
「……」
すると、何故かフィロンの頬が赤く染まった。不思議そうに見上げるメリルへ険しい顔付きのままキスをした。噛み付くようなキスに驚き、反射的にフィロンにしがみついた。フィロンに抱き締め、精に溢れて滑りとしているメリルの中にフィロン自身が挿入された。
「ああぁ……!」
難なく受け入れたソレを逃がさないとばかりに締め付けた。甘い悲鳴を上げたメリルに覆い被さるフィロンも、何かを堪えるように顔を歪めていた。
「ま……ああん!」
待ってほしいと言いたくても、フィロンのソレは先程よりも固さと大きさは違っていて。突き上げる動きに混じって、中を抉るように腰を回されるので受け止めしかない。
淫らな水音と互いの肌がぶつかり合う音だけが妙に響く室内。メリルの嬌声だけはどの音よりも性欲を大いに刺激する。
「フィロ、さま」
「お前が、悪いっ」
「え、なん、ああっ!」
何もしていないのにフィロンの中ではメリルが悪いこととなっている。理由を聞きたくても更に激しさの増した律動で思考は回らなかった。
――翌日の昼。
朝になっても解放されず、結局昼前まで気絶するように寝ていたメリルは寝惚けた状態でフィロンの膝に座らされていた。今は執務の最中。フィロンが部屋を出ないといけない時じゃない限りは、こうやって部屋に閉じ籠って熟す許可を魔王から得たのだ。
時折、感じるフィロンの口付けの温もり。心地良く、安心してしまうそれにメリルはうつらうつらとする。
「眠るか?」
気遣うような問い。寝たら貴重な昼の時間がなくなる。
「……いえ……、起きて、ます」
「眠いなら無理に起きていなくていい」
「起きてます……フィロン様と……昼食を一緒に、食べたいです……」
「……」
本音はこれ。朝食や夕食も一緒だが昼食だってフィロンと食べたい。自分でも我儘だと嫌になるメリルの内心に反し、ペンを動かしていたフィロンは華奢な身体を抱き上げた。寝室のベッドまで運ばれ寝かされた。フィロンも横になった。
「疲れた。寝る」
「え、ですが書類は」
「今日必要な書類には全てサインしてある。問題ない」
そう言ってメリルを抱き締め、栗色の頭に頬を乗せた。
「お前も眠いのだろう? 寝ろ」
「で、でも、先程まで……」
「寝ろ。……でないと、今抱いてやろうか?」
「!?」
「それとも、今抱かれるのを望むか?」
「!!?」
フィロンの底意地の悪い微笑は本気だと書いていた。急激に顔に体温が集中した。フィロンの胸に顔を埋めたメリルは「寝ます!」と慌てて宣言した。顔だけじゃなく、全身体温が上がっているのは気のせいだと思いたい。
背に回った手と後頭部に回った手が寝られない赤子をあやす母親に似た手付きで撫でてきた。すっかりと安心してしまったメリルは、フィロンの温もりと香りに包まれて眠ってしまった。
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