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しおりを挟む事件から一年後。
「ダヴィデー!」
「おう、ローゼ」
腰まであった髪は肩に触れるか触れないかの辺りで切り揃え、魔法使いのローブがすっかりと染み付いたローゼがいた。ダヴィデに手を振って側へ駆け付けた。
「今日も仕事終わったよ」
「お疲れ」
「うん。魔法使いの仕事って面白いね。まだ一年だけどかなり慣れてきた」
「そいつは良かった。お前さんの性に合ってたんだろう」
「うん」
一年前の事件で亡くなったのはローゼ一人。公にもそう発表された。
シーラデン家には毎週顔を出すように言われており、律儀に毎回必ず戻っている。父がダヴィデの弟子になる条件として付けたのがこれ。側にダヴィデがいると言えど、魔法使いの任務は危険な物が多く、貴重な知識を持つ彼等を狙う輩は後を絶たない。
「今日はこの後シーラデン領に行って薬草の採取をするぞ。ローゼがいて正直助かる」
「どうして?」
「ローゼも知っての通り、シーラデン領で栽培されている薬草の品質は最高級でな、他じゃまず手に入らないし、高値で取引されるから手が出し辛い。シーラデン領は魔法使いに優しい値段で取引をしてくれるんだ」
「私がダヴィデと親しいから?」
「かもな」
ダヴィデとの出会いは偶然。あれがなければ、お互い名前を知っているだけの間柄であったろう。
ダヴィデに習って数ヵ月で会得した浮遊魔法を使い、王都からのんびりシーラデン領を目指す。
「昨日伯爵家に戻ったでしょう? その時、フレアが教えてくれたんだけど」
毎週欠かさず実家に顔を出すローゼライトは偶に夕食を食べて帰る時もあれば、そのまま泊まって翌朝帰る時もある。昨日は泊まっていくパターンの方になった。
「フレアに婚約者ができたの」
「へえ。お目出度いな」
「ええ。私も名前だけは知っている伯爵家の方よ」
顔を見た事はないが父やフレア曰く、とても優しい性格の持ち主でシーラデン家の主な収入源たる薬草の知識も豊富でフレアと薬草関連で会話が盛り上がり、両家も二人のそんな様子を見て円満に進めている最中だ。
「これでシーラデン家は安心ね」
「お前さんは?」
「え」
「ローゼは良いのか? ベルティーニの坊ちゃん、一年経っても新しい婚約者を見つけてないって話だぜ」
「……」
自身の死を偽装した最大の理由。
ローゼライトの額に傷を作ってしまったせいで幼馴染のヴィクトリアと婚約が出来なくなってしまったラルスを自分という枷から解放してやりたかった。既にヴィクトリアに婚約者がいたとは知らなかったが、それでも好きでもない子供の頃の傷のせいで婚約者になってしまった自分からラルスを自由にしてやりたい。その気持ちに嘘はない。父はちゃんとラルスがヴィクトリアを好きでいたこと、今でも好きなことをローゼライトが知っていると伝えてくれた。いつかの夜会での会話を聞かれていたとラルスは思っていなかったようで顔を青くしていたと聞かされた。
「あの時、会場に戻ったらローゼライトが爆死した場所を騎士に止められても行こうとしてたぜ」
誰が、とは言わずとも分かる。
「シーラデン伯爵にアバーテの娘が好きだったのは事実と認めた上で、今好きなのはローゼライトだとも言ってたみたいだが」
「長く一緒にいたもの、情があっても変じゃない」
「……」
ダヴィデは何か言いたげに深い青を向けてくるがローゼライトは気付かない振りをする。
これからもラルスに自分の生存を伝える気は毛頭ない。
あの時聞いてしまったラルスの言葉に心が折れてしまった。
ラルスは悪くない。
ヴィクトリアも悪くない。
誰も——悪くない。ただ、ローゼライトの心が弱かった。ラルスがヴィクトリアを好きだったのは知っていた、我慢すれば良かっただけだったのに。
駄目だった。これだけだ。
会話を続けながら二人はシーラデン領に到着。領地の管理を任せている男性に声を掛け、既に父が話を通していた為すんなりと薬草園に入れた。
「今日はどの薬草を?」
「そうだなあ……この前万能薬の効果を付加したポーションが馬鹿みたいに売れたんで……それを作るか」
「一つ作るのにかなりの時間が掛かるのに」
それでも効果は絶大かつ、一つの値段が高い為かなりの収入となる。シーラデン家に優先に回し、残りをダヴィデが馴染みのある商人に売っている。
「ダヴィデ。お掃除ホウキも作りましょう? 万能薬付きのポーションとなると、私もダヴィデも掃除に手が回らなくなって家がゴミで溢れ返ってしまうもの」
「そうするか。おれは万能薬の薬草を集める。ローゼはポーションで使う薬草、それとホウキの草集めを頼む」
「うん」
ローゼライトはダヴィデと二手に分かれる事に。
慣れた足取りで薬草園の奥へ進み、目当ての薬草を探す。まずはポーションの主な原料となる薬草。薬草園の最奥で育てられており、面積も一番大きい為すぐに見つけられる。
「そういえば……」
薬草園の奥を抜けると偽の墓が建てられている。一応死んだことになっている為、墓は建てておいた方が良いだろうという父の言葉で。生きているのに自分のお墓があるのは変な気分だ。
領地にいる母にも事情は説明されている。一度顔を見に行くと大層心配をされ、ローゼライトや父が納得しているならそれでいいと受け入れてくれた。
「あ……」
墓石の側へ寄れば花束が手向けられていた。月命日になるとラルスが花を届けに来るとフレアが言っていたのを思い出した。
「全然解放させてあげられないわね」
今月で丁度一年。父はローゼライトの墓参りを断ってくれたがラルスは譲らず、ベルティーニ公爵夫妻もラルスのしたいようにさせてほしいと父に頼んだ。
「ラルス。私がもっと魔法を上達させたら、その時は必ず貴方を私から解放するね」
それが死を偽装しても尚、解放してやれなかった元婚約者へのせめてものお詫び。
今後もシーラデン家やダヴィデ以外に自身の生存を知る者を増やす気はない。
踵を返したローゼライトはポーション作りに欠かせない薬草の採取に乗り出そうとした。
——のだが。
「あ……」
「……ローゼ……?」
何時からそこにいたのか、大きく目を見開き呆然とするラルスが立っていた。すぐにその場を去ろうとしたローゼライトだが呼び止めるラルスの声に反応し、つい足を止めてしまった。
「ローゼ? 本物? 幽霊とかじゃなくて本当にローゼ?」
「ラルス……」
「死んだって思ってた……あの時、ローゼだけが死んだと……。シーラデン伯爵も現場検証をした魔法使いも誰もがローゼは死んだってっ」
見つかってしまった。ローゼライトは腹を括ってラルスと話をする決意をした。
「死んだことにしてもらったの。そうすればラルスは、怪我を負わせてしまった私という婚約者から解放される。アバーテ様と婚約するのは無理になってしまったけれど、ラルスは——」
ローゼライトは最後まで言えなかった。
ラルスは顔を青褪め、挙句地面に手を付けて頭を下げていた。
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