傷物令嬢は魔法使いの力を借りて婚約者を幸せにしたい

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 意気消沈した様子で薬草園を出て行ったラルスを複雑な眼差しで見送るローゼライト。傷物の自分から解放してあげたかった婚約者は、未だ自分という存在に縛られたままと知り、どうすれば良いのか分からなくなっているのだろう。


「ローゼ」
「!」


 思考が纏まらないローゼライトを現実に戻したのはダヴィデ。苦笑した彼は「薬草集めを再開するぞ。時間は無限じゃないからな」とラルスの件を触れず、作業再開を促した。


「……うん」


 自分一人だったら何時までも立ち尽くしてラルスがいなくなった道を見ていた。ダヴィデに感謝をしながら、ローゼライトは本来の目的たる薬草集めの作業に入ったのだった。



  

 ●○●○



 万能薬やポーション、お掃除ホウキで使用する薬草の採取を終えた二人は一旦帰宅した。集めた材料を食事で使用するテーブルに広げ、早速仕分けをしていく。万能薬、ポーション、お掃除ホウキの三種類に分けると不意にダヴィデがこんな事を告げた。


「あ」
「どうしたの?」
「悪いローゼ。用事があったのを思い出した。悪いがおれが戻るまで薬草の仕分けを任せて良いか?」
「ええ、勿論」


 ローゼライトに薬草の仕分けを任せたダヴィデは、何の疑いもなく見送りをしてくれたローゼライトに「帰りに土産を買って帰ってやる」と言い残し、転移魔法である屋敷の前に降り立った。


「やれやれ」


 今頃落ち込んで引き籠りを決めているであろうラルスが気になって来てしまった。シーラデン伯爵邸なら、伯爵とも面識がある為正面から入れるがベルティーニ公爵とは生憎と面識がない。正面から入っても取り次いでもらえない気がする。どうやってラルスに接触するかを考えていると「貴方は……」と声を掛けられた。振り向くとラルスに似た男性がダヴィデの事を目を丸くして見ていた。


「ひょっとして大魔法使い様……?」
「えっと。ベルティーニ公爵……で合ってるか?」
「ええ。私がベルティーニ公爵のハイゼルです」
「おれはダヴィデ。ベルティーニの坊ちゃんと話をしたくて来たんだが……」


 理由は何と言えば良いのか。ラルスに会いに来たのはローゼライトについてなのだが、世間ではローゼライトは一年前爆死したと発表されている。死んだ婚約者について何を話すのかと疑われるのがオチだ。
 言葉を探すダヴィデの内心を読んだのか、公爵はローゼライトの名を出した。深い青の瞳を微かに見開いたダヴィデを見てやはりと頷かれる。


「あの事件の一月後。陛下に呼び出され、ローゼライト嬢が実は生きていると知らされました。シーラデン伯爵は、死亡届を書く前にローゼライト嬢の真相を陛下に話しました」
「そうだったのか」


 娘の願いと言えど、生きているのに死んだ事にするのは父として抵抗があったのだ。公にされていないのは国王もシーラデン伯爵の気持ちを汲んで。ベルティーニ公爵が知らされたのは一年経ってもローゼライトの死を引き摺るラルスに、何時かシーラデン伯爵やローゼライトがラルスに事実を打ち明けても良いと思える日が来たら公爵から話してほしいと頼まれて。無論、シーラデン伯爵の了解は取っている。


「ローゼライト嬢が貴方の許で研鑽しているとシーラデン伯爵から聞いておりました。今日ラルスに会いに来たのはひょっとしてローゼライト嬢と接触を?」
「ああ。シーラデン領にある薬草園でな」
「そうでしたか」


 納得した公爵にラルスに会わせてほしいと頼んだ。薬草園でローゼライトが生きていると知るも、ヴィクトリアへの好意を勘違いされたまま、このまま自分は死んでいる事にしたまま新しい人生を歩んでほしいとローゼライトに話されたラルスは酷く落ち込んだ様子で帰って行った旨を話した。


「ローゼライトの方もいきなり会ったもんで心の整理がついていなかった。ベルティーニの坊ちゃんをこのままにしておくのも可哀想だと思ってな。余計なお節介だろうが、ローゼライトともう一度会えるようにしてやろうって来たんだ」
「そうですか。実はですね」


 ラルスが立ち直るにはローゼライトともう一度会い、腹の内を全て放出しないと二人は永遠擦れ違ったままとなる。話をして駄目だったらそれはそれでいいというのがダヴィデの考え。
 言い難そうに口を開いた公爵から聞かされたのはヴィクトリアとの婚約の話が浮上しているというもの。
 一年前婚約したヴィクトリアだが、二ヵ月前相手側の事業失敗により莫大な借金が発生した。領地や家財道具の売却により何とか借金返済の目途が立つも、ヴィクトリアを嫁に迎えられる状態ではなくなり、婚約が解消となってしまった。現在新たな婚約者を探している最中でヴィクトリアがラルスの名を出した。ローゼライトを一年前に亡くし、現在も新しい婚約者のいないラルスとは幼馴染で気心が知れている。ベルティーニ家を継がねばならないラルスには必ず妻が、子が必要となる。


「坊ちゃんは知ってるのか?」
「いえ、まだ伝えていません。ローゼライト嬢を未だに引き摺っているラルスに新しい婚約者なんてとても」
「しかし、元々アバーテの娘と婚約する予定だったんだろう?」
「あくまで過去の話です」


 令嬢の額に傷を付けたラルスを𠮟りつけ、元々婚約予定だったヴィクトリアとの縁談を白紙にし、ローゼライトとの婚約を結び付けた。その後悔が公爵にはあるのだろうか、時期を見て話すとする公爵の声色に滲んでいる。


「アバーテ家はベルティーニの坊ちゃんと婚約する気満々なんだろう? もしも、ローゼライトとの関係が改善されたらどうする?」
「その時はその時で考えます。私とて人の親です。ラルスが幸せになれるのなら、何だってしてやりたい」
「そうか」


 実父たるベルティーニ公爵の言質は取った。
 後は本人との会話のみ。
 公爵に中を案内され、ラルスの部屋の前へ着いた。


「礼を言うぜ公爵。今日は万能薬付きのポーションの材料を採取したんだ。完成したら礼代わりにベルティーニ家に届けよう」
「ありがとうございます」


 ダヴィデの作る魔法薬の評判は公爵も知っており、万能薬付きポーションともなれば高額な上に手に入りにくい代物。
 公爵が立ち去るとダヴィデは部屋の扉を叩いた。


「ベルティーニの坊ちゃん。おれだ、ダヴィデだ。お前さんと話がしたい。もしもおれと――」


 話をする気があるなら扉を開けてほしいと言い切る前に開けられた。

 開けたのは無論ラルス。

 薬草園で別れて時間が経っているとは言え、顔色があまりに悪く、目元が濡れている。今の今まで泣いていたのだ。
 ローゼライトが生きていると知った喜びとヴィクトリアへの気持ちを勘違いされたままと知った絶望が交わってどうしようもないのだ。苦笑したダヴィデは取り敢えず部屋に入れてもらった。


「あ……今お茶を運ばせます」
「いや、いい。それよりお前さんは座りな」


 呼び鈴を持とうとしたラルスを阻止し、ソファーに座らせるとダヴィデは向かいに座った。


「おれが今日来たのは、お前さんとローゼライトをもう一度会わせようと思ったからだ」
「ローゼと? もう一度会ってもっ」
「その前に、まずはお前さんの気持ちを正直に聞かせてほしい」


 身を乗り出しローゼライトともう一度会いたいと願うラルスを落ち着かせ、先程ベルティーニ公爵から聞いたヴィクトリアとの婚約について切り出した。ダヴィデの口からラルスに話す許可は貰っている。
 自分とヴィクトリアの婚約が浮上していると初めて聞かされたラルスは愕然とした。


「アバーテの娘が婚約解消したのは知ってたか?」
「え、ええ。噂で耳にはしていました」
「そうか」
「まさか、僕と婚約だなんて……ヴィクトリアが言い出したのでしょうか?」
「みたいだぜ」


「まあ、妥当な判断とは思うぜ」と付け足した。年齢もあまり離れておらず、同じ爵位を持つ者同士。ラルスの婚約者は一年前に亡くなっていて次の婚約者を見つけても良い時期に入っている。ヴィクトリアと婚約してラルスを責める者はいない。


「どうする?」
「……ローゼライトと話をする機会を設けて下さるのなら、僕はもう一度ローゼライトと会って話がしたい」


 ヴィクトリアについてはローゼライトと話をし次第決めるとラルスは話すも、ヴィクトリアと婚約はしないとした。


「僕にとってヴィクトリアは、年上の憧れの女の子に過ぎません。恋愛の対象には見れない……」

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