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何とか真由先輩から指示されたタスクを終え、晴臣と一緒に会社を後にする。
空調の効いた快適なオフィスとは違って、9月の屋外は夜といえど残暑が厳しい。
生暖かい風に頬を撫でられると、無意識に最上階を見上げた。
今日もやっぱり、電気が点いている。
「千歳」
晴臣に呼ばれ、慌てて社屋から目を離すと、差し出された左手。
「ん」
「え?お腹空いたの?私今何も持ってないよ」
「そーじゃなくて。手だよ、手」
「手??」
「手ぇ繋ごうっつってんだよ」
まどろっこしいな。
初めからそう言えばいいのに。
私がポンと手を乗せると、晴臣はごく自然に指を絡め、引っ張るようにして歩き始めた。
さっきLotusで父と遼平くんに付き合っていると嘘の報告をしたときは別として、晴臣と手を繋いで歩くのは子供の時以来だ。
そして、当時とは手の握り方が全然違う。
「…なんか、慣れてるね」
「慣れてない。千歳と手繋いで歩くのなんて、子供の時以来だろ」
そういう意味で言ったんじゃないんだけど。
軽く汗ばんできた晴臣の手から嬉しさが伝わってきて、何も言えなくなる。
「…さっきは悪かった。仮の彼氏なのに調子に乗りすぎた」
「やめてよ。謝られたりしたら逆に恥ずかしいじゃない」
「だよな。それに、満更でもなさそうだったし」
「な…っ!調子に乗らないで!!」
「本当のことだろ。千歳は言葉で伝えるより体で伝えた方が分かりやすいみたいだから」
悔しいけど、それは当たっているかもしれない。
晴臣のキスは、心も体も溶けそうなほど熱くて、激しくて。
言葉で好きと言われる以上に、ダイレクトに晴臣の想いが伝わってきて…。
と、さっきのキスを反芻していると晴臣がニヤけた顔で私を覗き込んできた。
「な、何?」
「いや。この調子なら案外早く『仮』が取れるかなって」
「調子に乗らないでってば!」
「でも今、思い出してただろ?」
痛いところを突かれ、ブワッと顔が赤くなる。
「勝手に頭の中まで覗かないで!!」
「千歳の考えることなんて何でもお見通しだって。『晴臣のキス気持ちよかったー』って思ってたくせに」
「ち、違うもん!!コレと言い、キスと言い、こなれてるって思っただけよ」
繋いでいる手をブンブン振りながら嫌味のつもりで言い放つと、今度は晴臣の顔が赤くなった。
「…?」
「千歳、それってもしかして妬いてる?」
「…え?」
「今まで俺が誰と付き合おうが、気にも留めなかった千歳が…ヤキモチ…」
「な、何でそうなるのよ!?」
「いーから、いーから。そういうことにしとけよ」
「違うってば!!」
「珍しー。ムキになってる」
ダメだ。
何言っても無駄だ。
「心配しなくても、全部千歳との練習台だから。気にするなよ」
こんなことを堂々と言ってのけるなんて。
晴臣は、私が思っているよりずっと悪い男なのかもしれない。
それでも家に着くまでの間、繋いだ手を離さなかったのは、晴臣の大きな手が心地よかったから。
このままずっと繋いでいたら、いつか身も心も自然に結ばれる日が来るかもしれない。
そんな予感をさせながら。
空調の効いた快適なオフィスとは違って、9月の屋外は夜といえど残暑が厳しい。
生暖かい風に頬を撫でられると、無意識に最上階を見上げた。
今日もやっぱり、電気が点いている。
「千歳」
晴臣に呼ばれ、慌てて社屋から目を離すと、差し出された左手。
「ん」
「え?お腹空いたの?私今何も持ってないよ」
「そーじゃなくて。手だよ、手」
「手??」
「手ぇ繋ごうっつってんだよ」
まどろっこしいな。
初めからそう言えばいいのに。
私がポンと手を乗せると、晴臣はごく自然に指を絡め、引っ張るようにして歩き始めた。
さっきLotusで父と遼平くんに付き合っていると嘘の報告をしたときは別として、晴臣と手を繋いで歩くのは子供の時以来だ。
そして、当時とは手の握り方が全然違う。
「…なんか、慣れてるね」
「慣れてない。千歳と手繋いで歩くのなんて、子供の時以来だろ」
そういう意味で言ったんじゃないんだけど。
軽く汗ばんできた晴臣の手から嬉しさが伝わってきて、何も言えなくなる。
「…さっきは悪かった。仮の彼氏なのに調子に乗りすぎた」
「やめてよ。謝られたりしたら逆に恥ずかしいじゃない」
「だよな。それに、満更でもなさそうだったし」
「な…っ!調子に乗らないで!!」
「本当のことだろ。千歳は言葉で伝えるより体で伝えた方が分かりやすいみたいだから」
悔しいけど、それは当たっているかもしれない。
晴臣のキスは、心も体も溶けそうなほど熱くて、激しくて。
言葉で好きと言われる以上に、ダイレクトに晴臣の想いが伝わってきて…。
と、さっきのキスを反芻していると晴臣がニヤけた顔で私を覗き込んできた。
「な、何?」
「いや。この調子なら案外早く『仮』が取れるかなって」
「調子に乗らないでってば!」
「でも今、思い出してただろ?」
痛いところを突かれ、ブワッと顔が赤くなる。
「勝手に頭の中まで覗かないで!!」
「千歳の考えることなんて何でもお見通しだって。『晴臣のキス気持ちよかったー』って思ってたくせに」
「ち、違うもん!!コレと言い、キスと言い、こなれてるって思っただけよ」
繋いでいる手をブンブン振りながら嫌味のつもりで言い放つと、今度は晴臣の顔が赤くなった。
「…?」
「千歳、それってもしかして妬いてる?」
「…え?」
「今まで俺が誰と付き合おうが、気にも留めなかった千歳が…ヤキモチ…」
「な、何でそうなるのよ!?」
「いーから、いーから。そういうことにしとけよ」
「違うってば!!」
「珍しー。ムキになってる」
ダメだ。
何言っても無駄だ。
「心配しなくても、全部千歳との練習台だから。気にするなよ」
こんなことを堂々と言ってのけるなんて。
晴臣は、私が思っているよりずっと悪い男なのかもしれない。
それでも家に着くまでの間、繋いだ手を離さなかったのは、晴臣の大きな手が心地よかったから。
このままずっと繋いでいたら、いつか身も心も自然に結ばれる日が来るかもしれない。
そんな予感をさせながら。
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