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「千歳!」
「ちーちゃん」

私に駆け寄ってくるのも二人ほぼ同時だったけれど、私がいる社長室奥の続き部屋により近い所にいた遼平くんのほうが早かった。

「顔、よく見せて」

両手を私の頬に添え、顔色をチェックする遼平くんも心なしか顔色が悪い。

「…あの、心配と、迷惑かけてごめんなさい」

「ちーちゃんは何も悪くないよ」

顔色に続いて体温を確かめるために額に当てられていた手が、後ろに滑って、優しく頭を撫でた。

「何も悪くないわけないでしょう?ストーカーに狙われてるっていうのに、のこのこ一人で外出して。危機感がなさ過ぎる」

相変わらず晴臣の言うことは本当の事過ぎて、何も言い返せないでいると、代わりに遼平くんが口を開いた。

「でも…今日のことってちーちゃんだけのせいなのかな?」

「…は?」

「さっきの話に戻るけど、ちーちゃんが一人になる可能性があったなら、椎名くんが僕に連絡をくれればこういう事態は避けられたんじゃないかな。いつの間にか僕は椎名くんに随分嫌われているみたいだけど、最優先すべきは君の感情じゃなくて、ちーちゃんの安全だったはずだよ」

遼平くんの言うことも、負けないくらい正論…だけど。

「ごめんなさい。私も真由先輩に一人は危ないから、遼平くんを誘うようにって言われたんですけど。忙しいだろうと思って遠慮してしまって。逆にもっと迷惑を…」

「椎名くんならちーちゃんが遠慮して言わない性格だってことも分かってるはずだよね」

「そう…ですね」

晴臣がギュッと固く拳を握りしめたのが見えた。


「うん、じゃあ、理解してもらえたところで、ちーちゃんの目も覚めたし、早速本題に入るけど…安全確保のためにちーちゃんを秘書課に異動させようかと思ってるんだ。もちろん社長付きの」

それって…私が入社したときに描いていた夢設定そのもの…!

遼平くんへの恋心とお別れしても、遼平くんが素敵な人であることに変わりはない。
今日もピンチのときに助けてくれたし。

不謹慎だし、無意識に目を輝かせてしまわないよう、気をつけながら晴臣の反応を覗うと、絶対零度の眼差し。

「却下です。いくら人事の繁忙期とは言え、今日みたいな日がずっと続くとは限りませんし」

強硬な発言に、社長室の中にチリっと火花が散りかけたところで、晴臣と遼平くんのスマホが同時に通知音を鳴らした。
即座に確認する二人を見ながら、偶然にしてはすごいタイミングだなと感心しているとー

「…そんな悠長なこと言ってる場合じゃないってことか」

晴臣が苛立ちを隠さずに言い放った。

「不本意な形ではあるけど、理解してもらえてうれしいよ」
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