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こんなにあっさりと晴臣が意を翻すなんて。
何となく察した状況に、嬉しさよりも恐怖が勝っても、確かめずにはいられない。
「…何があったの?」
「ちーちゃんは見ないほうがいい」
遼平くんは私から隠すようにスマホをポケットに入れてしまった。
「晴臣!!見せて」
「椎名くん、今は止めておいたほうがいい」
心配して制止してくれた遼平くんには申し訳ないけど、私には確信があった。
晴臣は、私の願いなら聞いてくれると。
険しい顔で晴臣が差し出したスマホのディスプレイには、遼平くんに支えられながら歩く私の写真が映し出されていた。
―やっぱりずっと店内に犯人がいたんだ。
ブワッと鳥肌が立ち、思わず庇うように身を縮めると、晴臣の腕の中に引き寄せられた。
遼平くんとは違う、晴臣のくせに上品かつ爽やかでいて少し甘い香りに包まれていると、段々と心が落ち着きを取り戻し、頭も冷静になってきた。
「…そんなに怖けりゃ犯人が捕まるまで家の中で大人しくしとくか?」
家の中で大人しく?
私、頼まれてポスターのモデルをしただけで、何も悪いことなんてしてないのに?
ブンブンと横に首を振って、自分を奮い立たたせるためにも、顔を上げてハッキリと宣言した。
「イ・ヤ!!」
「…だよな」
晴臣は私の答えが最初から分かっていたのか、諦めの混じった苦笑いをして見せた。
「ちーちゃん、無理しなくてもいいんだよ?」
「無理なんてしてないよ。そりゃあちょっとは怖いけど、仕事も山積みだし、モデルの件も引き受けたからにはちゃんとやりたいし。何より、過剰に怖がって犯人のこと喜ばせたくないし」
「でも…」
「何言っても無駄ですよ。昔からこういうヤツですから。大人しく籠の中に入っててくれれば俺も楽なんですけどね」
晴臣はそう言って心配そうに食い下がる遼平くんを一蹴したかと思ったら、急に背筋を伸ばし、頭を下げた。
「…ってことで、すっごく不本意ですけど、俺が側に居られないときは、千歳のことお願いします」
晴臣の申し出に、遼平くんは、私に微笑みかけながら約束してくれた。
「椎名くんに言われなくても、ちーちゃんは僕にとって大切な姪だし、義兄さんからも頼まれてるんだ。絶対に守るよ」
何となく察した状況に、嬉しさよりも恐怖が勝っても、確かめずにはいられない。
「…何があったの?」
「ちーちゃんは見ないほうがいい」
遼平くんは私から隠すようにスマホをポケットに入れてしまった。
「晴臣!!見せて」
「椎名くん、今は止めておいたほうがいい」
心配して制止してくれた遼平くんには申し訳ないけど、私には確信があった。
晴臣は、私の願いなら聞いてくれると。
険しい顔で晴臣が差し出したスマホのディスプレイには、遼平くんに支えられながら歩く私の写真が映し出されていた。
―やっぱりずっと店内に犯人がいたんだ。
ブワッと鳥肌が立ち、思わず庇うように身を縮めると、晴臣の腕の中に引き寄せられた。
遼平くんとは違う、晴臣のくせに上品かつ爽やかでいて少し甘い香りに包まれていると、段々と心が落ち着きを取り戻し、頭も冷静になってきた。
「…そんなに怖けりゃ犯人が捕まるまで家の中で大人しくしとくか?」
家の中で大人しく?
私、頼まれてポスターのモデルをしただけで、何も悪いことなんてしてないのに?
ブンブンと横に首を振って、自分を奮い立たたせるためにも、顔を上げてハッキリと宣言した。
「イ・ヤ!!」
「…だよな」
晴臣は私の答えが最初から分かっていたのか、諦めの混じった苦笑いをして見せた。
「ちーちゃん、無理しなくてもいいんだよ?」
「無理なんてしてないよ。そりゃあちょっとは怖いけど、仕事も山積みだし、モデルの件も引き受けたからにはちゃんとやりたいし。何より、過剰に怖がって犯人のこと喜ばせたくないし」
「でも…」
「何言っても無駄ですよ。昔からこういうヤツですから。大人しく籠の中に入っててくれれば俺も楽なんですけどね」
晴臣はそう言って心配そうに食い下がる遼平くんを一蹴したかと思ったら、急に背筋を伸ばし、頭を下げた。
「…ってことで、すっごく不本意ですけど、俺が側に居られないときは、千歳のことお願いします」
晴臣の申し出に、遼平くんは、私に微笑みかけながら約束してくれた。
「椎名くんに言われなくても、ちーちゃんは僕にとって大切な姪だし、義兄さんからも頼まれてるんだ。絶対に守るよ」
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