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「ちーちゃん、このアカウントに心当たりは?」

私が小さく首を横に振ると、すぐに驚きの声が上がる。

「えっ!?俺、てっきり蓮見さんのものだと思って…」

「…ここにアップされてる写真、全部カメラ目線じゃないよね。隠し撮りなの、見てわからなかった?」

「いえ…敢えて視線外してるのかと思ってました」

「そう…。もういいから、君は社に戻って、このアカウントのURLを僕のメールアドレス宛てに送っておいて」

「わ、分かりました」

「それから、今日のことは他言無用で」

小宮山くんは、遼平くんの言葉に神妙な顔で頷くと、すぐに店を飛び出していった。

とりあえず最悪の事態は免れた安心感で気が抜けると、恐怖と気持ち悪さが一気にぶり返した。
耐えきれず、再びテーブルに突っ伏すと、さっきよりフゼアの香りが一段と濃くなった。
目だけ動かすと、遼平くんが、店内の視線から私を覆い隠すようにしてテーブルに手を着いている。
その様子を見て、事態が何も好転していないことにハッとさせられた。

一刻も早くこの店から離れないと。

私の動きに気付いた遼平くんが、心配そうに声を掛けてくる。

「ちーちゃん?」

「…まだ犯人が店にいるかもしれないの。遼平くんにも迷惑がかかっちゃう」

「僕のことはいいから、まだ休んでて」

遼平くんが制止するのも聞かず、ふらつく足で立ち上がった。

「無理しないで。車呼ぼうか?」

「ううん、大丈夫。自分で歩ける」

これ以上遼平くんに甘えてはいけない。
そう思って何とか自力で帰社したものの、そこからの記憶はプツリと途切れてしまった。




『バンッ』という騒々しい音に目を開ければ、見知らぬ天井。

「千歳!…千歳は!?」

「落ち着いて。今はまだ隣の部屋で眠っているから」

晴臣の声に続いて聞こえてきた遼平くんの声で、さっきまで自分の身に起きていたことを思い出す。

そっか。
私、結局倒れちゃったのか。

なんてぼんやりしている暇もなく。

「…君がいながらどうしてこんな…なぜ彼女を一人に?」

「10月は内定式準備や定期異動で人事部が忙殺されることなんて、社長なら当然把握されてますよね?」

耳に入ってきたいきなりの険悪過ぎる会話に、寝かされていたソファから跳ね起きる。
反動で立ちくらみがして、目の前が真っ暗になっても、ドアに向かって必死で歩を進めた。

「それならそうと、僕に連絡をくれればいいだろう?事情を知っているんだし、立場上時間の融通だって利くんだから」

「どれだけ忙しくたって、アンタには千歳のことを任せるわけにはいかないんだって」

「…それ、どういう意味?」

一触即発の空気を断ち切るべく、さっきの晴臣に負けないくらい勢い良くドアを開けると、二人が同時にこちらを見た。
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