52 / 173
8ー3
しおりを挟む
「ちーちゃん、このアカウントに心当たりは?」
私が小さく首を横に振ると、すぐに驚きの声が上がる。
「えっ!?俺、てっきり蓮見さんのものだと思って…」
「…ここにアップされてる写真、全部カメラ目線じゃないよね。隠し撮りなの、見てわからなかった?」
「いえ…敢えて視線外してるのかと思ってました」
「そう…。もういいから、君は社に戻って、このアカウントのURLを僕のメールアドレス宛てに送っておいて」
「わ、分かりました」
「それから、今日のことは他言無用で」
小宮山くんは、遼平くんの言葉に神妙な顔で頷くと、すぐに店を飛び出していった。
とりあえず最悪の事態は免れた安心感で気が抜けると、恐怖と気持ち悪さが一気にぶり返した。
耐えきれず、再びテーブルに突っ伏すと、さっきよりフゼアの香りが一段と濃くなった。
目だけ動かすと、遼平くんが、店内の視線から私を覆い隠すようにしてテーブルに手を着いている。
その様子を見て、事態が何も好転していないことにハッとさせられた。
一刻も早くこの店から離れないと。
私の動きに気付いた遼平くんが、心配そうに声を掛けてくる。
「ちーちゃん?」
「…まだ犯人が店にいるかもしれないの。遼平くんにも迷惑がかかっちゃう」
「僕のことはいいから、まだ休んでて」
遼平くんが制止するのも聞かず、ふらつく足で立ち上がった。
「無理しないで。車呼ぼうか?」
「ううん、大丈夫。自分で歩ける」
これ以上遼平くんに甘えてはいけない。
そう思って何とか自力で帰社したものの、そこからの記憶はプツリと途切れてしまった。
*
『バンッ』という騒々しい音に目を開ければ、見知らぬ天井。
「千歳!…千歳は!?」
「落ち着いて。今はまだ隣の部屋で眠っているから」
晴臣の声に続いて聞こえてきた遼平くんの声で、さっきまで自分の身に起きていたことを思い出す。
そっか。
私、結局倒れちゃったのか。
なんてぼんやりしている暇もなく。
「…君がいながらどうしてこんな…なぜ彼女を一人に?」
「10月は内定式準備や定期異動で人事部が忙殺されることなんて、社長なら当然把握されてますよね?」
耳に入ってきたいきなりの険悪過ぎる会話に、寝かされていたソファから跳ね起きる。
反動で立ちくらみがして、目の前が真っ暗になっても、ドアに向かって必死で歩を進めた。
「それならそうと、僕に連絡をくれればいいだろう?事情を知っているんだし、立場上時間の融通だって利くんだから」
「どれだけ忙しくたって、アンタにだけは千歳のことを任せるわけにはいかないんだって」
「…それ、どういう意味?」
一触即発の空気を断ち切るべく、さっきの晴臣に負けないくらい勢い良くドアを開けると、二人が同時にこちらを見た。
私が小さく首を横に振ると、すぐに驚きの声が上がる。
「えっ!?俺、てっきり蓮見さんのものだと思って…」
「…ここにアップされてる写真、全部カメラ目線じゃないよね。隠し撮りなの、見てわからなかった?」
「いえ…敢えて視線外してるのかと思ってました」
「そう…。もういいから、君は社に戻って、このアカウントのURLを僕のメールアドレス宛てに送っておいて」
「わ、分かりました」
「それから、今日のことは他言無用で」
小宮山くんは、遼平くんの言葉に神妙な顔で頷くと、すぐに店を飛び出していった。
とりあえず最悪の事態は免れた安心感で気が抜けると、恐怖と気持ち悪さが一気にぶり返した。
耐えきれず、再びテーブルに突っ伏すと、さっきよりフゼアの香りが一段と濃くなった。
目だけ動かすと、遼平くんが、店内の視線から私を覆い隠すようにしてテーブルに手を着いている。
その様子を見て、事態が何も好転していないことにハッとさせられた。
一刻も早くこの店から離れないと。
私の動きに気付いた遼平くんが、心配そうに声を掛けてくる。
「ちーちゃん?」
「…まだ犯人が店にいるかもしれないの。遼平くんにも迷惑がかかっちゃう」
「僕のことはいいから、まだ休んでて」
遼平くんが制止するのも聞かず、ふらつく足で立ち上がった。
「無理しないで。車呼ぼうか?」
「ううん、大丈夫。自分で歩ける」
これ以上遼平くんに甘えてはいけない。
そう思って何とか自力で帰社したものの、そこからの記憶はプツリと途切れてしまった。
*
『バンッ』という騒々しい音に目を開ければ、見知らぬ天井。
「千歳!…千歳は!?」
「落ち着いて。今はまだ隣の部屋で眠っているから」
晴臣の声に続いて聞こえてきた遼平くんの声で、さっきまで自分の身に起きていたことを思い出す。
そっか。
私、結局倒れちゃったのか。
なんてぼんやりしている暇もなく。
「…君がいながらどうしてこんな…なぜ彼女を一人に?」
「10月は内定式準備や定期異動で人事部が忙殺されることなんて、社長なら当然把握されてますよね?」
耳に入ってきたいきなりの険悪過ぎる会話に、寝かされていたソファから跳ね起きる。
反動で立ちくらみがして、目の前が真っ暗になっても、ドアに向かって必死で歩を進めた。
「それならそうと、僕に連絡をくれればいいだろう?事情を知っているんだし、立場上時間の融通だって利くんだから」
「どれだけ忙しくたって、アンタにだけは千歳のことを任せるわけにはいかないんだって」
「…それ、どういう意味?」
一触即発の空気を断ち切るべく、さっきの晴臣に負けないくらい勢い良くドアを開けると、二人が同時にこちらを見た。
1
あなたにおすすめの小説
溺愛彼氏は消防士!?
すずなり。
恋愛
彼氏から突然言われた言葉。
「別れよう。」
その言葉はちゃんと受け取ったけど、飲み込むことができない私は友達を呼び出してやけ酒を飲んだ。
飲み過ぎた帰り、イケメン消防士さんに助けられて・・・新しい恋が始まっていく。
「男ならキスの先をは期待させないとな。」
「俺とこの先・・・してみない?」
「もっと・・・甘い声を聞かせて・・?」
私の身は持つの!?
※お話は全て想像の世界になります。現実世界と何ら関係はありません。
※コメントや乾燥を受け付けることはできません。メンタルが薄氷なもので・・・すみません。
ハイスぺ幼馴染の執着過剰愛~30までに相手がいなかったら、結婚しようと言ったから~
cheeery
恋愛
パイロットのエリート幼馴染とワケあって同棲することになった私。
同棲はかれこれもう7年目。
お互いにいい人がいたら解消しようと約束しているのだけど……。
合コンは撃沈。連絡さえ来ない始末。
焦るものの、幼なじみ隼人との生活は、なんの不満もなく……っというよりも、至極の生活だった。
何かあったら話も聞いてくれるし、なぐさめてくれる。
美味しい料理に、髪を乾かしてくれたり、買い物に連れ出してくれたり……しかも家賃はいらないと受け取ってもくれない。
私……こんなに甘えっぱなしでいいのかな?
そしてわたしの30歳の誕生日。
「美羽、お誕生日おめでとう。結婚しようか」
「なに言ってるの?」
優しかったはずの隼人が豹変。
「30になってお互いに相手がいなかったら、結婚しようって美羽が言ったんだよね?」
彼の秘密を知ったら、もう逃げることは出来ない。
「絶対に逃がさないよ?」
エリート警察官の溺愛は甘く切ない
日下奈緒
恋愛
親が警察官の紗良は、30歳にもなって独身なんてと親に責められる。
両親の勧めで、警察官とお見合いする事になったのだが、それは跡継ぎを産んで欲しいという、政略結婚で⁉
隠れオタクの女子社員は若社長に溺愛される
永久保セツナ
恋愛
【最終話まで毎日20時更新】
「少女趣味」ならぬ「少年趣味」(プラモデルやカードゲームなど男性的な趣味)を隠して暮らしていた女子社員・能登原こずえは、ある日勤めている会社のイケメン若社長・藤井スバルに趣味がバレてしまう。
しかしそこから二人は意気投合し、やがて恋愛関係に発展する――?
肝心のターゲット層である女性に理解できるか分からない異色の女性向け恋愛小説!
財閥御曹司は左遷された彼女を秘めた愛で取り戻す
花里 美佐
恋愛
榊原財閥に勤める香月菜々は日傘専務の秘書をしていた。
専務は御曹司の元上司。
その専務が社内政争に巻き込まれ退任。
菜々は同じ秘書の彼氏にもフラれてしまう。
居場所がなくなった彼女は退職を希望したが
支社への転勤(左遷)を命じられてしまう。
ところが、ようやく落ち着いた彼女の元に
海外にいたはずの御曹司が現れて?!
包んで、重ねて ~歳の差夫婦の極甘新婚生活~
吉沢 月見
恋愛
ひたすら妻を溺愛する夫は50歳の仕事人間の服飾デザイナー、新妻は23歳元モデル。
結婚をして、毎日一緒にいるから、君を愛して君に愛されることが本当に嬉しい。
何もできない妻に料理を教え、君からは愛を教わる。
ダブル シークレットベビー ~御曹司の献身~
菱沼あゆ
恋愛
念願のランプのショップを開いた鞠宮あかり。
だが、開店早々、植え込みに猫とおばあさんを避けた車が突っ込んでくる。
車に乗っていたイケメン、木南青葉はインテリアや雑貨などを輸入している会社の社長で、あかりの店に出入りするようになるが。
あかりには実は、年の離れた弟ということになっている息子がいて――。
【完結】退職を伝えたら、無愛想な上司に囲われました〜逃げられると思ったのが間違いでした〜
来栖れいな
恋愛
逃げたかったのは、
疲れきった日々と、叶うはずのない憧れ――のはずだった。
無愛想で冷静な上司・東條崇雅。
その背中に、ただ静かに憧れを抱きながら、
仕事の重圧と、自分の想いの行き場に限界を感じて、私は退職を申し出た。
けれど――
そこから、彼の態度は変わり始めた。
苦手な仕事から外され、
負担を減らされ、
静かに、けれど確実に囲い込まれていく私。
「辞めるのは認めない」
そんな言葉すらないのに、
無言の圧力と、不器用な優しさが、私を縛りつけていく。
これは愛?
それともただの執着?
じれじれと、甘く、不器用に。
二人の距離は、静かに、でも確かに近づいていく――。
無愛想な上司に、心ごと囲い込まれる、じれじれ溺愛・執着オフィスラブ。
※この物語はフィクションです。
登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる