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「蓮見さんが珍しく一人でランチ食べてるって知って、飛んで来ちゃった」
小宮山くんの言葉に返事もせずに、店内を素早く見回す。
でも、どれが犯人かなんて分かりっこない。
それに、犯人は一人とは限らない。
お客さんとも限らないし、さっきオムハヤシライスを運んできてくれた店員さんかもしれない。
恐怖と緊張で、どんどん呼吸が浅くなっていく。
「新しいアカウントまで作って、こんな写真アップするってことは、実は蓮見さん、椎名のこと迷惑に思ってたりして」
そんなこと、あるわけない。
晴臣が今ここに居てくれたら、どれだけ心強いか。
『何で肝心なときに居ないのよ!』と叫びたい気持ちを何とか堪え、小宮山くんに尋ねる。
「あ、新しいアカウント…?」
「うん。3日前くらいに開設してたよね?俺、速攻フォローしたよ」
もちろん全く心あたりなんてない。
個人的なSNSも、犯人を突き止めるために残してはいるものの、更新はしていない。
震える手で小宮山くんのスマホを受け取り、冷えきった指先で画面をスワイプすると、そこにはやはり身に覚えのない『私』のアカウントが存在していた。
なりすましだー
さっきと同じ、いや、それ以上の戦慄が走った。
体からは一気に血の気が引いていく。
座っていることさえ辛くなり、料理の乗ったお皿をよけてテーブルに突っ伏した。
「えっ!?蓮見さん?どうしたの?大丈夫!?」
小宮山くんが、肩を抱くようにして呼びかけてくる。
純粋に心配してくれているのかもしれないけれど、気持ちが悪い。
『触らないで』と言いたいけれど、声が出ない。
晴臣、何とかしてー!!
心の中で絶叫したと同時に、「退いて」という声と共に小宮山くんの手が離れた。
その手と入れ替わるように薄手のジャケットが肩にそっと掛けられ、フゼアの香りにふわりと包まれる。
この香りは確かに覚えがある。
ーでも
「…彼女に何を?」
頭上で響く声は、人違いかと思わせるほど冷徹だ。
「お、俺は何も!話をしていたら蓮見さんが急に具合悪そうにテーブルに伏せたから、心配して声をかけていただけです」
小宮山くんの方もさっきまでとは別人並に軽薄さは影を潜め、緊張感のある声になっている。
ということはー
石のように重い頭をゆっくり上げると、やはりそこに立っているのは遼平くんだった。
「本当にただ話をしていただけ?」
「ほ、本当です」
「じゃあ、どうして彼女はこんなことに!?」
あまりの迫力に、小宮山くんは完全に萎縮してしまったらしい。
当の遼平くんはといえば、今にも小宮山くんに掴みかかりそうな形相をしている。
ダメ。
本当にそんなことになって、まだこの場にいるかもしれないなりすまし犯に写真をアップされたらどうなる?
遼平くんは立場のある人なのに。
「違う…」
何とか声を絞り出すと、遼平くんはすぐに私の方に向き直った。
「ちーちゃん?大丈夫?」
「…本当に、小宮山くんのせいじゃないの」
「じゃあ一体何が?」
小宮山くんが手にしているスマホに手を伸ばすと、小宮山くんはギョッとして身構えた。
「お、俺は何も…!」
「そうじゃなくて。スマホを、社長に。さっきのSNS」
小宮山くんからスマホを受け取った遼平くんは目を見開いた。
小宮山くんの言葉に返事もせずに、店内を素早く見回す。
でも、どれが犯人かなんて分かりっこない。
それに、犯人は一人とは限らない。
お客さんとも限らないし、さっきオムハヤシライスを運んできてくれた店員さんかもしれない。
恐怖と緊張で、どんどん呼吸が浅くなっていく。
「新しいアカウントまで作って、こんな写真アップするってことは、実は蓮見さん、椎名のこと迷惑に思ってたりして」
そんなこと、あるわけない。
晴臣が今ここに居てくれたら、どれだけ心強いか。
『何で肝心なときに居ないのよ!』と叫びたい気持ちを何とか堪え、小宮山くんに尋ねる。
「あ、新しいアカウント…?」
「うん。3日前くらいに開設してたよね?俺、速攻フォローしたよ」
もちろん全く心あたりなんてない。
個人的なSNSも、犯人を突き止めるために残してはいるものの、更新はしていない。
震える手で小宮山くんのスマホを受け取り、冷えきった指先で画面をスワイプすると、そこにはやはり身に覚えのない『私』のアカウントが存在していた。
なりすましだー
さっきと同じ、いや、それ以上の戦慄が走った。
体からは一気に血の気が引いていく。
座っていることさえ辛くなり、料理の乗ったお皿をよけてテーブルに突っ伏した。
「えっ!?蓮見さん?どうしたの?大丈夫!?」
小宮山くんが、肩を抱くようにして呼びかけてくる。
純粋に心配してくれているのかもしれないけれど、気持ちが悪い。
『触らないで』と言いたいけれど、声が出ない。
晴臣、何とかしてー!!
心の中で絶叫したと同時に、「退いて」という声と共に小宮山くんの手が離れた。
その手と入れ替わるように薄手のジャケットが肩にそっと掛けられ、フゼアの香りにふわりと包まれる。
この香りは確かに覚えがある。
ーでも
「…彼女に何を?」
頭上で響く声は、人違いかと思わせるほど冷徹だ。
「お、俺は何も!話をしていたら蓮見さんが急に具合悪そうにテーブルに伏せたから、心配して声をかけていただけです」
小宮山くんの方もさっきまでとは別人並に軽薄さは影を潜め、緊張感のある声になっている。
ということはー
石のように重い頭をゆっくり上げると、やはりそこに立っているのは遼平くんだった。
「本当にただ話をしていただけ?」
「ほ、本当です」
「じゃあ、どうして彼女はこんなことに!?」
あまりの迫力に、小宮山くんは完全に萎縮してしまったらしい。
当の遼平くんはといえば、今にも小宮山くんに掴みかかりそうな形相をしている。
ダメ。
本当にそんなことになって、まだこの場にいるかもしれないなりすまし犯に写真をアップされたらどうなる?
遼平くんは立場のある人なのに。
「違う…」
何とか声を絞り出すと、遼平くんはすぐに私の方に向き直った。
「ちーちゃん?大丈夫?」
「…本当に、小宮山くんのせいじゃないの」
「じゃあ一体何が?」
小宮山くんが手にしているスマホに手を伸ばすと、小宮山くんはギョッとして身構えた。
「お、俺は何も…!」
「そうじゃなくて。スマホを、社長に。さっきのSNS」
小宮山くんからスマホを受け取った遼平くんは目を見開いた。
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