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本当の嘘

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それも、ありかもしれない。

間違いなく今日はこれまで私が生きてきた中で最良の日だ。

コンタクトを割ろうが、長年ビッチだと思われていた事実が判明しようが、それよりも何よりも、高嶺くんが私に対してどんな気持ちでいてくれたのかを知れたのが嬉しかった。

だから、このまま高嶺くんの腕の中で死ねたら、本望だ。

そんなはしたない気持ちを抱いたことを、見抜かれたのだろうか。

お互いの前髪が触れる距離で、視線が絡み合う。
そして、どちらからともなく唇を重ねた。

「─ん、ハァ…んっ、んんっ」

徐々にキスを深めていきながら、高嶺くんが私の体をゆっくりとベッドに押し倒す。

『抱き殺したい』って言ってたくらいだから、本当はもっと性急にコトを進めたいはずだ。
でも、私が『穴』とか言っちゃったから、高嶺くんなりに我慢してくれているんだろう。
と、一人感慨に耽っていたら。

「本当は髪の毛一本一本に名前書きたいくらいだけど、これで我慢する」

と意味不明な宣言をした高嶺くんが、突然私の首に吸い付いた。
途端、ゾクゾクと悪寒に似た何かが背筋を駆け上る。

「ぅっ、わっ!ちょ、やめ…そこ、くすぐったい!!」

「…やっぱりココも未開発か」

たまりかねて首を竦めても、恍惚の表情を浮かべた高嶺くんが止まる気配はない。
寧ろどんどんエスカレートしていき、甘噛みまでされる始末。

ダメだ。
このままじゃ抱き殺される前に笑い死にそう。

そんな私を救ったのは、スマホのバイブ音だった。

「たっ、高嶺くんっ!!ひっ、電話!鳴ってる!!」

「こういう時は『景』って呼べって。ていうか、常日頃から呼べ」

「無理ぃひひひっ!!そんなっ、ことしたらずっと変な気分になる!」

「変な気分って…もしかして、『ただの穴』とか言いながら、俺が『静花』って呼ぶ度にエロい事考えてた?」

艶を纏った声で尋ねながら鎖骨の上の窪みをツーッと舐められたとき、脳が、これまでとは明らかに違う類の感覚を捉えた。

「ンンンんっ!?」

思わず変な声が出た。
なんか、ダメだ。
ダメなやつキタ。

「静香…今のって」

気づかないはずのない高嶺くんの目がランランと輝いている。

「…っいいから早く、電話!!」

私にしては強めの口調で、慌てて誤魔化す。

『どうせろくな電話じゃない』とボヤきながら高嶺くんが出た電話それは、被疑者国選事件の当番とかいうのが回ってきたという連絡だったらしい。

「まじで行きたくない。窃盗。しかも被害額1000円未満とか…。結局弁当も食ってないし」

「じゃあこれ持って行って。後でオフィスで食べて」

「…ん」

玄関でお弁当を渡すと、高嶺くんは受け取ったのと反対側の手で私の頭を引き寄せた。

ちゅ。

4回目は、触れるだけの軽いキス。

「行ってくる」

「いっ…てらっしゃい」

初めての恋人らしい別れ際。
玄関のドアが閉まった後も、私はしばらくその場を動けないでいた。
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