forgive and forget

恩田璃星

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大人のお遊戯でトラウマ克服編

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 ぐ…。
 言い返したいのに、何も出てこない。

 それを見た冬馬が、もう一度紙袋を私の胸にグッと押し付けた。

 「デカくなってく春馬を見てて、いつかこうなるんじゃないかと思ってた。それに、さすがに今なら…」

 押し付けられたままの紙袋にイラついて、つい途中で口を挟む。

 「だからって、セーラー服と何の関係があるのよ?」

 いつも真っ直ぐに私を見つめる瞳を、少しだけ伏せて冬馬が答えた。


 「…今ならちゃんとやり直せるかと思って」

 「え?」

 「再会した年の俺の誕生日、お前言ったじゃん。屈辱とか、絶望とか、由佳さんが羨ましいとか」

 言った本人が忘れ去っていた恨み言の一つ一つを、冬馬が覚えているなんて。

 肯定も否定もできず、俯くしかできない。

 「だから、時間は戻せねえけど、シチュエーションくらいと思って」

 それで、セーラー服と保健室というわけらしい。
 でも、それなら…

 「何で冬馬は学ランじゃないのよ!」

 「バカ。サイズ的に入るか!女と男じゃ高校での成長具合が違うだろ。俺高校はブレザーだし。しかもお前春馬でぶっ倒れたんだから、俺の学ラン姿見たら死にかねない」

 「………確かに」

 「おい!そこは否定するところだろ!」


 それから一頻ひとしきりギャーギャーと言い合ったけれど、結局紙袋と一緒に脱衣所的なところに放り込まれた。
 そして、トドメの一言。

 「さっさ着替えないと18時に来客アポ入ったみたいだぞ」

 「え?嘘!?」

 慌ててスマホでスケジュールを確認すると、出掛ける前にはなかったアポが、確かに入れられていた。

 冬馬はもはや私のスケジュールを覗いているわけじゃないらしい。
 多分、メールアドレスとパスワードを入手して、私のスケジュールそのものを見てる…。
 恐るべき粘着体質…。

 おまけに18時からの来客は、顧問先で、変更してもらうのは難しそうだ。

 ついに諦めた私は、四半世紀ぶりにセーラー服に袖を通した。 



 どこから調達したのか(…って、そんなの優子さん以外にいないんだけど)、ご丁寧に中学の時当時と同じ白い靴下まで入っていた。

 姿見に映る自分の姿は、冬馬の言うとおり、想像していた程イタくない。
でも、本当にあの日の自分に戻ってしまったような気がして、指先が冷たくなるのを感じた。

 恐怖からなのか、羞恥からなのか、脱衣所をなかなか出られない。
 
 こうしていても、ただ時間が過ぎて行くだけで、何の解決にもならないことは分かっている。

 予想に反して、冬馬が急かすことなく、覚悟を決めて自分の手でドアを開けると、目の前に立っていた冬馬に思い切りぶつかった。

 「うわっ、ごめん冬馬」

 謝りながら見上げると、冬馬が思い切り後ずさった。

 「え?冬馬!?」

    様子を見ようと冬馬に向かって一歩踏み出した途端ー

 「…っ、来るな!!」

 冬馬のひきつった声で、私の足はピタリと止まった。
 


 想像していた程イタくないと思ったのは私だけで、冬馬的には見るに耐えなかったのだろうか。
 それにしたって、こんな格好しろと言ってきたのは冬馬なのに。
 恥ずかしくて、穴を掘ってでも入りたい。
 
 「ご、ごめん!!やっぱ無理があるよね!!着替えてくる!!」

 「そうじゃねえから着替えるな!!」

 口で引き止めてくる割に、腕を掴まれるわけでもなく、冬馬と私の距離は変わらない。

 「…じゃあ、何?」

 ゆっくりと振り返って問いかけると、冬馬の顔は赤くなりながら青ざめていた。

 「…その格好で名前なんか呼ぶな」

 「は??」

 「…結婚して、ガキまでいて…毎晩抱いてるし、さすがにもう大丈夫と思ってたのに…ヤバい」

 どこかで聞いたことあるようなフレーズだと思ったものは、昨日春馬の学ラン姿を見た私が自己嫌悪したときのそれだ。
 それにしても、冬馬は何に戸惑ってるの?

 「ヤバいって、何で冬馬がヤバいの?」

    「その格好のお前には、名前はおろか苗字すら呼ばれたことねーから、…マジで…やばい」

    「え?」

 「…また、無理やり犯しそう」





※本頁以降からは、読者の皆様の脳内において、都合よく若返りフィルターをかけてお楽しみください。


 「ちょ、ちょちょちょ、待って、冬馬っ!!落ち着いて!!別のトラウマできる!」

 完全にスイッチの入ってしまった冬馬は、私を軽々と担ぎ上げて、保健室仕様のベッドに押し倒した。
 そのまま、切なげでいて、燃えるような瞳と視線が絡んだと思ったら、すぐに口の中深くまで冬馬の舌が侵入してきた。

「ん、んぅっ、ハアッ…冬…んっ、んっ…待っ…んんんっ!!」

止まって欲しくて、肩を掴んで思い切り押し返す。
あの時より、がっしりとした体は、びくともせず、逆に両手を頭の上で纏められてしまった。

 「園宮っ、園宮…っ!!」

 いつもと違う呼び方
部屋に漂う、消毒液の香り
硬くて白いシーツの感触

全てが、しまいこんでいたあの日の記憶を、引き連れて来る。

 いやだ。
 やめて。

 冬馬がキスの角度を変えるために、唇を離したほんの、一瞬。
 私は思い切り息を吸って、叫んだ。
 
 「冬馬っ!!」

 
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