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対峙(仁希Side)
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☆目の前で凛を攫われてしまった後の仁希目線のお話です☆
本当に俺はどうしようもない大馬鹿野郎だ。
何で今の今まで気づかなかった?
凛こそが、俺が長年探していた天使だったなんて。
多分、兄貴はそのことに気付いていない。
ということは、凛は兄貴に背中を見せていないということだ。
初めて抱いた時と今日、二度確認し、凛は二度とも見せていないと言っていたが、俺は正直信じていなかった。
だって、三年も付き合っていて、結婚まで考えていた相手だと言っていたから。
それが兄貴だと思うと腑が煮えくり返りそうになると同時に、凛がその兄貴にさえ全てを見せられなかったほどのコンプレックスを抱えていたと思うと、胸が潰れそうになる。
そして俺は、痛々しく残る傷跡を前に、これ以上ないほど動揺してしまった。
直前に、凛の他には誰も要らないと─
凛を疎ましく感じるとまで言ってしまっていたから。
その舌の根の乾かぬうちに、俺が長年探していた女性が凛だったとは、とてもじゃないけれど言えなかった。
その結果、今度は凛の心を傷つけてしまった。
こんなことになるなら最初に抱いた時、いつものようにちゃんと確認すれば良かったと後悔してももう遅い。
家柄で線を引いていたのは他の誰でもなく、俺だったのだ。
でも、どういうことだ?
凛は俺と釣り合わない第一の理由に家柄も入れていた。
国会議員の孫であれば、何の問題もないはずだ。
それに、兄貴の結婚相手が凛というのも気になる。
分からないことが多すぎる。
だけど─
今はとにかく凛を追いかけなければ。
凛に続いてアパートを飛び出し、あと少しで追いつくというところで、あろうことか凛が目の前で攫われてしまった。
不審者を警戒していたはずなのに。
おまけに凛の部屋も空き巣に入られたように荒らされていたのに。
自分の馬鹿さ加減がつくづく嫌になる。
後部座席にはスモークが貼ってあって、中の様子は全く分からない。
「凛っ!!」
必死で追いかけても、人間の足で猛スピードの車に追いつけるはずもなく。
凛を乗せた車はすぐに見えなくなってしまった。
すぐに警察に通報、と思ってスーツの胸ポケットを探そうとするが、スマホがない。
大慌てでアパートを飛び出したのでスーツ自体置いてきてしまったらしい。
そこでハタと己の姿に気が付く。
シャツの胸元はだけまくり。
スラックスのホックは留まっているが、チャック全開。
おまけに、いろんな興奮のせいで下半身が超臨戦態勢のまま。
こんな状態で警察呼んだら、俺が捕まる。
ちょっと頭が冷静さを取り戻してきた。
…あれ?
もしかして、俺の方が不審者と思われた??
黒塗りセダン、俺から凛を守った?
それに、凛を連れ去った車は、最上級クラスの黒塗りセダンだった。
少なくとも身代金目的ではなさそうだ。
それに、凛が昔言っていた。
"昔誘拐されたことがあるから、知らない人の車には乗らない”
俺の推測が正しければ、凛の安全は担保されている。
つまり、凛を連れ去ったのは多分─
とりあえず胸ボタンを留め、無理やりチャックを上げると、大急ぎで凛の部屋に戻って電話をかけた。
「もしもし、兄さん?…俺だけど。大事な話があるんだ。今から実家に行くから」
*
タクシーの運転手を急かし、1時間も経たないうちに郊外にある実家に戻ってきた。
ここには、大学に入って一人暮らしを始めてから、年に一度帰るか帰らないか。
その理由はもちろん、連日凛を探していたから。
どうせ両親も多忙でほとんど留守だったし。
兄は、使用人のいる実家の方が学業に専念できると言って、実家から大学に通い、大学院卒業後も同じ理由で実家暮らしを続けていた。
「お帰り、仁希。珍しいな。でも、ちょうど良かった。俺も仁希に大事な話があったんだ」
先手必勝。
話の主導権を握らせないために、こちらから核心に切り込む。
「大事な話って…、兄さんの見合い相手のこと?」
「…ああ、もしかして、凛から聞いた?」
俺の揺さぶりにも全く動じない。
いつもどおりの穏やかな兄のまま。
「もしかして、さっき仁希も凛のアパートに行った?」
こっちは兄貴が凛を呼び捨てる度にブチ切れそうなのに─
「あそこ、古くて狭いよね。壁も薄いから、アレのとき大変じゃない?」
本当に俺はどうしようもない大馬鹿野郎だ。
何で今の今まで気づかなかった?
凛こそが、俺が長年探していた天使だったなんて。
多分、兄貴はそのことに気付いていない。
ということは、凛は兄貴に背中を見せていないということだ。
初めて抱いた時と今日、二度確認し、凛は二度とも見せていないと言っていたが、俺は正直信じていなかった。
だって、三年も付き合っていて、結婚まで考えていた相手だと言っていたから。
それが兄貴だと思うと腑が煮えくり返りそうになると同時に、凛がその兄貴にさえ全てを見せられなかったほどのコンプレックスを抱えていたと思うと、胸が潰れそうになる。
そして俺は、痛々しく残る傷跡を前に、これ以上ないほど動揺してしまった。
直前に、凛の他には誰も要らないと─
凛を疎ましく感じるとまで言ってしまっていたから。
その舌の根の乾かぬうちに、俺が長年探していた女性が凛だったとは、とてもじゃないけれど言えなかった。
その結果、今度は凛の心を傷つけてしまった。
こんなことになるなら最初に抱いた時、いつものようにちゃんと確認すれば良かったと後悔してももう遅い。
家柄で線を引いていたのは他の誰でもなく、俺だったのだ。
でも、どういうことだ?
凛は俺と釣り合わない第一の理由に家柄も入れていた。
国会議員の孫であれば、何の問題もないはずだ。
それに、兄貴の結婚相手が凛というのも気になる。
分からないことが多すぎる。
だけど─
今はとにかく凛を追いかけなければ。
凛に続いてアパートを飛び出し、あと少しで追いつくというところで、あろうことか凛が目の前で攫われてしまった。
不審者を警戒していたはずなのに。
おまけに凛の部屋も空き巣に入られたように荒らされていたのに。
自分の馬鹿さ加減がつくづく嫌になる。
後部座席にはスモークが貼ってあって、中の様子は全く分からない。
「凛っ!!」
必死で追いかけても、人間の足で猛スピードの車に追いつけるはずもなく。
凛を乗せた車はすぐに見えなくなってしまった。
すぐに警察に通報、と思ってスーツの胸ポケットを探そうとするが、スマホがない。
大慌てでアパートを飛び出したのでスーツ自体置いてきてしまったらしい。
そこでハタと己の姿に気が付く。
シャツの胸元はだけまくり。
スラックスのホックは留まっているが、チャック全開。
おまけに、いろんな興奮のせいで下半身が超臨戦態勢のまま。
こんな状態で警察呼んだら、俺が捕まる。
ちょっと頭が冷静さを取り戻してきた。
…あれ?
もしかして、俺の方が不審者と思われた??
黒塗りセダン、俺から凛を守った?
それに、凛を連れ去った車は、最上級クラスの黒塗りセダンだった。
少なくとも身代金目的ではなさそうだ。
それに、凛が昔言っていた。
"昔誘拐されたことがあるから、知らない人の車には乗らない”
俺の推測が正しければ、凛の安全は担保されている。
つまり、凛を連れ去ったのは多分─
とりあえず胸ボタンを留め、無理やりチャックを上げると、大急ぎで凛の部屋に戻って電話をかけた。
「もしもし、兄さん?…俺だけど。大事な話があるんだ。今から実家に行くから」
*
タクシーの運転手を急かし、1時間も経たないうちに郊外にある実家に戻ってきた。
ここには、大学に入って一人暮らしを始めてから、年に一度帰るか帰らないか。
その理由はもちろん、連日凛を探していたから。
どうせ両親も多忙でほとんど留守だったし。
兄は、使用人のいる実家の方が学業に専念できると言って、実家から大学に通い、大学院卒業後も同じ理由で実家暮らしを続けていた。
「お帰り、仁希。珍しいな。でも、ちょうど良かった。俺も仁希に大事な話があったんだ」
先手必勝。
話の主導権を握らせないために、こちらから核心に切り込む。
「大事な話って…、兄さんの見合い相手のこと?」
「…ああ、もしかして、凛から聞いた?」
俺の揺さぶりにも全く動じない。
いつもどおりの穏やかな兄のまま。
「もしかして、さっき仁希も凛のアパートに行った?」
こっちは兄貴が凛を呼び捨てる度にブチ切れそうなのに─
「あそこ、古くて狭いよね。壁も薄いから、アレのとき大変じゃない?」
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