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がるふ

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幻想世界での光

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一通りウォレスがリュウセイのタイズミコンを観察し終えると、満足した様子で本を返してきた。

「すごいね。勝手にページに記載されたり、カードが出てきたりとか、また見せて!」
「いいよ」
「それじゃ、二人とも行くか」

ラウが食器をまとめて持ち、俺とウォレスを促した。
俺とウォレスはラウの後ろに続き、食器を戻したあと、厨房に向かって「ごちそうさまでした。ありがとうございます」と声をかけると、厨房の中の狐獣人の夫婦が驚いたようにこちらを見て、顔を見合わせて笑顔を浮かべてくれた。

ラウとウォレスも驚いたようにこちらを見たが、二人とも何か納得したように微笑んだ。
そのまま宿屋の外に出ると、ラウとウォレスがリュウセイの方を見てきた。

「リュウ。ごちそうさまってなんだ?それに、ああいう挨拶をするやつは初めて見た」
「僕もだよ、リュウセイ。お礼をしっかり言うのって、かっこいいね!」
「あ、あぁ。なんか……無意識に出た言葉だったんだよな」

前世での習慣がつい出てしまい焦ったが、二人に悪い印象を与えていないようで、内心ほっとした。

「『ごちそうさま』は、料理を作ってくれた人や、食材の命に対して感謝を込めた言葉なんだ」
「なるほど。確かに俺たちは命をもらってるな」
「多方面に敬意を示す言葉でもあるんだね。素敵じゃん」

ラウとウォレスの好意的な反応に、前世では当たり前だったことがここまで褒められることに驚きつつも、どこか誇らしい気持ちになった。

「それじゃラウドにリュウセイ。まずはポイズンアーマーボアの対策しよう。」
「それなら毒消し草だな。群生地を知ってるからそこに行こう」
「さすが物知りだなラウ。助かる。」
「じゃあラウド案内お願い!」

ラウドの案内に従って毒消し草の群生地へ向かった。
到着するとラウドのいう通り毒消し草ゾナグラスが大量に群生しており、三人で採集を始める。
少し時間がたった後ウォレスが興味深そうに一つの花を見ていた。

「ん?この花ほかの植物より魔力を感じる。ラウド!これなんの花か知ってる?」
「ウォレスどうかしたか?この花か、眠盗草パーミの花に似てるが違うな。」

二人の様子に気付いた俺は近づき覗いてみた。
そこにはオレンジと濃いオレンジの花弁が目立つ菊のような花が淡い光を放っていた。
ウォレスがその花を採集しようと花をつかんだ瞬間に消えてから離れた位置に現れ、光を放ち見た目が変わった。
それから花弁が5枚になり、紫の色へ変わりまったく別の花になった。

「今の見た?」
ウォレスが目を輝かせながら俺とラウを見つめた。

「見たよウォレス。変わったな」
俺は見た目が変わった花を観察しながら答えた。

「今の消えたよな?つかんだら消える花なんて聞いたことないぞ?」
ラウは腕を組み移動した花を興味深々に見ていた。

「これは不思議だね。なんていう花なんだろう」
またウォレスは花を掴んで採集しようとするとまた消え移動する。
そしてまた姿を変え今度は先ほど採集していた毒消し草ゾナグラスに見た目が変わった。

「これはさっき集めてた毒消し草ゾナグラス。」
「えー!毒消し草ゾナグラスになった。」
毒消し草ゾナグラスだな。」
俺たちは興味深く観察する。

「ウォレスこういう植物が魔力を持つのは普通なのか?」
「いや、これはすごくレアなパターンじゃないかな。普通はこの世界にあるものは生まれた時から魔力の持てる量は決まってるんだ。だからその質問は普通…って答えるんだけどこの花は見た目が変わるたびに魔力の量が変わってるから常識がひっくり返ってる。これは研究して報告したらいろいろ学問的に波紋を呼びそう。」
ウォレスは採集しようと何度もつかむがそのたび移動しては変化を続ける。
「うーん。なんで掴めないんだろう?何かに反応してるのかな?」
ウォレスが自分の体をぺたぺた触り、首を傾げた。
「ラウドとリュウセイは掴める?」
そういうとラウが近づき掴んでみるが消えてしまい違う場所に現れると見た目が変わった。
「ダメだな。」
「俺がやってみるか」
俺が花を掴むと一瞬であたりが真っ暗になり、黒い空間の中で俺が花を掴み立っていた。
「ん?何が起こった?!」

-ミツケタ ゴシュジン -

暗闇の中に声が響く。幼い子供の声に聞こえる

-ボクタチ ナカマ マダ タクサン-

「なんだって?まだたくさん?」

-ミツケテ ミンナ マッテル-

声が暗闇に響くと同時に現実に戻されるような感覚になり手の中で花が光を放つ

「うわっ」
「リュウっ!!」

ウォレスは驚き、ラウは俺に手を伸ばす。
俺もまぶしい光で花を掴んでない手で目を覆う。
光が収まると掴んでた花が消え一枚のカードに変わっていた。

カード見ると植物プランツと記載されたおり、絵柄あまたの植物を抱く小さな妖精のような生き物が描かれていた。
そしてカード下には[RYUSEI'S CARDS]と書き記されていた。

[オリジンズカードの入手を確認しました。登録します。]

そう声が聞こえるとカードが光を放ちながらタイズミコンへ入っていった。

「何が起こった?」
「いや聞きたいのは僕だよ!」
ウォレスが耳をピコピコ動かし手をブンブン振りながら僕に言った。

その姿を微笑ましく見つめるラウドはまるで前世の親友の優しい表情に重なった。

「リュウ大丈夫か?」
俺はリュウセイの背中に手を伸ばし優しく撫でる。
自分撫でる手にリュウセイの背中のぬくもりが伝わり、その温かさに寄り添うように心の奥が温まる感覚に気付いた。

―この感じは何だろう…。とても大切な感覚ってだけはわかる

そういえばリュウセイと一緒に宿屋で休んだ時にも感じた気がする。
この感覚は手放したらダメだ。

「あぁ、俺は大丈夫。」

リュウセイが同じように俺の背中を優しくなでてくれた。
さっきの温かさがより鮮明に強く感じる。
俺への優しさが陽だまりのように広がり伝わってくる
その感覚を噛みしめた。

リュウセイがタイズミコンを開きページをめくっていると驚いた表情になり視線をタイズミコンに移した。

オリジンズカード一覧
植物プランツ
植物をつかさどるカード。
グリムハウルに存在する植物を本物同様に生成でき、近場の植物を操れる
成長、肥大化、硬化様々な変化をさせることができる。

「ページが増えてる…」

タイズミコンに先ほどのカード絵と説明が記載されてるページが現れた。

「これ二人は読めるか?」
俺はラウとウォレスにその新しいページを見せてみた

「これはさっきのカードの絵?文字みたいのなのが書いてあるのわかるけど読めない…この文字は見たことないよ!」
「俺も絵はわかるが文字は読めない。なんて書いてあるんだ?」
「どうやらこのカードは植物を操ったり、生成したりできるそうだ」

俺は今起きた現象に驚きながらも二人に説明する。
ウォレスは目を輝かせながら文字を見つめていた。

「これがここまでくる道中に話してたページが増える現象なんだね!すごい!これは絶対アーティファクトだよ!」
ウォレスが興奮をしている。先ほどここまでくる前にこのタイズミコンについて説明して半信半疑だったウォレスだったが、今はもうその影もない。

「ちなみにもう使えるの?どんな風になるか見てみたいんだけどできる?」
ウォレスの興奮は止まず目を輝かせながら俺を見てきた。

「使ってみるか…」

タイズミコンのオリジンズカードのページを開きながら毒消し草ゾナグラスを想像すると、タイズミコンからカードが出てきて光を放つとゆっくり空いていた左手へ移動し毒消し草ゾナグラスが生成された。

「ホントに出てきた。それにめちゃくちゃ品質よくない?ラウド見てみて」
「これは…見ただけで品質の良さが伝わってくる。状態がかなりいいな、まるで誰かが効果を向上させるために手を加えて育てた感じだ。」
ラウは腕を組み興味深く観察する。

「そうなのか…」
「次は植物を操るのみたい!」
ウォレスが輝く目を驚いてる俺を気に留めないままぐいぐい顔を近づけてくる。
俺はウォレスに少しあきれながらも周りを見回したそこで大樹に巻き付いている蔓を見つけタイズミコンから植物プランツのカード出した。
それを蔓に向け伸びて早く絡みつけと念じると蔓は一瞬で太くなり目にもとまらぬ速さで隣の大木に巻き付いた。

「結構早く反応してくれるな。これは戦闘で使えそうだな」
ラウが顎を手で触りながら色々考えこんだ。
「だけどその場に蔓がないと使えないかもしれないからその場所をよくみて使うよ」
そうラウにいうとにっこりと笑い俺の頭をガシガシと撫でた。
「確かにリュウは考え方が柔軟ですごいな」

そうして俺は新しい力を手に入れ二人とあたりの毒消し草ゾナグラスをもう少し集めてその場を後にした。
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