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塔の内部を満たしていた静寂が細かいひび割れの音に取って代わっていく。
アウルティスは、壁の向こうに広がる外界の気配を知らない。知っているのは、天井を撫でるように巡る魔力と、それを監視する球体だけだった。
その球体に今、少し亀裂が入った
「……何をしている」
声を向けても、球体は返事をしない。
いつもなら規則的に明滅し、彼の生活すべてを管理するように動くくせに。それがいま、制御を失った心臓のように波打っている。
胸の奥に、理由のない落ち着かなさが広がった。
理解はできない。ただ、これまでとは違う何かが、塔そのものを軋ませていることだけは分かった。
次の瞬間、床の魔法陣が低い音を立ててひび割れた。
アウルティスは反射的に一歩後ずさった。
魔力の膜が発動して体表を守る。しかし、その防御膜すら揺らぐほど、塔全体に走る衝撃は深かった。
「……なんだ……」
天井の一部が崩れ落ち、瓦礫が光の尾を引いて直撃する。
肩から脇腹にかけて重い衝撃が食い込み、息が強制的に押し出された。
骨に響くような鈍い痛みと、膜が破れる音。内側に逆流する魔力が刺すように暴れ、体の一部がじんじんと痺れる。
立ち上がろうとしても、片脚が力をうまく拾わなかった。
崩落は止まらない。塔全体が、外側から押し潰されるように軋んでいく。
二百年、ただ存在を“管理されるだけ”だった静的な世界が、音を立てて瓦解していく。
球体が不安定に回転しながらアウルティスの前へ降りてきた。
表面がひび割れ、内部の魔力が漏れている。
彼を守るためか、監視を続けるためか、目的は分からない。ただ、最後の力だけで彼の前にとどまっているように見えた。
「……来るな。邪魔をするな」
もしかしたらこれは外に出られる最後のチャンスかもしれない、、そう思ったら声が震えた。
塔の最上層が崩れ落ちる。
防御膜がついに負荷上限を超え破裂し、耳鳴りが世界のすべてを埋めつくした。
視界が白に塗られ、何が起きているのか理解できない。
最後に見えたのは、球体が半壊したままアウルティスの前へ跳ねるように飛び、彼と瓦礫の間に割り込む瞬間だった。
そして音もなく、砕け散った。
守られたのかどうかも分からないまま、アウルティスの身体は崩落の外流へ巻き込まれ、重力に引かれて闇へ落ちていった。
痛みと痺れは遠のき、思考が断片的にほどけていく。
“——これは、生きて出られる痛みなのか?”
そんな問いが浮かんだ直後、意識が深い場所へ沈んだ。
アウルティスは、壁の向こうに広がる外界の気配を知らない。知っているのは、天井を撫でるように巡る魔力と、それを監視する球体だけだった。
その球体に今、少し亀裂が入った
「……何をしている」
声を向けても、球体は返事をしない。
いつもなら規則的に明滅し、彼の生活すべてを管理するように動くくせに。それがいま、制御を失った心臓のように波打っている。
胸の奥に、理由のない落ち着かなさが広がった。
理解はできない。ただ、これまでとは違う何かが、塔そのものを軋ませていることだけは分かった。
次の瞬間、床の魔法陣が低い音を立ててひび割れた。
アウルティスは反射的に一歩後ずさった。
魔力の膜が発動して体表を守る。しかし、その防御膜すら揺らぐほど、塔全体に走る衝撃は深かった。
「……なんだ……」
天井の一部が崩れ落ち、瓦礫が光の尾を引いて直撃する。
肩から脇腹にかけて重い衝撃が食い込み、息が強制的に押し出された。
骨に響くような鈍い痛みと、膜が破れる音。内側に逆流する魔力が刺すように暴れ、体の一部がじんじんと痺れる。
立ち上がろうとしても、片脚が力をうまく拾わなかった。
崩落は止まらない。塔全体が、外側から押し潰されるように軋んでいく。
二百年、ただ存在を“管理されるだけ”だった静的な世界が、音を立てて瓦解していく。
球体が不安定に回転しながらアウルティスの前へ降りてきた。
表面がひび割れ、内部の魔力が漏れている。
彼を守るためか、監視を続けるためか、目的は分からない。ただ、最後の力だけで彼の前にとどまっているように見えた。
「……来るな。邪魔をするな」
もしかしたらこれは外に出られる最後のチャンスかもしれない、、そう思ったら声が震えた。
塔の最上層が崩れ落ちる。
防御膜がついに負荷上限を超え破裂し、耳鳴りが世界のすべてを埋めつくした。
視界が白に塗られ、何が起きているのか理解できない。
最後に見えたのは、球体が半壊したままアウルティスの前へ跳ねるように飛び、彼と瓦礫の間に割り込む瞬間だった。
そして音もなく、砕け散った。
守られたのかどうかも分からないまま、アウルティスの身体は崩落の外流へ巻き込まれ、重力に引かれて闇へ落ちていった。
痛みと痺れは遠のき、思考が断片的にほどけていく。
“——これは、生きて出られる痛みなのか?”
そんな問いが浮かんだ直後、意識が深い場所へ沈んだ。
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