ある腐男子の妄想

佐野 臣

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番外編

夏祭りの日 side ねこくん

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 今まで読んで頂いていた皆様、誠に申し訳ありません!!( ノ;_ _)ノ
 今回のお話は8月中に上げる予定だったのですが、なかなか筆が進まず、9月も中盤に差しかかろうかという大遅刻をやらかしてしまいました...
 あと、はっしーsideの方が終わってないです...マジで、すみません!!
 そちらは編集が終わり次第上げたいと思いますので、また読んで頂けると有り難いです!(お昼までには終わるように頑張ります...)
 遅れを取った分、内容もレベルアップしてると思います...うん、たぶん、いつもより文字数も多いし...ということで、お許しください!
 ここまで長文にお付き合い頂きありがとうございます!
 では、本編へどうぞ!↓

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

8月

 これは8月のある日の話である。
 いつものバイトからの帰り道、音楽を聞きつつ「今日も足が酷使されたな~」と思いながら歩いていると、ふと視界の端に、いつもとは違うものが写った。
 それは何かのチラシであり、横に続く壁にところどころ貼られていた。少し気になった俺はそのチラシをよく見てみると、どうやら明日近くで開催されるらしい夏祭りの案内だった。

「小さい頃はよく行ったな~今じゃあ、時間がなくて全然行けてないけど笑」

 そう言いながら、スマホで明日の予定を確認してみると、ちょうど明日は何の予定も入っていなかった。
 特にやることもないため、久々の夏祭りでも行くかと予定表に書き込んだ。

 行くと決めたからには、とことん楽しまないと!あと、屋台の食べ物とか地味に好きなんだよな~食い倒れるぞ~!!

 そう意気込みながら、また帰路を歩きだした。しかし、

 いや、なんか一人で行くのも寂しいよな~
 誰か誘うか?はっしーとねこくんとか...
 ...いや、待て!その二人を誘うとしたら俺はドタキャンと見せかけて二人を見守りたい!!え、何か自分で言っててめっちゃ良い案な気がするんですけど!?
 浴衣とか着ちゃってさ!ちょっと食べさせあいとかしちゃってさ!
 く~俺の溢れる妄想力が爆発するぜ!!

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

ねこくんside

 僕は今日、明人とはっしーと一緒に近くの夏祭りに遊びに行く約束をしていて、少し早く集合場所に着いてしまったので二人を待っていた。
 手持ちぶさたな時間は数分で、すぐにはっしーの姿が集合場所に現れた。

 「お!ねこ早いな~待たせてごめんな~」
 「ううん。全然待ってないから大丈夫だよ。」

 笑顔で手を振りながら来たはっしーに、僕も笑顔で返した。

 「あとその浴衣、ねこに似合ってるな!」
 「あ、ありがとう...」

 僕は、はっしーに褒められたのが照れ臭くて、少し俯き気味に返した。
 実は今日、明人の提案で全員浴衣を着て夏祭りに行こうという話をしていた。
 こういう機会がなければ、あまり浴衣を着ないからいいかなと思い、もちろん着てきたのだが...

 いざ、褒められると少し恥ずかしいな...
 変なところとかないといいんだけど...

 浴衣を買ったとき、僕は無難に紺色とかでもいいと思ったのだが、母に「あなたは白とかの方がいいと思うわよ...?(やっぱり、純粋さの白推しでしょ!)」と言われ、結局白の浴衣になった。

 それ以来、家族以外とは夏祭りに行っていなかったので本当に自分に似合っているのか心配だった。しかし、はっしーの反応を見るにどうやら僕の杞憂だったらしい。

 そのはっしーも同じように浴衣を着てきていた。
 はっしーは黒の浴衣を着ていて、いつもの白系の服装とのギャップに少し心臓の辺りがドキッとしたような気がした。

 「は、はっしーもその浴衣似合ってるよ!」
 「お、まじ?ありがとな!いや~ねこに褒められるとは、よほど似合ってるんだな~なんて笑」
 「ふふ、何言ってるの笑」

 はっしーの自信たっぷりな様子があまりにも面白くて、思わず笑みが溢れてしまった。

 「それにしても、言い出した本人が遅くねーか?」

 確かにと思い、時計を見てみると集合時間はとうに過ぎていた。

 何かあったのかな...?でも、連絡もないし...

 「あいつ連絡も寄越さないで、何してんだよー」

 はっしーは不機嫌そうな声でそう呟いた。しかし、その手元では明人へメールを送っており、既読がつくのをそわそわしながら確認していた。

 少し経ってから既読がついたのか、横から「あ!」という声が聞こえてきた。

 「既読ついた!あ、メールも来たわ。う~ん?"ごめん、マジごめん。急に外せない予定入っちゃって行けなくなった!でも、俺のことは気にせず、二人で夏祭り楽しんできて!"だってさ~」

 はっしーは明人からのメールを読んでくれたらしい。

 そっか~明人は来れなくなっちゃったのか...残念だな...

 「どうする?まぁ気にせずってあるし、二人で存分に楽しむか?そんでもって、あいつが来れなかったことを後悔させてやろーぜ!」

 はっしーは最初、躊躇っていた素振りをみせながらも、最後には目を輝かせながら悪巧みを考える表情をしていた。

 「後悔って笑まぁ、明人がいないのは残念だけど、ここまで来たら帰るのもったいないし、普通に楽しもうかな笑」

 僕がそう言うと、はっしーは大きな声で、

 「おっしゃー!そうと決まれば、早速屋台とか見に行こうぜ!」

 そう言ってきた。僕はそれに頷き返し、二人で屋台を見に歩を進めた。

 ここの夏祭りは多くの屋台がずらりと並び、祭りの最後には大きな打ち上げ花火が何発も上がるような、規模が大きいところだった。
 そのため来る人も多く、両サイドを屋台で挟まれた道は人でぎゅうぎゅう詰めだった。

 うわぁ、本当に人多いな~
 油断してると、はっしーとはぐれちゃいそう...

 そう考えながらちょっと屋台の方に目を奪われている間に、予想通りはっしーの姿を見失ってしまった。

 え、ウソでしょ!?あ~やっちゃったな...
 どうしよう...?気をつけてたのに、はぐれちゃったし...

 周りを見てもやっぱりはっしーの姿はなく、諦めてメールを送ろうとしたとき、急に誰かから腕を捕まれた。

 え、何!?誰!?怖いんだけど...

 勇気を振り絞り、僕の腕をつかむ手の正体を見ようと視線を向けると、そこにいたのは、はっしーだった。

 「はっしー!?」
 「はぁ~焦った~突然ねこがいなくなったから、ビックリしたわ...」

 はっしーの額には汗がにじんでおり、僕の腕を掴んでいる手は焦りからか、わずかに冷えて震えていた。

 「ご、ごめんね...」
 「まぁ、無事に会えたしノープロブレムだ!でも、すぐにはぐれそうだからな~何なら手でも繋いでおくか?笑」

 相当心配をかけたはずなのに、それを感じさせないくらい、はっしーは明るく言ってきた。

 て、手でも繋ぐって...
 手?...手、を、繋ぐ!?

 最初、言葉の意味を許容できず、冷静になってはっしーの言葉を反芻していると、やっと止まっていた思考が回転し理解できた。にもかかわらず、脳内ではパニック状態に陥っていた。

 「手って...え、手を繋ぐ?って言った?え、え、繋ぐ...?」

 そんな僕の様子にはっしーは、笑いが耐えきれなくなり、吹き出した。

 「ぶっ...あっはははは!ねこ、お前...や、やばいな...あはははは!あ~ほんと...」

 はっしーの最後の方の言葉は声が小さくて聞き取れず、僕は小首を傾げた。
 でもとりあえず、さっきの手を繋ぐっていうのが、はっしーの大笑いから冗談だったのだなということだけはわかった。

 ちょっと癪だが、真に受けたのは僕だからな...笑われても仕方ないか...

 ただ、すぐにはぐれそうという言葉には完全に否定できない。

 う~ん、どうしようかな~あ!そうだ!

 僕は良いことを思いつき、提案してみた。

 「ねぇ、はっしー。僕良いこと思いついた!」
 「ん?なに?」
 「あの...手を繋ぐのはちょっとムリだけど、これならいいかなって...」

 僕はそう言いながら、はっしーの裾を少し摘まんだ。

 ま、まぁ、これくらいだったら他の人から見ても変に見えないでしょ!

 僕が謎の自信を持って言うと、はっしーは何かを吐き出すかのように大きなため息をついた。

 え、やっぱりダメだったかな...?

 「ごめん!やっぱり、迷惑だったよね...そ、それにそんなはぐれないだろうし、僕はだいじょ「いや!?全然迷惑じゃねーから!むしろ掴んでて欲しいっていうか...って何言ってんだ俺は!? 」」

 はっしーは、慌てて僕の言葉を遮ってそう言ったが、その口に出した言葉に混乱しているようだった。

 ...でも、迷惑ではないって言ってたし、このままでもいいよね...?

 「じゃあ、このまま掴んでるね。」
 「あ、お、おう。そうしといて!」

 大丈夫らしかったので、僕たちはそのまま屋台を見てまわることにした。

 それにしても、屋台沢山あるな~

 「ねぇ、はっしー。屋台いっぱいあるね!」
 「そうだな!あと、食べ物系が多いよな~」

 その言葉に周りを見渡すと、確かにわたあめや、クレープ、焼きそばにフランクフルトにたこ焼きなど食べ物の屋台がズラリと並んでいた。
 それを見ていると、今まで気にならなかった空腹感が突如、主張してきた。

 そういえば、もうすぐで19時近くになるのか...お腹空いたな...

 「屋台見てたら、お腹へってきたな!ちょうどいい時間だし、何か買って食べるか!」

 はっしーも同じだったようで、僕はそれに頷いた。

 「じゃあ各々食べたいもの買って、そうだな~あ、あそこのデカイ木のところに集合で!」
 「うん、わかった!」

 それから、僕はたこ焼きと唐揚げが串に刺さったものを買って木に向かった。

 少し足りない気がするけど...まぁ、足りなかったらまた買えばいいかな?

 そう悩みつつ木に着くと、すでにはっしーは選び終わっていたようで、手には焼きそばとフランクフルトを持っていた。

 「はっしーはそれにしたんだ!でも、なんか気のせいかな?そのフランクフルト、普通よりでかいような..?」
 「お!気づいた?いや~売ってた人がそこら辺のよりジューシーでビッグだよ!って誘うから見てみたら、本当にそうだったからつい買っちゃったよね笑」
 「そうだったんだ笑」

 店員さんのモノマネをしながら言うはっしーに思わず笑ってしまった。

 「ねこはたこ焼きと唐揚げ棒にしたんだな~...それで足りるか?あ、このフランクフルト味見する?」
 「へぇ!?」

 僕は思わず変な声を出してしまい、少し恥ずかしくなった。
 さらっと何気なく言ってきたが、それって間接キ...いやいや、考えないようにしよう...

 「勢いで買ったのはいいんだけどさ、他のもの食べたくなったときに食べれなくなるかなって笑」

 あぁ、そういうことか...でもそういうこなら、ちょっと気になるし...

 「ちょっと気になるから、お言葉に甘えて味見させてもらおう...かな?」
 「どうぞ遠慮なく!やっぱり、面白いこととかは共有した方が楽しいからな!」

 じゃあ、遠慮なくと思ったとき、ふと自分の手が塞がっていることを思い出した。

 これだと、受け取れないな...

 一人であたふたしていると、はっしーが僕の悩みのタネに気づいたのかフランクフルトを僕に向けてきた。

 「はい、俺が持ったままなら手が塞がってても食べれるっしょ!」

 確かにそうだけど...でも...
 う~ん、他に方法もないし大人しく従うか...

 「じゃ、じゃあ...いただきます...」

 そう言って、目の前のフランクフルトを口にしようと思ったが、自分の口には収まらなさそうだったので先端を少し囓った。
 すると、店員さんの言葉通りジューシーだったようで、囓った瞬間、肉汁が溢れだしてきた。
 それに対応しきれず、肉汁は僕の口端をツーっと顎まで伝っていった。

 美味しいけど、これはジューシー過ぎじゃ...!?早く拭かないと、あ~でも手が塞がってたんだ...!

 「...も~何やってんだよねこ~ほら、拭いてやるから、こっちに顔向けて!」
 「あ、ありがとう...」

 はっしーはハンカチを取り出して拭いてくれているが、僕は恥ずかしすぎて拭き終わるまで目を閉じていた。

 「よし、オッケー!拭き終わったぞ~それにしても、これはジューシー過ぎじゃね?笑ビックリしたわ!」
 「うん、そうだね笑あ、お礼に唐揚げ一個あげる!」
 「いいのか?じゃあ貰おうかな!」

 そう言って、僕が差し出した唐揚げ棒は受け取らず、僕が持ったままはっしーは食べた。

 え!?あ、そのまま食べるんだ笑
 何か餌付けしてるみたいで不思議な気分だな~

 「うわっうまいな!これも買っておけば良かったか...?」

 そう呟きながら真剣に悩む様子が可笑しくて、僕は少し吹き出してしまった。

 「全部食べてもお腹が空いてたら、また買いに行こうよ笑」
 「そうだな!じゃあ、先に今あるやつを食べるぞ~」

 僕は頷き、それぞれのものを少しずつ分けながら食べていった。

 「食べきった~お腹も膨れたことだし、次は遊び系の屋台でも行くか?」
 「そうだね!色々あるから迷っちゃうな~」

 また、人混みの多い通りへ向かった。
 屋台を見回していて、ふとヨーヨー釣りの屋台に目を奪われた。

 「はっしー、僕あそこのヨーヨー釣りしてもいい?」
 「いいよ~そういえば、ヨーヨー釣りとか俺一回もしたことないかも笑」
 「ほんと!?それじゃあ、記念すべき初挑戦だね!」

 そうして、ヨーヨー釣りの屋台へと着き、そこのお兄さんに話しかけた。

 「あの、二人分お願いしてもいいですか?」
 「おーおーいいよ!やってって!」

 僕たちはお兄さんにお金を渡し、代わりに釣糸を受け取った。
 水の中を漂う、色とりどりの水風船は照明の明かりでキラキラと輝いていた。

 どれにしようかな~白、青、う~ん...

 そう悩んでいる僕の目の前に、黄色の水風船が流れてきた。

 黄色か...はっしーの元気な感じを思い出すな~

 そう思うと自然と顔に笑みが溢れた。

 決めた!黄色にしよう!

 狙いを定めて、黄色の水風船がまた目の前に来るのを待った。

 あ、来た!集中、集中...

 慎重に釣糸を垂らし、タイミングの良いところで引き上げると、無事に黄色の水風船を取ることができた。

「やったー!はっしー取れたよ!」
「お~やったな!」

 はっしーに取れたことを報告すると、はっしーも笑みを浮かべて同じように喜んでくれた。

 あれ、そういえばはっしーは取れたのかな?

 集中しすぎて、自分の周りの声が一切聞こえてなかったことに今気づいた。

 「はっしーは取れた?」
 「おう、取れたよ!」
 「何色にしたの?」

 そう聞くと、はっしーは取った水風船を目の前に出してきた。

 え!?すごい!二個も取ってる!

 「すごいね!初めてなのに二個も取れたんだ!」
 「お兄さんにコツ聞いたからな~」
 「それでもすごいよ!...でも、二個とも白色なんだね?」
 「あ~まぁ、白、好きだし?」

 疑問系になったのが少し気になったが、いつも着てる服も白系だし僕の気のせいかなと思うことにした。

 それから、二人とも釣糸が切れるまでやったが、結局はっしーは二個、僕は一個で終わった。

 「久しぶりにやったら、面白かったな~」
 「確かに、面白かったわ!でも、すぐ切れると思ってたんだけど、意外と切れないもんだな~」
 「いや、はっしーが上手いだけだよ笑」

 はっしーはそうか?と言いながら、水風船を跳ねて遊んでいた。
 僕も同じように遊ぼうとしたら、狙いが外れて顔に当たった。

 「うわぁ、痛っ!」
 「プッ、あはは!ねこ、何やってんだよ笑」

 はっしーはちょうど当たったところを見ていたのか、お腹を抱えて笑い出した。
 僕は当たったおでこを擦りながら、はっしーをジトっと見た。

 「そんなに笑わないでよ!これは偶々だから!いつもはちゃんと遊べるんだよ!?」
 「はぁ~...ふっ...そうなんだな~」

 まだ、少し笑いが収まっていないらしく、ところどころ吹き出していた。
 僕は意地になって、また水風船を跳ねさせた。

 ほら!今度はちゃんとできてる!

 「ほらね!できるでしょ?」

 僕ははっしーの方を向いてそう告げると、僕の何かがツボに入ったのかまた笑い出した。

 何でそんなに笑うの!?何もしてないのにな~

 はっしーが笑っている間、ずっと水風船で遊んでいると、少し力が強かったのかパンッという音がして水風船が弾けてしまった。
 幸い人通りが少ないところを歩いていたので、他の人には水がかからなかったが、その水風船を持っていた僕はもろに被ってしまい、足が水で濡れてしまった。

 ビ、ビックリした...でも、他の人にかからなくて良かった~

 水風船の音でずっと隣から聞こえていた笑い声も一時止まった。

 「ねこ、今日、色々神がかってるな...ハプニング...ふっ、続出じゃないか...あははは!」

 笑いが止まったのもほんの数秒で、また笑い出した。

 「はぁ~もう、笑いすぎて苦しい笑」
 「確かに、そんなに大笑いしてるはっしーって珍しいけどね...そろそろ笑いを抑えてほしいかな...」
 「そうだな...はぁ~もう大丈夫だ!にしても、結構濡れてるな~」

 水は僕の膝下にかかっていた。

 そこまで、足元とか皆見ないと思うし大丈夫かな?それに水だし、すぐに乾くよね。

 「うん、でも自然に乾くと思うよ。」
 「まぁ、そうだな...あ!どうせ花火まであと少しだし、先に穴場スポットでも行くか!」

 はっしーの言葉に僕は思わず首を傾げた。

 「よく来てたからさ、花火が良く見える穴場を発見してたんだよ!そこなら人もほとんどいないと思うし、濡れてても気にならないっしょ!」

 へ~そんなとこあったんだ!
 僕も何回か来てたけど、穴場スポットとか見つけたことないな~

「じゃあ、そこに行こうかな!」

 少し早いが、はっしーの言う穴場スポットに向かった。

 「おし!着いたぞ~」

 森の中の坂道を数分登ったところで、視界の先が開けた場所に着いた。目の前には、ベンチがポツン、ポツンと二つあり、その奥には腰くらいの高さの柵が立てられていた。
 僕は柵に近づき景色を見ると、下にはさっきまでいた屋台の通りが煌々と光っていた。遠くの方には海が見え、その近くには花火大会の会場があった。

 「すごいね!下の屋台も綺麗だし、あそこの海で花火が打ち上がるんだよね?」
 「そうそう。だから、ここは誰にも邪魔されない一番の特等席って訳!」

 はっしーは自慢気な顔をしていた。

 でも、これは確かにすごいな~
 誰にも見つかってないのが不思議なくらい。

 「もうすぐ、始まるぞ!あそこのベンチに座ってようぜ!」

 僕は頷いて、二人でベンチに腰かけた。
 そして数分、はっしーと喋っている間に時間になった。

 ヒュ~という花火の音が聞こえてきて、いよいよだという興奮で、ドキドキと心臓が脈打った。

 数秒後、ドンッという大きな音とともに、真っ暗な空に赤色の大輪の花が咲き誇った。
 その光景のあまりの美しさに、しばらくの間、僕は言葉を忘れて見入っていた。

 連続で上がる花火はどれも大きく綺麗だった。たまにプレゼントボックスや指輪などの花火も上がって面白かった。

 今日は色々ハプニングもあったけど、最後はこんなに見晴らしのいいところで花火も見れたし良い一日だったな...
 これも隣にいるはっしーのおかげかな...?

 僕はそう思いながらはっしーの方をチラリと見ると、僕の視線に気づいたのかはっしーと目があった。

 「ねこ、どうした?」
 「ううん。いや、今日ははっしーのおかげで良い一日になったな~って。ありがとう。」

 素直に感謝の気持ちを伝えると、はっしーは花火の方に視線を向けながら、

 「ま、まぁ、ねこが良かったなら、俺も良かったよ...!」

 そう言ったはっしーの顔は、少し赤かった気がした。

 花火の色かな...?本当に綺麗だな~

 僕はまた花火に目を移し、花火が終わるまでずっとベンチで眺めていた。
 そして、人混みが少し引いた頃、僕たちは帰路についた。

 はっしーは「ねこを一人で帰す訳にはいかないな~」なんて、冗談まじりに笑いながら言って、僕の家まで送ってくれた。

 「今日は色んな意味で楽しかったな~」
 「いや...本当にお騒がせしました...」

 今日を振り返ると、本当に色んなことをやらかしたなと思い、恥ずかしさと申し訳なさとでごちゃ混ぜになった。

 「あはは!まぁ、これも良い思い出だよな!」
 「うん、そうだね!笑今日は本当にありがとう。」
 「おう!...あ!よかったらこれ一個やるよ!」

 なんだろう?と思っていると、はっしーが差し出したのは白の水風船だった。

 「お前割っちゃったし、それに俺、二個持っててもあげる人いないからさ~どうせなら一個もらってってよ!」
 「そういうことなら、貰おうかな笑ありがとう!」

 はっしーの些細な気遣いに嬉しく思いながら、水風船を受け取った。

 「じゃあ、俺は帰るな~ちゃんと寝ろよ~」
 「もう、子どもじゃないよ!気を付けて帰ってね!」

 はっしーはたびたび振り返って、手を振りながら帰っていった。

 はっしー、そんなに振り返らなくてもいいのに笑

 僕は、はっしーが曲がり角で見えなくなるまで、笑いながら手を振って見送った。

 しばらくの間、はっしーから貰った水風船を見るたびに今日の出来事を思い出して、自然と顔に笑みが浮かんだのだった。
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