3年F組クラス転移 帝国VS28人のユニークスキル~召喚された高校生は人類の危機に団結チートで国を相手に無双する~

代々木夜々一

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22-3話 高島瀬玲奈 「ヘアカット」

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 夜は収穫祭をする予定だったが、今日は解散。みんな、色々あってグッタリ疲れている。

 アタシも自分の家に帰った。これが元の世界なら「一人暮らしの暗い部屋に帰る」となるのだが、すでに部屋は明るい。

 沼田睦美ちゃんの照明スキルで作ってもらったライトがある。

 アタシのライトは、小さな鉢に植えた植物だ。ナンテンのような赤い小さな実をつけている。

 ベッドに座り、植物のランプに手をかざした。

 調理班なので、手がガサガサだ。

 昔は会社のパンフレットなどのモデルもやっていたので、手入れをしてツルツルにしていた。それが今ではもう。

 いや、そんな事を言い出せば、アタシよりしんどい人はいくらでもいる。

 友松あやちゃんは、掃除スキルで全員を殺菌したので、疲労困憊。兵士と戦ったキングも、きっと疲れているだろう。

 それに比べ、アタシは何の役に立っているのだろう?

 調理班だけど、そこそこ料理ができるだけ。あとは、たまに歌ってみんなを励ますだけ。

 ……これでは、ダメな気がする。

「気を遣う」とかではなく、このままの自分ではダメな気がする。チヤホヤされていた子供のころと一緒だ。

 思い定めると、今すぐ動きたくなった。

 立ち上がり、木の上の家から降りた。

 関根瑠美子ちゃんの家に向かう。

「ルミちゃん」

 下から声をかけてみた。

「あれ、セレイナ。上がって上がって!」

 要件を伝えに来ただけだけど、上がってと言われたら断る理由もない。

 家に上がると、ほかにも女子三人。設備班の面々が揃っていた。

「お茶、セレイナもいる?」

 アタシはうなずいて、お茶をもらった。

 ルミちゃんは、部屋にいくつもカップを用意しているみたいだ。陶器のポットもある。

「みんなすぐには寝れないから。お茶してたの」

 その気持ちは、すごいよくわかる。今日はたくさんの死体を見た。

「セレイナのランプ、かっこいんだよ。赤い実がついた植木で」

 そう言ったのはランプを点けてくれる沼田睦美ちゃんだ。

「わぁ、かっこいい。ミナミなんだっけ?」
「あたし? ドアノブ」
「なにそれ?」
「クーラー部屋に取り付けるつもりだったけど、要らなくなったっていうから、もらった」
「ダサ……」
「んなら、ワカは何よ!」
「うち、石」
「変わんないっつの!」
「痛っ!」
「ちょっと二人! お茶こぼれてる!」

 じゃれあっているのは、黒宮和夏、門場みな実の二人だ。

「あの……」
「ああ、ごめんごめん、用事だった?」
「髪を切ってもらおうと思って」

 ルミちゃんは美容師を目指していた。元の世界にいた時から、同級生でルミちゃんに切ってもらっていた子は多い。

「セレイナ、今なんて?」
「うん。髪切ってもらえないかと思って。明日とか、明後日に」
「ルミちゃん?」

 関根瑠美子ちゃんが動かなくなった。

「今日、今日なの?」
「ううん、明日か明後日でいいの」
「こんな、こんな日に叶うの?」
「ルミちゃん?」

 ぷるぷる震えている。何か悪いこと言ったかな。

「来たぁぁぁぁぁぁ!」

 とつぜん絶叫した!

「でもダメ! 道具が足りない。いや、それは言い訳。道具で腕が上がるわけでもない。でも……」

 ぶつぶつ独り言を言い始めた。

「ル、ルミちゃん?」
「あはは、落ち着くまで待ってあげて」
「睦美ちゃん、これって」
「セレイナの髪切るの、ルミは夢だったから。今日は色々ありすぎて、頭が混乱してるわ」
「ええっ? アタシの髪なら言ってくれれば、いつでも切ってもらうのに」

「「「無理!」」」

 三人が同時に言った。

「セレイナの髪なんて」
「怖っ!」
「学校時代は無理ね」

 学校に通ってたころだと「あの髪切ったの誰よ?」と言われかねないので無理らしい。

「そんな! 考えすぎよ」
「セレイナ、世間知らずだから」
「みんな陰で言うよ。ミス中津高校」
「いや、ミス中津区」
「うんにゃ、ミス日本」
「待って待って!」

 三人を止めていると、ひとり放ったらかしだったルミちゃんが深呼吸して、ゆっくりうなずいた。

「やるわ! 私、やってみせる」
「わー、応援しちゃう!」
「うち、クーラー部屋に暖房入れてくる!」
「この前、大きい姿鏡を入れといて良かったねー!」

 ……えっ? そんな大ごとになる?

 五人でクーラー部屋に向かっていると、遠藤ももちゃんに会った。戦闘班だから、見張りをしてたんだろう。

「あれれ、その五人って珍しいね。どっか行くの?」
「ももちゃん! 聞いて。私、セレイナの髪を切るの」
「ふぇ、それは責任重大だなぁ。セレイナ、どのぐらい切るの? 5センチ? 10センチ?」
「えーと、ショートにしようと思って」

「「「「「はぁ?」」」」」

 五人の声が重なった。

「私、私がセレイナの髪をショ、ショートに」
「ルミちゃん! しっかり!」
「ちぃ、なんて日だ! スキル、モシモシ!」

 遠藤ももちゃんが、耳に手を当てた。

『ヒナっち? 緊急事態だわ。セレイナが……』


 クーラー部屋にて、クラスメートの女子に囲まれた。女子に囲まれたのは、これで生まれて二度目だ。

「……ヤケになってんじゃないわよ」

 ヒメが口を開いた。

「ちょっと、大げさよ」
「大げさじゃない! セレイナ、火野レイ、来生瞳はストレートロングヘア! これ常識。おけ?」

 みんなが「ウンウン!」とうなずいている。

「それを切るなんて、ヤケになってるとしか思えない」

 なんだか、すごい誤解されている。その誤解を解くために説明した。

 歌のスキルしかないので、それほどみんなの役に立ってないこと。剣の稽古をして、少しは自分を守れるようにしようと思ったことなどを話した。

「それなら、切らなくったってできるじゃん」
「んー、もう前の世界の面影を引きづらないほうがいいかなって」
「むむむ。ご意見、ご立派」

 ヒメは腰に手を当てて少し考え込んだ。っていうか、ほんとに大げさ!

「しょうがない。ルミちゃん、やっちまいな!」
「無理無理無理! ショートは怖くてできない!」
「失敗しても、また伸びるって」
「ぜったい無理!」

 ヒメが空中をスワイプした。何か考え始めた合図。

「真凛ちゃん!」
「はいっ!」
「ラフでいいんで、セレイナの今をスケッチしてくんない? それからみんなで考えようよ」
「りょーかい!」

 毛利真凛ちゃんは元美術部。水をポスターカラーに変えるスキルを持ってたっけ。

 ヒメは設備班のほうを向いた。

「むっちゃんはライトを四方向に設置」
「あいあいさー!」
「和夏ちゃん、前に思ったんだけど、鉄の棒に暖房スキルかけたら、コテかドライヤー代わりにならないかな?」
「ヒメっち、天才!」

「よし! 3年F組女子の名誉にかけて、異世界イチのショートカット、やってやろうじゃねえか!」

「「「「「「「おう!」」」」」」」

 女子全員が鬨の声を上げた。

 ……なにこれ?


 あれやこれやの会議の末、一枚のラフ画が壁に貼られた。

 床には何枚もの落選した髪型の絵が散らばる。

「いい、いいと思う!」
「かなり大胆ね」
「眉上パッツン、似合うのセレイナとナタリー・ポートマンぐらいね」
「ヘップバーンもいるわよ」
「あっ、それもいいかも。横をうしろに流して」

 アタシは、ずっと姿鏡の前で座ったままだ。四方向からのスポットライトを浴びている。

「じゃあ、行くわね」

 ルミちゃんがハサミを構えた。

「あああ! うち見てらんない!」
「ダメよ、和夏ちゃん。みんなで見るの!」
「うわーん、ヒメっち、鬼ー!」

 ……みんな、すごい元気。昼間にあったこと忘れてない?

 髪を切るとなってからも、かなり時間がかかった。大ごとになった断髪イベントが終わり、アタシは姿鏡の前で上機嫌だ。

「すっごい楽! いいかも」

 るんるんのアタシに比べ、女子のみんなは床にへたりこんでいる。

「緊張と感動で、どっと疲れたわ」
「山場は抜けた、そんな気分」
「もう、今日は泥のように寝るわ」

 どんだけ大げさよ、あなたたち!

 みんなが重い足で帰る中、アタシは足どり軽く里の中を散歩した。

 首に当たる風が気持ちいい。

 いや、それだけじゃない。むしろ、そっちじゃない。

 アタシは、今のクラスメートに「チヤホヤ」はされてない。ただ、大事に思われている。

 切ないわけじゃないのに、胸が張り裂けそうだ。

 時間がかかってもいいから、この気持ちをみんなに返していこう。


 散歩をしていると、調理場に灯りが点いているのが見えた。

 おかしいな、今晩は何も作らなかったのに。

 近づいてみると、キングにプリンス、トカゲ人のジャムさん、ヴァゼル伯爵。それに今日助けたカラササヤさんがいた。

 五人はイスを出し、調理台をテーブル代わりに何か飲んでいる。

 その横で絵麻ちゃんが何か焼いていた。

 あきれた。この五人は、あんな事があっても平気でゴハンが食べれるのね。

「ほう、夜の闇から麗人が現れた」

 キザなセリフはヴァゼル伯爵だ。

「バッサリ行ったな、高島」

 キングがおどろいている。プリンスは少し眉を上げた。

「絵麻ちゃん、手伝おうか?」
「じゃあ、付け合せの野菜を少し切ってくれる?」

 アタシはうなずいた。すでに用意してあった野菜を切る。

「なに飲んでるの?」

 野菜を切りながらキングに聞いた。

「これな。土田に作ってもらった葡萄酒。ブドウでもないのかな。赤い実を潰して発酵させた物らしい」

 赤い実。アタシの部屋のあれは、ブドウの一種なのか。

 絵麻ちゃんのハンバーグが焼けたので、野菜も盛り付けて出す。

 ヴァゼル伯爵にわたす時、夜行族の紳士は、にやっと笑った。

「ご婦人が大きく髪型を変える時、何か決意が秘められている事が多い。何かな? 今宵の麗人が思う決意は」

 お願いするには、いいチャンスだ。

「はい。アタシも剣を習いたくて」
「ほう、その長い秀美な指に剣は無粋と思われるが」
「高島、無理しなくていいぞ、ここにいるオッサンらが、なんとかしてくれる」
「まだ老けてはおらぬ、キング殿。だが、お前たちを守るのが戦士の努めだ」

 力強く言ってくれたのはジャムさん。

 一部から「ジャムパパ」って呼ばれるだけあって頼もしい。アタシも、これからはそう呼ぼう。

「はい。でも、自分の身を守れれば、少しはみんなの負担が軽くなると思って。アタシはたいしたスキルもないし、絵麻ちゃんみたいな料理の名人でもないし」

「そういえば」と、ジャムパパが思い出したように出されたハンバーグを口にした。

「うむ。絵麻殿の料理は、いつも上手いが、これはいつになく秀逸だ」

 ジャムパパ、目を閉じてハンバーグを噛み締めた。

「やべえ! ハンバーグ最高!」

 キングが大げさにガッツポーズ。絵麻ちゃんがにっこり笑った。

「キング殿、やべえとは何です?」
「うーん、危険、危ないとか」
「危ないハンバーグ……」

 ヴァゼル伯爵が首をひねってハンバーグを食べた。

 横ではプリンスが静かに口に入れている。

「……うまいな」

 プリンスのつぶやきには、絵麻ちゃん、とびっきりの笑顔。

 そういや、絵麻ちゃんはプリンスにゾッコンだっけ。たしかそんな話を誰かから聞いた。

「んでもよ、高島のスキルは、無駄じゃないぞ。おれらの戦う技術なんかより、よっぽど貴重だ」
「ほう、意外にもキング殿と意見が合う」
「意外ってなんだよ、伯爵。おれ脳筋じゃねえぞ」
「それは失礼」

 ヴァゼル伯爵はハンバーグを一口食べ、葡萄酒をぐびっと飲んで、杯を夜空に掲げた。

「旨い酒に旨い食事。これに極上の歌があれば……もはや死んでも悔いはありませんな」

 ニヒルな笑みを浮かべてアタシを見る。もう、ほんと伯爵はキザね。

 でも、そこまで言われると、照れるけど歌わないわけにもいかない。

「口ずさむぐらいでもいい?」
「ぜひとも」

 アタシは空いた調理台に腰掛けた。立ったままだと少し照れくさい。

 食事中だ。ゆったりした曲がいいだろう。ジャズのスタンダートナンバーを何曲か口ずさんだ。

 歌い終わると、男性陣はどこか遠い目をし、また、ぐびりと葡萄酒を飲んだ。

 ジャムパパがぼそりと口を開く。

「今日は、最高の一日であるな」
「戦士よ、私も同感です」
「ありがと、ジャムパパ、伯爵」

 ガタッと、カラササヤさんが突然に立ち上がった。

「俺、俺の、俺の嫁になってくれ!」

 アタシはしばらく、目をぱちくりさせた。

「……えーと、お断りします」
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