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第三章
新たな旅立ちへ
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チュンチュンッ
どこからか鳥の鳴き声が聞こえる。
心地よくて……温かい……。
眩しい光が差し込み、夢見心地の中そっと腕を伸ばすと、柔らかい何かが指先へ触れた。
それを求めるかのようにギュッと強く引き寄せると、サラサラとした何かが頬を掠め、くすぐったさに身をよじらせる。
「うぅ……う~ん……」
夢うつつの中、ゆっくりと瞼を持ち上げてみると、そこに透き通ったプラチナの髪が映った。
この色……エヴァンと同じね……。
サラサラでとっても気持ちいいわ。
そっと髪を優しく撫でてみると、突然に私の腕が捕えられる。
強い腕の力に、次第に意識がはっきりしてくると、目の前にエメラルドの瞳が映った。
その姿に私は慌てて体を起こすと、彼の瞳を見つめたままに固まった。
「えっ、どっ、どうして!?」
「はぁ……どうしてではありません。体調は大丈夫ですか?おつらいところはございませんか?」
エヴァンは心配そうな瞳を私へと向けると、何かを確認する様に、優しい手が体へ触れた。
そんなエヴァンの様子に戸惑う中、私はそのままベッドへと寝かしつけられると、彼の冷たい手が額へと触れる。
「熱もないようですね……。首の怪我は塞いでおきました。後はご自分で傷跡を消していただければ。後……髪はすみません、元には戻せませんでした。毛先は軽く整えておきましたが……」
エヴァンは悲しそうに私の髪を掬い上げると、愁いを帯びた瞳を浮かべている。
そんな彼の様子に呆然とする中、ふと視線を落とすと、私は真っ白なネグリジェが着せられていた。
髪……私……どうしたのかしら。
あぁ……私は……捕まって……それで媚薬を……。
イーサンの姿が脳裏にチラつくと、苦い記憶がよみがえってきた。
与えられた恐怖に体が震え始める中、私は自分自身を守るように強く体を抱きしめる。
私は……彼に……。
あれ……エヴァンが助けてくれた……?
霞む記憶の中、エヴァンの姿が現れると、次第に恐怖感が治まっていく。
あれはやっぱり夢じゃないのね。
でもどうしてエヴァンがここに……?
この世界のエヴァンは……まだ5歳のはずよ。
私はゆっくりと顔を上げると、そこには紛れもなく私の知るエヴァンの姿がある。
確かめるように彼の頬へそっと触れてみると、彼の体温が手に伝わってきた。
やっぱり本物なのね……。
「どうして……?」
そう言葉をこぼすと、エヴァンは大きなため息をついた。
「はぁ……、私はあなたを追ってここまで来たんですよ」
私を追って……。
エヴァンも時空移転の魔法を使う事が出来るのかしら……?
でも私が渡った時空を彼は知らないはず。
「どうやって……?」
「魔法には無限の可能性がある。私はあなたの魔法に同調させてもらったんです。あなたが時空を移動してすぐに、リングを通してあなたについていったんですよ。ですがこの魔法は相手とつながる媒体を持っていなければ成立しない。……ずっとそのリングをつけていてくれて助かりました」
魔法ってそんな事も出来るのね……。
私は左手にはめたリングをまじまじと見つめていると、エヴァンは怒った様子で私を覗き込んできた。
「それよりも、まったくあなたは……どうして一人で行こうとしたんですか?私は師匠からあなたを任されているのです。まだ魔法も全く使いこなせていない、この世界の事も知らないあなたが、いったい一人で何が出来るというのですか?」
タクミの為に……。
彼の静かな怒りに私は肩を大きく跳ねさせると、姿勢を正し彼を見上げた。
「ごめんなさい。でも……この魔法は使用してはいけない物だから……。その……巻き込みたくなかったの」
私の言葉にエヴァンはまた深いため息を吐くと、呆れた様子を浮かべてみせる。
「使用してはいけない魔法だと知っていたのならば、使わないで頂きたい。……ところであなたはどうしてここ……15年前の世界へ来たんですか?……もしかして師匠に会いに……?」
エヴァンのどこか悲しそうな瞳がユラユラと揺れる中、私は小さく首を振ると、徐に口を開いた。
「違うわ……。過去の彼に会っても余計に悲しくなるだけ……。だって未来に彼はいないのだから。だから私は……その……、タクミの世界を救いたくて……ここへ来たの」
「救う?どういうことですか?」
私は大きく息を吸い込むと、しっかりと顔を上げ彼へと視線を向ける。
「私は女性の出生率が落ちた原因を調べに来たの。セーフィロ……様?から情報を聞くことが出来て、それで……ここへ」
エヴァンは驚愕した表情を浮かべると、信じられないとでも言うように大きく目を見張っていた。
「そのために……。それで、見つかったのですか?」
その言葉に私は小さく頷くと、頭を垂れ口を堅く閉ざした。
原因は見つかった。
でもそれを正せば……私は……。
もし私がいなくなるかもしれないと分かれば、きっと彼に止められてしまうでしょう。
私がアベルを止めようとしたことと同じように……。
沈黙が二人を包む中、エヴァンは徐に立ち上がると、部屋の窓を大きく開け放つ。
すると生暖かい心地よい風が部屋の中へ吹き込む中、私はそっと顔を上げると……エヴァンはどこか懐かしむ様子で、窓の向こうをじっと眺めていた。
どこからか鳥の鳴き声が聞こえる。
心地よくて……温かい……。
眩しい光が差し込み、夢見心地の中そっと腕を伸ばすと、柔らかい何かが指先へ触れた。
それを求めるかのようにギュッと強く引き寄せると、サラサラとした何かが頬を掠め、くすぐったさに身をよじらせる。
「うぅ……う~ん……」
夢うつつの中、ゆっくりと瞼を持ち上げてみると、そこに透き通ったプラチナの髪が映った。
この色……エヴァンと同じね……。
サラサラでとっても気持ちいいわ。
そっと髪を優しく撫でてみると、突然に私の腕が捕えられる。
強い腕の力に、次第に意識がはっきりしてくると、目の前にエメラルドの瞳が映った。
その姿に私は慌てて体を起こすと、彼の瞳を見つめたままに固まった。
「えっ、どっ、どうして!?」
「はぁ……どうしてではありません。体調は大丈夫ですか?おつらいところはございませんか?」
エヴァンは心配そうな瞳を私へと向けると、何かを確認する様に、優しい手が体へ触れた。
そんなエヴァンの様子に戸惑う中、私はそのままベッドへと寝かしつけられると、彼の冷たい手が額へと触れる。
「熱もないようですね……。首の怪我は塞いでおきました。後はご自分で傷跡を消していただければ。後……髪はすみません、元には戻せませんでした。毛先は軽く整えておきましたが……」
エヴァンは悲しそうに私の髪を掬い上げると、愁いを帯びた瞳を浮かべている。
そんな彼の様子に呆然とする中、ふと視線を落とすと、私は真っ白なネグリジェが着せられていた。
髪……私……どうしたのかしら。
あぁ……私は……捕まって……それで媚薬を……。
イーサンの姿が脳裏にチラつくと、苦い記憶がよみがえってきた。
与えられた恐怖に体が震え始める中、私は自分自身を守るように強く体を抱きしめる。
私は……彼に……。
あれ……エヴァンが助けてくれた……?
霞む記憶の中、エヴァンの姿が現れると、次第に恐怖感が治まっていく。
あれはやっぱり夢じゃないのね。
でもどうしてエヴァンがここに……?
この世界のエヴァンは……まだ5歳のはずよ。
私はゆっくりと顔を上げると、そこには紛れもなく私の知るエヴァンの姿がある。
確かめるように彼の頬へそっと触れてみると、彼の体温が手に伝わってきた。
やっぱり本物なのね……。
「どうして……?」
そう言葉をこぼすと、エヴァンは大きなため息をついた。
「はぁ……、私はあなたを追ってここまで来たんですよ」
私を追って……。
エヴァンも時空移転の魔法を使う事が出来るのかしら……?
でも私が渡った時空を彼は知らないはず。
「どうやって……?」
「魔法には無限の可能性がある。私はあなたの魔法に同調させてもらったんです。あなたが時空を移動してすぐに、リングを通してあなたについていったんですよ。ですがこの魔法は相手とつながる媒体を持っていなければ成立しない。……ずっとそのリングをつけていてくれて助かりました」
魔法ってそんな事も出来るのね……。
私は左手にはめたリングをまじまじと見つめていると、エヴァンは怒った様子で私を覗き込んできた。
「それよりも、まったくあなたは……どうして一人で行こうとしたんですか?私は師匠からあなたを任されているのです。まだ魔法も全く使いこなせていない、この世界の事も知らないあなたが、いったい一人で何が出来るというのですか?」
タクミの為に……。
彼の静かな怒りに私は肩を大きく跳ねさせると、姿勢を正し彼を見上げた。
「ごめんなさい。でも……この魔法は使用してはいけない物だから……。その……巻き込みたくなかったの」
私の言葉にエヴァンはまた深いため息を吐くと、呆れた様子を浮かべてみせる。
「使用してはいけない魔法だと知っていたのならば、使わないで頂きたい。……ところであなたはどうしてここ……15年前の世界へ来たんですか?……もしかして師匠に会いに……?」
エヴァンのどこか悲しそうな瞳がユラユラと揺れる中、私は小さく首を振ると、徐に口を開いた。
「違うわ……。過去の彼に会っても余計に悲しくなるだけ……。だって未来に彼はいないのだから。だから私は……その……、タクミの世界を救いたくて……ここへ来たの」
「救う?どういうことですか?」
私は大きく息を吸い込むと、しっかりと顔を上げ彼へと視線を向ける。
「私は女性の出生率が落ちた原因を調べに来たの。セーフィロ……様?から情報を聞くことが出来て、それで……ここへ」
エヴァンは驚愕した表情を浮かべると、信じられないとでも言うように大きく目を見張っていた。
「そのために……。それで、見つかったのですか?」
その言葉に私は小さく頷くと、頭を垂れ口を堅く閉ざした。
原因は見つかった。
でもそれを正せば……私は……。
もし私がいなくなるかもしれないと分かれば、きっと彼に止められてしまうでしょう。
私がアベルを止めようとしたことと同じように……。
沈黙が二人を包む中、エヴァンは徐に立ち上がると、部屋の窓を大きく開け放つ。
すると生暖かい心地よい風が部屋の中へ吹き込む中、私はそっと顔を上げると……エヴァンはどこか懐かしむ様子で、窓の向こうをじっと眺めていた。
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