[R18] 異世界は突然に……

あみにあ

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第二章

閑話:彼女と過ごす日々8(エヴァン視点)

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最近の私はおかしい……。

彼女が一喜一憂する姿に、彼女の姿を目にする度に、なぜか胸の奥がモヤモヤとした感情がこみ上げてくる。

それなのに……彼女が彼らに囲まれる姿を見るたびに、なぜか目を反らせたくなってしまう。

この気持ちは一体何なのだろうか……。

あの日……夜会が始まり、会場内が盛り上がり始める中、私はすぐに彼女の姿を探していた。
なぜかこんな場所に彼女が一人でいると思うと……胸がざわつく。
人込みの中を掻き分けるように歩く中、すれ違う女達は臭い香水を身に纏いながら物色するように会場内を練り歩き……男は女に自分の存在をアピールする。
ばかばかしい……。
どうしてこうも皆騒ぎ出すのか……。
女などいなくても生きていけるでしょうに……。
あんな煩くて傲慢で、浅はかで……はぁ、女の傍に居ればいるほどストレスがたまるはずなんだがな……。

そう思っているはずなのだが……人込みの中に彼女の姿が目に映る。
壁を背に一人佇む姿は、まるで飾られた一凛の華の様だ。
そんな彼女はどこにも行く気配はなく、只々呆然と会場内に目を向けていた。

そんな彼女の元へ一人の少年が彼女の元へとやってくると、華を差し出した。
彼女の瞳と同じ漆黒の薔薇。
黒薔薇の花言葉は……呪いや憎しみなどだが……あれはきっと違う意味だろうとすぐに気が付いた。

(決して滅びる事のない愛)

少年は黒薔薇一輪を彼女へと差し出す姿に、私の体は自然と動いていた。
基本男性から女性へ話しかけることはタブーだが……そんな事を考えている余裕はなかった。
わき目もふらずにその場へ駆け寄り……気がつけば私は彼女と少年の前に割り込み、彼女を強く引き抱き寄せていた。

驚く彼女の様子を目にし、そのバラを受け取る意味を説明すると……彼女はとても驚いた様子を見せる。
その反応に私は頭を抱えると、深く息を吐きだした。
レックスに夜会について説明を頼んだはずですが……まさかプレゼントを受け取る意味を知らされていないとは、思いませんでした。
この夜会で男からプレゼント受け取れば、それは婚約の証。
婚約すれば、その女性に触れることが許される……。

彼女は私の言葉に、慌てた様子で少年に向き合うと、はっきりと断り口にする。
すると会場内の音が消え……なぜか私の胸が締め付けられるように痛んだ。
まるで自分に向けられる言葉の様に……。
今にも泣きそうに顔を歪める少年を前に、私の眉間にも皺が寄る。
きっと彼女は誰とも婚約するつもりはないのでしょう……。
だから、誰が結婚を申し込んでも同じように断りを口にする。

たとえそれが………私であろうとも……。

ふと脳裏をかすめた言葉に慌てて首を振ると、自分の考えを否定した。
私は……違う……。
私は彼女と婚約したいなど思ってはいないのですから……。

自問自答する中、自分では抑制できない想いが胸の中で犇めく。
私は苛立ちを誤魔化す様に強く彼女の腰を引き寄せると、漆黒の瞳と視線が絡んだ。
黒い真珠のような澄んだ瞳に、私の姿が映し出される。
その瞳に映った自分の姿は、苦しそうに顔を歪めていた……。

少年が傍を離れ暫くすると、ようやく治まり始めた胸の痛みに、私は深く息を吐きだした。
次第に会場の騒がしさが戻ってくる中、私はじっと彼女の隣で寄り添っていた。
そうして暫くすると、アーサー殿下、レックスにブレイク、さらにはネイトまでやって来ると、私はスッと彼女から体を離す。
笑ったり、照れたり、怒ったり、とコロコロと変わる彼女の表情は見ていて飽きない。
だがどこか何とも表現できない、苛立つような感情がこみ上げてくるのも事実。
はぁ……私は一体どうしてしまったのでしょうか……。

答えの出ない想いに頭を悩ませる中、ふと彼女が彼らを残し一人でどこかへと向かっていく。
レックスやアーサーが彼女を追いかけようとするも……フリーになった事で彼らの傍には、女性たちが押しかけてきていた。
大変ですねぇ……。
私は社交界で女性嫌いと有名ですので、こんな事にはなりませんが……。
もし私の周りにあれほどの女性が集まってくれば……魔法で消し去ってしまいそうです。
身動きが取れない二人を横目に私は人込みに紛れる彼女の姿を追っていくと……彼女はテラスへと出て行った。

テラスへと出た彼女は誰かを探す様に辺りをキョロキョロと見渡したかと思うと、急ぎ足で庭園の中へと消えていく。
私も彼女に気が付かれないように後を追うと、そこにはセーフィロ様と彼女が抱き合う姿が目に飛び込んできた。
あまりの衝撃に、私は地面に足が縫い付けられたように動けなくなる。
彼女はセーフィロ様探して……だが一体なぜ……?
まさか……彼女はセーフィロ様の事を……?

そう頭を掠めた瞬間、胸の奥が激しくギリギリと痛み始める。
私は咄嗟に胸を強く掴むと、苦しさのあまりその場にしゃがみ込んだ。
痛いっっ……何なのでしょうか……この痛みは……先ほどとは比べ物にならない……。
息苦しさに顔を歪める中、月明かりに照らされた庭園で見つめ合う二人の姿から目がそらせない。
薄暗い庭園で、彼女の透き通るような肌が横顔が月明かりに照らされると、彼女はセーフィロの胸の中へ体を寄せる。
それはまるで、たまさかの逢瀬の様だった。

ふと彼女の声が耳に届いたが……何を言っているのかまではわからない。
私は身を隠す様に彼らに近づき耳をそばだててみると……セーフィロ様の声がはっきりと聞き取れた。

「ここではダメだ。夜会が終わったら……私へ蝶を飛ばせ。君の部屋でゆっくり話そう」

その言葉に胸が壊れそうなほどに、ズキズキと痛み始める。
あまりの苦しさに顔を歪める中、必死に二人の姿に目をむけると……彼女が深く頷いた姿が見えた。
その姿に私は思わず目を反らせると、荒く息をしながらその場で膝をついた。
一体いつから彼女とセーフィロ様はそんな関係に……?
部屋に呼ぶという事は……さすがに彼女もわかっているだろう。
二人の事を考えれば考えるほど、胸の痛みひどくなり、私は立ち上がる事が出来ない。
どうすることも出来ない中、次第に足音が遠のいていくと、私は胸の痛みを抑える為、何度も深く息を吐きだしていた。
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