悪役令嬢エリザベート物語

kirara

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エリザベート嬢はあきらめない

愛しの王女さま

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 城からドリミア学園に行く途中にノイズ家の屋敷がある。

「同じところに行くのだから、エリザも我が家の馬車で行けばいいじゃないか」

「ウィリ様。ありがとう御座います。頑張って馬車に間に合うように早起きしますわ」

「用意が出来てなかったら、毎日でも待っててあげるから、急がなくていいよ」

 エリザと一緒に通うのは楽しそうだ。婚約者候補のカモフラージュにもなる。それに、彼女となら一緒に通ってもアントワーズは怒らないだろう。逆に羨ましがるかもしれないな。アントワーズはエリザの大ファンだから。

 彼女が僕の婚約者になるはずだった頃、彼女・エリザベートは超が付くほど我儘で、自分勝手で母上よりも王女様みたいだった。
 そして、そんなお子様なエリザを僕はとっても愛おしく思っていた。

 けれどある日を境にエリザは変わった。我儘を言わなくなった。あまり王女様のような振る舞いをしなくなった。大人のように優しくなった。そして、驚くほど魅力的になった。僕は彼女から目が離せなくなっていった。愛おしさは増すばかり。

けれど・・神様は僕に意地悪だった。

 エリザの5歳の誕生パーティーがノイズ家で催された日、僕と両親も招かれた。ダークブロンドの髪を大きな縦ロールにして、ゴールデンイエローのドレスにアイボリーの靴を履いたおしゃまな女の子。

〈私、可愛いでしょ〉
〈素敵でしょ。〉

と、精一杯アピールしてくる様子が愛おしくて楽しい。ヴァイオレットの瞳をキラキラさせて、僕に話しかけてくる女の子。僕とエリザに婚約の話があると聞いていた。

〈そうか、この子が僕の妃になる子なんだ。大切にしなければ。〉

 あの日は、そんな事を考えていた。この誕生パーティーを境に僕たちの運命が変わってしまうなんて。誰が想像しただろうか。

 その翌日エリザベートがパーティーの後で倒れたと言う連絡が入った。けれど数時間後に意識を取り戻したから心配はいらないと。

 エリザベートは両親から、目の中に入れても痛くない程に愛されている。特に父親のノイズ公爵は普段の凛々しい姿からは想像できない程の溺愛ぶり。これは有名な話しだ。そんなノイズ公爵が僕らの婚約を取りやめにしたいと言ってきたらしい。

 これは想定内だったのか父上も母上も笑っておられた。

「アフレイドの奴め。やはり娘は渡さないと言ってきたか。まああの溺愛ぶりだ。もう少し愛娘を独り占めさせてやろう。2人の婚約はもう少し先でも良いか?」

父上が聞いて母上が応える。

「とっても残念ですけれど、仕方ありませんわね。アフレイド様の溺愛ぶりは有名ですもの。それに、発表の時期が数年伸びるだけですものね。」

 ノイズ公爵は婚約を取りやめにしたいと言ってきたと言うのに、全く気にしていない様子の父上と母上。

(今はまだ一緒にお菓子を食べたり、魔法で遊んだりしている関係で、いいのかも知れないな。)

僕ものんびり構えていた。

 それにしても、エリザが大した事にならなくて良かった。自分の為のパーティーで父上や母上も招かれていたし、緊張したのかも知れないな。

 両親とそんな話をしてひと月ほど経った頃だった。ノイズ家から父上、母上、そして僕。全員との謁見の申し込みがあったのは。

 それは先日のノイズ公爵の溺愛話とは比較にならない大事件だった。僕とエリザの婚約に関して重大な問題が起こったので、僕たちに話を聞いて欲しいとのこと。話を聞いた上で父上に判断して欲しいとノイズ公爵から連絡があったのだ。

 それはエリザベートが見た夢の話だった。

 誕生パーティーの日、倒れている時に、彼女は長い長い夢を見たという。それもまるで実際に起こったかのように、繊細ではっきりとした夢だったそうだ。人々の服装、表情、会話の一つ一つに至るまで、明確に覚えているという。

 夢の中では僕と彼女は婚約していたそうだ。ちょっと嬉しいな。それでどうなるのだろう。少し楽しみな気がする。

 けれどその夢は僕の思ったような内容では無かった。

『エリザベート、お前との婚約を解消する。私は真実の愛を見つけたのだ。』

僕はそう言って彼女との婚約を破棄した。その場には相手の女性を同伴していたという。

(ありえない。)

 王都学園の卒業パーティーの真っ只中の出来事らしい。それだけではない。学園生活の中で、その真実の愛の相手の女性を、エリザが執拗にいじめたと、彼女の話を全く聞かずに、相手の女性の話だけを聞いて糾弾したのだとか。

「僕は騙されるところだった。お前がこんなに卑劣な人間とは思わなかった。お前との婚約はなかった事にする。」

僕はそう言って彼女を捨てたという。

 エリザは話ながら涙を流していた。なんという事だ。こんなにも愛おしく思っているのに。僕がキミを捨てるわけがないのに。

 エリザは少しだけ光魔法が使える。聖女に選ばれる程ではないらしいけれど。
それに隣国の聖女レティシア様の孫娘だ。
 
だから・・

彼女も予知夢が見れるのではないか?
見た夢は神託ではないのか?
2人の婚約は破棄になる。
だから最初から辞めておくように。
エリザに神様が教えてくれたのかも知れないと。

 話を聞いて父上が出した答えは

「エリザベート嬢の夢の話しが、神託の可能性がある限り、軽く考える事は出ぬ。」

「アフレイド、エリザベート嬢、誠に残念だが、息子ウィリアムとの婚約の話しはなかった事にして欲しい。すまぬ。」

まさかの展開になってしまった。
話をした後、エリザは涙を流していた。
僕も泣きたかった。

 この夢が神託ならば、エリザ以外の令嬢と婚約しても結果は同じだ。
その女性を傷つける事になる。
王家の嫁に相応しい相手を新たに見つけるのにも時間が必要だ。
エリザが婚約者候補から外れたと知ると、外野がうるさくなるだろう。自分の身内を未来の王妃にと。

 ノイズ公爵家とも今までと同じ関係でいたい。ノイズ公爵が父上の従兄弟で親しい学友であった事もさることながら、マーガレット夫人の存在が大きい。彼女は隣国であるアミルダ王国の先王と聖女レティシア様の娘。現在の国王の妹なのだ。ノイズ公爵家との関係は隣国との関係に影響する。だからこそ、エリザとの婚約がなくなるのは、我が王家にとっても痛い事なのだ。

 それで僕の両親とノイズ公爵との相談の結果、エリザの見た夢の内容は公表しない事になった。神託かも知れないという事もシークレット。公にしない秘密になった。

 エリザは僕の婚約者候補の筆頭のままにしておいて欲しいと父上が頼み、ノイズ公爵とエリザは了解した。エリザの母上のマーガレット夫人は、2人が納得した事には何も言わないだろうとの事だった。

 こうして、彼女は僕のカモフラージュ最有力婚約者候補になったのだ。 

エリザみたいな魅力的な女の子はもう見つからないだろう。僕のわがまま女王さま。
どんどん魅力的になっていくのに。もう僕の妃にはならないんだね。

 だけど、まだ見守っていける。
『カモフラージュ婚約者候補』という魔法の言葉のおかげで。
以前と変わりなく一緒に過ごしながら、年月が経っていった。

 その間に僕のエリザへの想いも少しずつ変わっていった。
キラキラ輝く彼女の眩しさは、手の届かない物語の主人公のよう。いつか母上と行った舞台観劇の女優を見ているよう。

 身近に感じながらも彼女の何かが、自分を突き放しているのをしっかりと感じてしまう。あの夢はそれほど彼女を傷つけたのだ。自分には関係のない夢の中の自分の行いが腹立たしい。僕でなくても良い。

 僕のカモフラージュ最有力婚約者候補殿。きみに幸せになって欲しい。これはもう家族愛だ。

 そんなある日のノイズ公爵家のお茶会で、僕はアントワーズを紹介された。

 好奇心に満ち溢れた瞳をした2歳年下の女の子。昔のエリザに似てる。あそこまで我儘でなく王女さま気質ではないけれど。彼女は本物の王女さまだった。
楽しい事が起こりそうな予感がした。

 あれから3年。僕とアントワーズはゆっくりと同じ時を重ねていった。笑いも涙も心配事も。お互いを思いやり一緒に考えて解決していった。 

 驚くほど行動力のある彼女は、魔法で髪の色を変えて商人の娘のような装いをして、ふらりとやってくる事がある。お忍びで買い物に誘われて何度も城を抜け出した。

 勿論、一歩離れて護衛に守られてはいるが。流石はエリザベートの従姉妹。アントワーズはエリザの夢の話も知っていて、婚約予定だった事も知っていた。

「ウィリさま、エリザお姉さまのファン1号の座はお譲りしますわ。
私より早く生まれて早く出会われたから仕方ないですわ。

ああ・・悔しいわ。
私が早く生まれていたら私がファン1号だったのに!」

この子はいいな。
存在が近くて追いかけなくても安心できる。エリザ以上の存在は現れないだろうと諦めていたけれど。彼女以上に魅力的な女の子は現れないと思っていたけれど。
神様は僕には意地悪だと思っていたけれど。

そうでもなかった。
また、このような気持ちになれるとは。

アントワーズ
僕と出会ってくれてありがとう。
愛おしいクルクル巻き毛の僕の天使。

 アントワーズを紹介してくれた、幼馴染で僕の初恋・エリザベートに感謝。
君にも良い相手が現れる事を祈っているよ。その相手にちょっと心当たりが無い訳ではないが。これは僕が口出しする事でもないよね。

 華やかなオレンジのドレスの彼女が、屋敷の門めがけて駆けてくる。そんなに急がなくても。馬車は逃げないよ。

 今日は学園の集会日。僕らは新入生代表として挨拶をするんだ。

これからも宜しく頼むよ。
僕の初恋、ダークブロンドの神託の王女。
キミの幸せを願っているよ。
僕の巻き毛の天使アントワーズと一緒に。
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