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しおりを挟む「奥様は心の綺麗な純粋そうな方ですね。安心いたしました」
プレスコット公爵邸の執務室にて、レスリーが腰を落ち着けて早々執事長のロイが話しかけてきた。
まるで、第8王女とは違ってとでも含みがありそうな感じだ。
ロイはレスリーの乳母兄弟であり、幼い頃からまるで本当の兄弟のように過ごしてきた。
今回の結婚については、レスリーから逃げるように失踪した第8王女にも、レスリーを蔑ろにするような国王の態度にもかなり憤慨していた。
結局はクレアとすることになった結婚についても、不満をこぼしていた。
だが、そんなロイですら、クレアのことをすでに受け入れつつあるようだ。
クレアがどんな人物なのか、レスリーはまだわかりかねていた。
彼女との結婚は数日前までは、予定外のことだったから。
プレスコット公爵家は代々、聖地や大聖堂を領内に抱えるセントリーベル領をおさめている。
王家とのつながりを強めるために、王命によってプレスコット公爵家嫡男と王女との婚姻が決められていた。
第8王女は魔術の才能に優れ、気の強い女性だった。
レスリーは一度会ったことあったが、彼女が不運体質の自分に対してあまり良い印象を持っていないだろうということは感じ取っていた。
だが、結婚が嫌で直前になって失踪するとまでは思っていなかった。
王命としては王女と結婚しさえすれば良いとのことで、レスリーに対して侮辱もいいところだが、すぐに代わりの王女を差し出してきた。
それが、第13王女のクレアだった。
彼女は社交の場にはほとんど顔を出していないため、どんな人物かあまり情報がなかった。
ただ、国一番の魔術師の母親から生まれたのに、魔力を一切持たないハズレ姫と呼ばれているということはすぐに分かった。
そのような蔑称で呼ばれているクレアの立場は強いものではないのだろう。
レスリーとの結婚が嫌だからといって、逃げ出すこともないと選ばれたのかもしれない。
プレスコット公爵家と王家との間での婚姻はどうしても必要だ。
クレアには申し訳なく思うが、せめてプレスコット公爵邸では不自由のないように彼女を迎えようと、レスリーは今日の結婚式に臨んでいた。
そして、結婚式でクレアに初めて会った時、装飾で取り繕ってはいるが王女らしからぬ彼女にレスリーは内心驚いていた。
ベールを上げて、顔を合わせたクレアはまだ少女のようでもあった。
今日は誓いのキスさえできなかったが、それはそれで良かったのかもしれない。
彼女を妻としてだけではなく、純粋な乙女として丁重に接しようと心に決めていた。
「旦那様、アンナです。奥様のことで、少しご報告したいことがございます」
「ああ、入ってくれ」
先程、クレアを部屋へと送り届けたばかりのアンナがレスリーの執務室を訪れた。
アンナにはクレア付きの侍女として、そしてレスリーへの報告係として些細なことでも伝えるように言っていた。
しかし、この短時間で何があったというのだろうか。
「失礼します。奥様はお部屋へとご案内し、夕食までお休みいただくようにお伝えしています」
「ありがとう。その時に何かあったのか?」
「何かあったというわけではありませんが、奥様は先程の挨拶の時もそうですが、侍女の私にも遠慮なさっているような方でした。ですので、差し出がましいとは思いつつも、侍女への態度について提言させていただきました」
「そうだな。恐らく王宮での彼女の立場は良くないものだったのだろう。プレスコット公爵邸の女主人としての彼女を支えてあげてくれ」
「かしこまりました。それと、もうひとつお耳に入れたいことが……」
「なんだ?」
それまでの報告は滞りなく話していたアンナだったが、続きを言うのが躊躇われるように言いづらそうにその先を口にした。
「奥様は私に“初夜”とはどんなことをするのかとお尋ねになりました。私から説明しても良いものかとその時は濁してしまったのですが」
「……そうか」
レスリーとアンナ、そしてそれを聞いていたロンも頭を抱え、息をついた。
クレアは成人していると聞いていたが、見た目としても言動としても本当はもっと幼い少女なのかもしれない。
彼女は一体、どんな人なのだろうか。
レスリーは彼女との結婚がどんなものになっていくのか、全く想像ができなかった。
そして、今夜はどう乗り越えようかと頭を悩ませ始めた。
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