【完結】不運体質な公爵様はハズレ姫を娶らされる

雫まりも

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 今日は特別な日だ。
 レスリーは今までは記念日なんてほとんど気にすることはなかったが、今日という日だけは大切に感じていた。
 なぜなら今日はクレアの誕生日。それも、成人となる日だからだ。
 レスリーはクレアがまだ成人していないと知った時、クレアの成人の日には盛大に祝いたいと思っていた。
 そして、クレアの要望を聞きつつ、張り切って準備を進めた。
 結局、屋敷の人間だけでの小さなパーティーになったが、それでもレスリーはクレアが喜ぶようにと色々考えた。
 クレアが笑ってくれたらと、そう考えるだけで楽しかった。

 パーティー会場は屋敷の中庭にした。
 今は晴れているが、いつ雨が降っても問題ないように雨よけの場所も用意してある。
 出来うる限りの準備はした。
 そして、自分自身も今日のために用意した正装に身を包み、クレアが来るのを待っていた。

「お待たせしました」

 中庭の花畑の中、そこに着飾ったクレアが現れる。
 レスリーはしっかりと着飾った彼女の姿を見るのは二度目だったが、一度目の結婚式の時よりも遥かに輝いて見えた。
 それはクレアが心身ともに健康になったということもあるだろうが、彼女が自分に自信を持ち、そして楽しんでいるからだろう。

「クレア様、お誕生日おめでとうございます。とても綺麗で見惚れてしまいました」
「ありがとうございます。レスリー様こそ、とても素敵です。今日はこんなに素晴らしいパーティーを準備してくださって嬉しいです」

 クレアは少し頬を赤くして、花が咲いたように微笑んでいた。
 レスリーはクレアのその表情を見られただけで、もう満足だった。

 その後はダンスを踊ったり、中庭を眺めたり、軽食を取ったり。穏やかで楽しい時間を過ごした。
 温かい安心して楽しめるようなパーティーになった。
 デザートまで食べ終わった時、クレアが少しソワソワした様子で口を開いた。

「レスリー様。先程、花壇を見た時にカタバミだけが咲いている場所がありました。あの花は実は雑草だったと知ったのですが、もしかして私が前に食べていたから育ててくれていたのですか?」

 クレアが屋敷に来てすぐの頃、彼女が食べていたカタバミの花をレスリーはクレアのために雑草としてではなく、花壇の一角に植えるように指示していた。
 その花壇がしっかりと育って花を咲かせていた。
 そのころは花の名前さえ知らなかったクレアだが、知識をつけてその花が雑草だと知ったのだろう。

「クレア様が気に入っているものは全て残しておきたかったので、庭師には変な顔をされましたがカタバミの花壇を作ってもらっていたんです」

 嘘はつけないので、レスリーは事実を話した。
 今思えば行き過ぎた行動だったかもしれない。
 けれど、それを聞いたクレアはとても嬉しそうだった。

「レスリー様、ありがとうございます。久しぶりに食べてみたくなりました。摘んできてもいいですか?」
「はい、もちろん」

 レスリー様の分も一番立派なものを選んできますね、とクレアは楽しそうに立ち上がった。
 クレアが花を摘む姿を見て、晴れた空を眺め、レスリーはこんな幸せな時間がずっと続いてほしいなと思わずにはいられなかった。

「レスリー様!」

 クレアが花を手にしてレスリーに駆け寄る。
 レスリーはまるで幸せが走って来てくれているように感じた。

 ―――キィィィィン

 しかし、幸せはレスリーの元には辿り着かなかった。
 大きな魔法発動の感覚。
 その瞬間、クレアは何かに打たれたような衝撃を受けると、その場に倒れた。
 クレアが手にしていた花が舞い散り、その中で苦痛に表情を歪めたクレアが倒れていく光景が、まるで時が止まったかのようにレスリーの目には映っていた。

「クレア様!!」

 レスリーはすぐにクレアに駆け寄った。
 彼女の胸からは止めどなく血が溢れていて、その顔からはどんどんと血の気が失われていく。
 そして、彼女の加護魔法は消失していた。
 レスリーは自身が使える最大限の治癒魔法をクレアにかけ続けた。
 だが、その血が止まる気配は少しもなかった。

「大きな魔法発動を感知しました。恐らく、もともと巧妙に隠されてクレア様にかけられていた魔法が加護魔法がなくなったと同時に発動したのでしょう。王宮魔術師の魔法ではないかと」
「分かっている!」

 医者と魔術師を大至急呼んでくるように指示したロイが止血を試みながらも、言いにくそうにそう口にした。
 そう、分かっている。
 この治癒魔法のかかりにくさ、そして王宮で冷遇されていたクレアの立場から彼女を処分するためにかけられていた魔法だとしたら、ただの貴族に太刀打ちできるわけがないことは。
 けれど、このままクレアを失うことなんて考えられなかった。

 レスリーはクレアに治癒魔法をかけるのをやめた。
 そして、別の力を使い始めた。
 クレアとレスリーは目も眩むほどの強い光に包まれた。

「その力は……レスリー!まさか、幸運の力を使うつもりなのか!すでに一度その力を使っているお前がまたその力を使えば、どんな不運が起こるか予想もできないぞ!」

 ロイはレスリーがしようとしていることに気づき、止めようと叫んだ。
 幸運の力は万能ではない。
 代償が大きすぎる。二度その力を使った者は命を落としたとも言われている。
 けれど、レスリーはそれでも力を使い続けた。

「かまうものか!どんな不運が訪れようとも、彼女を失う以上の不運なんてない!だから……だからどうか、お願いします。クレア様を助けてください。どうか僕達に幸運を」

 レスリーは心からの祈りを捧げた。
 そしてその直後、二人はより一層強い光に包まれた。
 その光はまるで花びらが舞うように無数の小さな光となると、パッと消えた。
 幸運の力は成功したのだろうか。
 横たわるクレアを皆、祈るように見つめていた。
 そんな静寂の中、クレアの瞼が開かれた。

 ワッと歓声が上がった。
 クレアは少し戸惑ったように、その歓声の中ゆっくりと体を起こした。

「レスリー様?」
「クレア様、良かった……!」

 レスリーはクレアを抱きしめずにはいられなかった。
 不安だった気持ちと安堵と嬉しさが一緒になって押し寄せてきていた。
 そんな感情が溢れるようにクレアを抱きしめたまま震えていたレスリーに、クレアは何も言わずに背中に手を回して抱きしめ返してくれた。

「あなたを失ってしまうかもしれないと思った時、とても怖かったんです。今までの不運なんて比じゃないくらいに。本当に良かった……」
「大丈夫ですよ、私はここにいますから。レスリー様が助けてくれたおかげです。ありがとうございます」

 クレアは震えるレスリーをなだめるように言葉をかけてくれた。
 自分が死にかけて怖かっただろうに、痛かっただろうに、そんな風に相手を思いやる。
 なんて優しくて強い人だろう。
 本当に魅力的で愛しくて、幸せになってほしい人だ。

「クレア様。僕とあなたは結婚していて、もうすでに愛の誓いは済んでいますが、もう一度言わせてください。僕はあなたを心から愛しています。病める時も健やかなる時もあなたを愛し、そして僕があなたを幸せにすると誓います」

 結婚式の時の形式的なものではない心からの愛の言葉。
 クレアにもそれが伝わったのか、嬉しそうにその誓いを受け入れると顔を上に向け目を瞑った。
 結婚式ではできなかった誓いのキスを待っているようだ。
 レスリーはあの時よりも緊張しながら、それでもそれ以上に幸せな気持ちで唇を重ねようとした。

「あっ……」

 だが、唇が触れ合う前にレスリーの頭の上に何かが落ちてきた感覚がした。
 クレアから身を離し、頭の上を触るとそこには鳥のフンがあった。

「不運だ……」

 誰かが、そう呟いたのが聞こえた。
 やっぱり、この体質からは逃れられないようだ。
 しかも、これからは今まで以上の不運に見舞われるかもしれない。
 クレアに愛を誓ったのは早まったかもしれない。
 そんな風にレスリーがまたぐるぐると考え出した時、目の前のクレアは少しムッとした表情をしていた。

「いいえ、大丈夫です。不運のまま終わりませんから」
「え?」

 クレアは不服そうにそう言うと、レスリーの肩に手をかけて彼女の方から顔を寄せた。
 次の瞬間、レスリーの唇には柔らかい唇の感触があった。

「こんな幸運があっていいのでしょうか。反動でどんな不運が待っていることか……」

 レスリーはクレアとの初めてのキスに胸が痛いほど熱くなったが、同時に幸せすぎて不安を感じた。
 だが、クレアはそんなレスリーの言葉を一蹴した。

「いいえ、不運なんて起こりません。だって、これは運なんかではありませんから。ただの愛の形です。私がレスリー様を心から愛している。ただそれだけのことですから」

 クレアはそう言って微笑むと、再び愛を示すために唇を重ねた。

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