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リビングのテーブルの前で、マイが手を広げて待っている。
テーブルの上をピョコピョコと歩いて、マイに近づいていくフクフク。
時折、羽ばたきたくなるのか布で固定されている羽を動かそうとしてバランスをくずし、コテッと倒れる。
それを見るたびに、マイが声を上げる。
「かわいい~」
フクフクの動きを見て抱きかかえて頬ずりしては、運動としてちょっと離したところにフクフクを置き、また手を広げて自分のところまで招き寄せている。
ただ、かわいいと言って笑顔を見せてはいるが、フクフクの布で巻いて固定した羽を見ては、少しだけ痛ましそうな顔にもなっていた。
先の醜悪なモンスターに襲われた後、採取の依頼はリベルテが一人でこなし、その間、マイはずっとフクフクの側にいると宿に篭っていたのだ。
王都に戻ってきた今も、フクフクの側から離れようとしてはいない。
「……フクフクの側に居て、世話をされているのは問題ないのですが、ずっと暗い感じのままなんですよねぇ。少し心配です」
マイとフクフクの様子を見ながら、リベルテが近くで水を飲んでいるレッドに思いをこぼす。
「ん~、こっちに戻って来てもフクフクの怪我はまだ治ってないんだよな? あの様子のアイツが好んで放置してるとは考えにくい。治してやれないってことに沈んでるんだろうよ。タカヒロはどう思う?」
レッドが隅で小さく座りこんで、部屋を涼しくしているタカヒロに言葉を投げる。
「レッドさんの考えてる通りだと思いますよ? ただ、僕も本人じゃないんで絶対とは言えませんけどね」
タカヒロも何か考え事をしている時間が増えていて、少し前ほどの賑やかな時間と言うのは無くなってきているようで、リベルテは少し寂しいと感じていた。
「あ~、そうだ。ゴブリンどうなりました?」
ゴブリンというのが、先にマイたちを襲ってきた醜悪なモンスターの呼び名となった。
リベルテたちを助けてくれたロックウェルたちが運んできたモンスターの検分が行われ、このモンスターがなんなのかという意見交換がなされたのだが、砦建設の手伝いから戻ってきたレッドたちもそれを見に行き、タカヒロがそのモンスターを見て、ゴブリン、と口にしてしまったのである。
当然、何で知っているのか、ほかに知っていることはないか、と取り囲まれて問わることになってしまい、タカヒロは四苦八苦しながら、昔そんな風なことを聞いた覚えがあるとか、伝聞だとか、言い伝えだと、なんとか濁すことに成功した。
しかし、その流れから、そのモンスターの呼び名は、ゴブリンで定着されてしまったのであった。
「どうなるも何も、どうしようもない。あの付近を兵に巡回してもらって警戒するだけだ。林に突っ込んでも、どこにいるかわからないし、下手に動いて境を抜けてしまえば、そのままアクネシアと開戦ってことになる。前の戦争から全然経ってないんだぞ? 開戦なんてなっても兵は足りないし、あのゴブリンだったか? そいつがどれ程の数かもわからないんだ。こっちが危険すぎる」
先の戦いでアクネシア周辺国は、アクネシアによって少なくない兵を失ってしまったため、報復としてすぐさま攻めることも出来ず、自国の防衛に回っている。
失った兵を整えるのに時間がかかる上、被害をもたらしたモンスターとそのモンスターを呼び出したであろう者の正体についてわからないことが多すぎるのである。
それに、肝心のアクネシアが、そのモンスターを使って周辺国に攻めかかってこないことも、周辺国を警戒させている。
「攻めてこないくせに、国境近郊にはそのモンスターが顔を見せているというのが、わかりませんね。アクネシアはどうしたいのでしょうか?」
「それを俺らが考えて分かるもんじゃないだろ? まぁ、あっちも想定外の何かがあって動けないとか、あいつら言うことを聞かせられないとかじゃねぇか?」
国の思惑を一平民が考えて、分かることではない。
そいういった見識が不足していると言うのもあるが、自身の生活といった目先のことを考えるのが精一杯なはずなのだ。それに、一平民が考えを口にして、自体がどうにか変わるなどと言う話でもないのだ。
レッドの言葉は投げやりであるが、それを深く話し合うだけ無駄だと割り切った言葉でもある。
何せまだ陽が明るい時間であり、これから仕事を探して稼げる時間なのだ。
取りとめも無く考えを口にするなんて、夜にお酒を飲みながらでいいのである。
「レッド、先の稼ぎがあるので、そこまで仕事をこなさなくても大丈夫ですよ?」
「いやいや、また遠くないうちに豊穣祭があるし、あって悪いもんじゃないだろ。いろいろと入用になる予感もするしな」
レッドたちが依頼で行った砦の建設は、完成までもうしばらく掛かりそうなほど、大規模な工事である。
近隣であるハーバランドや王都から人を集めていて、数日間に亘る依頼であったため、渡される報酬は結構な実入りとなっていた。
しかも、レッドたちの報酬は、他よりもさらに上乗せがあったりする。
タカヒロが石材を作りだしたのが理由で、いくらか工事期間の短縮に繋がるだろう働きに色づけしてくれたのである。
それだけ稼いだレッドたちであるが、その日を十分に暮らせる額を持っているとしても、そこからさらにお金を稼ぐことに悪いことは無い。
豊穣祭はオルグラント王国各地から、多くの食べ物が集められるお祭りであり、その土地へ旅しなければその日を逃すと口に出来ないかもしれないと考えれば、手元にお金をたっぷりと用意しないと堪能できないと言えてしまうのだ。
「んじゃ、畑の仕事がそろそろ来てるはずなんで行ってくる」
収穫時期になってきた作物があり、その刈り取りの手伝いの依頼がくるのである。
肥沃な土地が広がって入れば、畑も広く持てるはずなのであるが、畑仕事より華やかな仕事を望む者が多いもので、畑から離れてしまう人が多い。
また、先の戦争で失った兵の補充があり、畑仕事から兵に志願する者も少なくなく、前年より畑仕事の従事者が不足してしまうこととなっていた。
レッドは例年通りだとい言ったが、ギルドには貼りだされている畑の依頼は前年以上となっている。
「あ~、それじゃあ、僕も行きますよ」
タカヒロがのんびりと、レッドについていくことを自ら言う。
その瞬間、レッドがとても信じられないものを見たという顔になり、近くで聞いていたリベルテも驚愕した顔となっていた。
「え? そこまで?」
そんな二人の反応に、タカヒロは戸惑うとともに面白く無いと言う表情をするが、レッドたちはそんな表情に反応しない。
「いや、お前……。普段の言動を顧みろよ。なんか変なもんでも食ったのか?」
「タカヒロさん……。熱でもあるのでは? ゆっくり休まれた方が……」
「えぇ~~~……」
少し自主性を見せたら体調を心配され、そんな評価だったのかと、タカヒロは肩を落とした。
「んじゃ、行ってくる」
そして、そんなタカヒロを流して出て行ってしまうレッド。
タカヒロはチラッとリベルテを見るが、笑顔で手を振られ、ため息をつきつつレッドの後を追って出て行く。
家の空気を少しでも変えようとしたのと、タカヒロへのからかいであったのだ。
残ったリベルテはマイを見るが、マイはフクフクを撫でながら、考え事をするように窓の外を見ていた。
「お~、今年もまた見事な景観だな」
早速、畑に向かったレッドは、一面に実をつけて風に揺れる小麦畑に感嘆を漏らす。
「見る分にはすごい景色ですよねぇ。見る分には」
タカヒロもまたその景色に圧倒されているのだが、これから人力で刈り取って行くんだよねぇ、と続く言葉には早くもげんなりとした雰囲気を滲ませていた。
「いや~、また今年も来ていただいて助かりますわ」
依頼してきた畑の持ち主であるご年配の男性が、レッドたちに笑いかける。
「種まいて世話するのも大変だろうけど、さすがに収穫はもっときついでしょうから。こっちも依頼出してもらって助かるんで、お気になさらず」
年上には敬意を払っているレッドであるが、普段の言葉遣いに慣れているタカヒロとしては、普段との落差に笑ってしまいそうになり、堪えるのが厳しい。
「お~っし、それじゃあやるぞ。タカヒロ」
「へ~い」
レッドが手馴れた手つきで、ザックザックと刈り取っていく。
遅れてタカヒロも刈り取っていくが、どんどんとレッドの姿が遠くなっていく。
屈んだ姿勢をとり続けることに慣れてはいないタカヒロは、何度も身体を起こしては伸びをしたり、腰を叩いたりしてしまう。
そうしている間に、レッドが大部分を刈り取っていたらしい。
「慣れてないと、身体きついだろ」
「レッドさんも本職じゃないでしょ……」
慣れるまで辛いんだよなと言うレッドに、農家じゃないから慣れるほどやれないとつっこむタカヒロ。
レッドもそりゃそうだと笑い声を上げる。
収穫作業と言うこともあって、のんびりとした空気が流れていた。
「ねぇ、レッドさん」
「ん?」
ふとタカヒロがレッドに呼びかける。
「僕らが力を失ったとしたらどうします?」
軽い感じで問いかけた言い方であったが、タカヒロ本人は緊張しているように見えた。
「ん? 俺らと同じになるだけだろ。この国で生きる人間にな」
だからレッドは即答する。自身がずっと思っていたことを。
その力があるからこそ、暴走したりしないかと近くで見ることにしてきたレッドとリベルテ。
二人がその力を失ってしまうということであれば、それは自分たちと変わらない、この国で生きている一人の平民となるだけである。
他者を圧倒したり、だれも持ち得ない力が無ければ、タカヒロたちの世界の考えを押し付けることは無くなるはずだ。
いや、自分たちが知っている世界のことを持ち出してきても、他の人々が同じ理解に至るまでに、長い時間を要することになるだろう。
それでいいのだ。
急激にモノを押し付け、広げる必要なんて無い。
長い時間がかかっても、必要であれば、人は自分たちで考えて作っていけるものなのだから。
「……そっか。そうですね。普通の人になるだけ……か。僕は普通の人になりますよ」
宣言するようにはっきりと言葉にするタカヒロ。
「なんだよ、それ」
どこかおかしな言葉であるが、歓迎すべきだと思った。
「んじゃ、収穫作業続けようぜ。生きていくためにもな」
収穫時期を迎えた小麦畑には、まだまだその実を揺らす畑が広がっていた。
テーブルの上をピョコピョコと歩いて、マイに近づいていくフクフク。
時折、羽ばたきたくなるのか布で固定されている羽を動かそうとしてバランスをくずし、コテッと倒れる。
それを見るたびに、マイが声を上げる。
「かわいい~」
フクフクの動きを見て抱きかかえて頬ずりしては、運動としてちょっと離したところにフクフクを置き、また手を広げて自分のところまで招き寄せている。
ただ、かわいいと言って笑顔を見せてはいるが、フクフクの布で巻いて固定した羽を見ては、少しだけ痛ましそうな顔にもなっていた。
先の醜悪なモンスターに襲われた後、採取の依頼はリベルテが一人でこなし、その間、マイはずっとフクフクの側にいると宿に篭っていたのだ。
王都に戻ってきた今も、フクフクの側から離れようとしてはいない。
「……フクフクの側に居て、世話をされているのは問題ないのですが、ずっと暗い感じのままなんですよねぇ。少し心配です」
マイとフクフクの様子を見ながら、リベルテが近くで水を飲んでいるレッドに思いをこぼす。
「ん~、こっちに戻って来てもフクフクの怪我はまだ治ってないんだよな? あの様子のアイツが好んで放置してるとは考えにくい。治してやれないってことに沈んでるんだろうよ。タカヒロはどう思う?」
レッドが隅で小さく座りこんで、部屋を涼しくしているタカヒロに言葉を投げる。
「レッドさんの考えてる通りだと思いますよ? ただ、僕も本人じゃないんで絶対とは言えませんけどね」
タカヒロも何か考え事をしている時間が増えていて、少し前ほどの賑やかな時間と言うのは無くなってきているようで、リベルテは少し寂しいと感じていた。
「あ~、そうだ。ゴブリンどうなりました?」
ゴブリンというのが、先にマイたちを襲ってきた醜悪なモンスターの呼び名となった。
リベルテたちを助けてくれたロックウェルたちが運んできたモンスターの検分が行われ、このモンスターがなんなのかという意見交換がなされたのだが、砦建設の手伝いから戻ってきたレッドたちもそれを見に行き、タカヒロがそのモンスターを見て、ゴブリン、と口にしてしまったのである。
当然、何で知っているのか、ほかに知っていることはないか、と取り囲まれて問わることになってしまい、タカヒロは四苦八苦しながら、昔そんな風なことを聞いた覚えがあるとか、伝聞だとか、言い伝えだと、なんとか濁すことに成功した。
しかし、その流れから、そのモンスターの呼び名は、ゴブリンで定着されてしまったのであった。
「どうなるも何も、どうしようもない。あの付近を兵に巡回してもらって警戒するだけだ。林に突っ込んでも、どこにいるかわからないし、下手に動いて境を抜けてしまえば、そのままアクネシアと開戦ってことになる。前の戦争から全然経ってないんだぞ? 開戦なんてなっても兵は足りないし、あのゴブリンだったか? そいつがどれ程の数かもわからないんだ。こっちが危険すぎる」
先の戦いでアクネシア周辺国は、アクネシアによって少なくない兵を失ってしまったため、報復としてすぐさま攻めることも出来ず、自国の防衛に回っている。
失った兵を整えるのに時間がかかる上、被害をもたらしたモンスターとそのモンスターを呼び出したであろう者の正体についてわからないことが多すぎるのである。
それに、肝心のアクネシアが、そのモンスターを使って周辺国に攻めかかってこないことも、周辺国を警戒させている。
「攻めてこないくせに、国境近郊にはそのモンスターが顔を見せているというのが、わかりませんね。アクネシアはどうしたいのでしょうか?」
「それを俺らが考えて分かるもんじゃないだろ? まぁ、あっちも想定外の何かがあって動けないとか、あいつら言うことを聞かせられないとかじゃねぇか?」
国の思惑を一平民が考えて、分かることではない。
そいういった見識が不足していると言うのもあるが、自身の生活といった目先のことを考えるのが精一杯なはずなのだ。それに、一平民が考えを口にして、自体がどうにか変わるなどと言う話でもないのだ。
レッドの言葉は投げやりであるが、それを深く話し合うだけ無駄だと割り切った言葉でもある。
何せまだ陽が明るい時間であり、これから仕事を探して稼げる時間なのだ。
取りとめも無く考えを口にするなんて、夜にお酒を飲みながらでいいのである。
「レッド、先の稼ぎがあるので、そこまで仕事をこなさなくても大丈夫ですよ?」
「いやいや、また遠くないうちに豊穣祭があるし、あって悪いもんじゃないだろ。いろいろと入用になる予感もするしな」
レッドたちが依頼で行った砦の建設は、完成までもうしばらく掛かりそうなほど、大規模な工事である。
近隣であるハーバランドや王都から人を集めていて、数日間に亘る依頼であったため、渡される報酬は結構な実入りとなっていた。
しかも、レッドたちの報酬は、他よりもさらに上乗せがあったりする。
タカヒロが石材を作りだしたのが理由で、いくらか工事期間の短縮に繋がるだろう働きに色づけしてくれたのである。
それだけ稼いだレッドたちであるが、その日を十分に暮らせる額を持っているとしても、そこからさらにお金を稼ぐことに悪いことは無い。
豊穣祭はオルグラント王国各地から、多くの食べ物が集められるお祭りであり、その土地へ旅しなければその日を逃すと口に出来ないかもしれないと考えれば、手元にお金をたっぷりと用意しないと堪能できないと言えてしまうのだ。
「んじゃ、畑の仕事がそろそろ来てるはずなんで行ってくる」
収穫時期になってきた作物があり、その刈り取りの手伝いの依頼がくるのである。
肥沃な土地が広がって入れば、畑も広く持てるはずなのであるが、畑仕事より華やかな仕事を望む者が多いもので、畑から離れてしまう人が多い。
また、先の戦争で失った兵の補充があり、畑仕事から兵に志願する者も少なくなく、前年より畑仕事の従事者が不足してしまうこととなっていた。
レッドは例年通りだとい言ったが、ギルドには貼りだされている畑の依頼は前年以上となっている。
「あ~、それじゃあ、僕も行きますよ」
タカヒロがのんびりと、レッドについていくことを自ら言う。
その瞬間、レッドがとても信じられないものを見たという顔になり、近くで聞いていたリベルテも驚愕した顔となっていた。
「え? そこまで?」
そんな二人の反応に、タカヒロは戸惑うとともに面白く無いと言う表情をするが、レッドたちはそんな表情に反応しない。
「いや、お前……。普段の言動を顧みろよ。なんか変なもんでも食ったのか?」
「タカヒロさん……。熱でもあるのでは? ゆっくり休まれた方が……」
「えぇ~~~……」
少し自主性を見せたら体調を心配され、そんな評価だったのかと、タカヒロは肩を落とした。
「んじゃ、行ってくる」
そして、そんなタカヒロを流して出て行ってしまうレッド。
タカヒロはチラッとリベルテを見るが、笑顔で手を振られ、ため息をつきつつレッドの後を追って出て行く。
家の空気を少しでも変えようとしたのと、タカヒロへのからかいであったのだ。
残ったリベルテはマイを見るが、マイはフクフクを撫でながら、考え事をするように窓の外を見ていた。
「お~、今年もまた見事な景観だな」
早速、畑に向かったレッドは、一面に実をつけて風に揺れる小麦畑に感嘆を漏らす。
「見る分にはすごい景色ですよねぇ。見る分には」
タカヒロもまたその景色に圧倒されているのだが、これから人力で刈り取って行くんだよねぇ、と続く言葉には早くもげんなりとした雰囲気を滲ませていた。
「いや~、また今年も来ていただいて助かりますわ」
依頼してきた畑の持ち主であるご年配の男性が、レッドたちに笑いかける。
「種まいて世話するのも大変だろうけど、さすがに収穫はもっときついでしょうから。こっちも依頼出してもらって助かるんで、お気になさらず」
年上には敬意を払っているレッドであるが、普段の言葉遣いに慣れているタカヒロとしては、普段との落差に笑ってしまいそうになり、堪えるのが厳しい。
「お~っし、それじゃあやるぞ。タカヒロ」
「へ~い」
レッドが手馴れた手つきで、ザックザックと刈り取っていく。
遅れてタカヒロも刈り取っていくが、どんどんとレッドの姿が遠くなっていく。
屈んだ姿勢をとり続けることに慣れてはいないタカヒロは、何度も身体を起こしては伸びをしたり、腰を叩いたりしてしまう。
そうしている間に、レッドが大部分を刈り取っていたらしい。
「慣れてないと、身体きついだろ」
「レッドさんも本職じゃないでしょ……」
慣れるまで辛いんだよなと言うレッドに、農家じゃないから慣れるほどやれないとつっこむタカヒロ。
レッドもそりゃそうだと笑い声を上げる。
収穫作業と言うこともあって、のんびりとした空気が流れていた。
「ねぇ、レッドさん」
「ん?」
ふとタカヒロがレッドに呼びかける。
「僕らが力を失ったとしたらどうします?」
軽い感じで問いかけた言い方であったが、タカヒロ本人は緊張しているように見えた。
「ん? 俺らと同じになるだけだろ。この国で生きる人間にな」
だからレッドは即答する。自身がずっと思っていたことを。
その力があるからこそ、暴走したりしないかと近くで見ることにしてきたレッドとリベルテ。
二人がその力を失ってしまうということであれば、それは自分たちと変わらない、この国で生きている一人の平民となるだけである。
他者を圧倒したり、だれも持ち得ない力が無ければ、タカヒロたちの世界の考えを押し付けることは無くなるはずだ。
いや、自分たちが知っている世界のことを持ち出してきても、他の人々が同じ理解に至るまでに、長い時間を要することになるだろう。
それでいいのだ。
急激にモノを押し付け、広げる必要なんて無い。
長い時間がかかっても、必要であれば、人は自分たちで考えて作っていけるものなのだから。
「……そっか。そうですね。普通の人になるだけ……か。僕は普通の人になりますよ」
宣言するようにはっきりと言葉にするタカヒロ。
「なんだよ、それ」
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