王国冒険者の生活(修正版)

雪月透

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翌日、レッドたちは揃って冒険者ギルドへと来ていた。
ハーバランドの冒険者ギルドのマスター、サバランに話を聞くためである。
ハーバランドのギルドは、今日になっても相変わらずに出入りしている冒険者の数が多く、活気があると言えば良く聞こえるが、冒険者という職がそもそも職にあぶれた人たちの受け皿であれば、あまり褒められる状況ではない。
そしてなにより、王都のギルドと違って、冒険者同士が揉めている声が時折、混じってくることもある。
職員がカウンター内に留まらず、動き回っているのももめている声が聞こえ始めたくらいであり、仲裁に手間を取られているのがよくわかるものになっていた。

「……はぁ。本当に忙しそうですねぇ」
タカヒロが面倒な冒険者たちに割り入って仲裁し、カウンターに戻っては依頼の手続きを行っていく職員の姿に引き気味のため息を漏らす。
忙しすぎるような仕事の光景を見てしまえば、その仕事に就きたいと考える人は減ってしまいそうなものだ。
接客業であるためににこやかに対応しているが、職員のほとんどに疲労が見えていて、同じ冒険者であり、つい昨日、ギルマスを気絶させてしまったレッドは、職員の状況を見て気まずいことこの上なかった。

「あ、サバランさん。居ましたよ。手早く済ませてしまいましょう。邪魔にしかなりませんからね」
リベルテがサバランの姿を見つけ、少し優しい顔で促す。
リベルテの表情にマイは他の人に見られないように、小さくほっと息を吐いていた。
リベルテから何故かはわからないが、朝起きた時から妙に機嫌が悪いというか、ピリピリとしたものを感じていたのだ。
レッドもタカヒロも気づいている様子は無く、相談のしようもなくてマイは一人気を揉んでいたのだが、今さっき、いつもの雰囲気に戻ったようで息を吐いた。
しかし、結局、何故機嫌が悪かったのか、理由は分からないままだった。

「おや? レッド君たちじゃないか。今日は皆揃ってるね」
昨日より幾分か血色の良さそうな顔でサバランが出迎えてくれた。
サバランの明るさにレッドは何か病気にでもなったかと、一人ヒヤヒヤし、すぐに挨拶を返すことが出来ない。
「サバランさん。体調が良さそうで安心しました。昨日は、申し訳ありませんでした」
リベルテが頭を下げ、未だ固まっているレッドの足を踏む。
踏まれた痛みで気を取り戻したレッドは、リベルテを見て慌ててサバランに頭を下げる。
「すみませんでした!」
「いやいや。大丈夫だよ。まぁ、外面的には受けざるを得ないよね。謝罪は受け取りました。以後は気をつけてください」
少し笑い混じりにサバランは簡単に済ませてくれて、レッドは肩の荷が下りた気持ちになる。
「いや~、最近あまり寝れてなくて。むしろ気を失ったことで体は休めた感じだよ。他の職員に羨ましがられたくらいさ。まぁ、仕事が溜まってるから、これからまた徹夜になるかなぁ」
が、サバランの笑いにしようとした黒い言葉に、ずんと肩がまた重くなる。
仕事が詰まれた原因と職員との不和を生み出すことになった原因に、自分が影響させてしまったということになるからだ。
タカヒロやマイから向けられる視線も、なんとも居たたまれなさを醸し出してくる。
ちらっとリベルテに目を向けるが、リベルテは自業自得だと笑みを浮かべるだけだった。

レッドはさっさと王都に帰りたくなり、腰を浮かせたところでリベルテに背中を叩かれ、腰を下ろす。
聞きたいことをちゃんと聞いてからにしろ、と言う指摘である。
「あ~っと、すみません。ユーセーが冒険者を辞めたって話なんですけど、詳しく教えてもらってもいいですか? アイツは悔しいですが剣の腕はかなり立ちましたし、ギルドの仕事も多くこなしていたじゃないですか。だから何があったのかと……」
サバランが少し薄くなっている頭に手を当て、あ~と声を上げる。
「まぁ、気になるよねぇ……。彼は冒険者を辞めて農家になったんだよ。稼いだお金を使って優先して良いところの畑をもらったようでね。道具も揃えて、なんか羨ましいくらいに良い顔で野菜を育ててたよ」
誰の話をしているのかと、思わずレッドはリベルテと顔を見合わせてしまう。
あれだけ剣の腕があったにも関わらず、怪我をしたわけでもないのに、剣を捨てて畑を取ったということが首を傾げさせる。
ただ、タカヒロたちはなんとなくわかったような反応を示していた。

「あ~、疲れちゃったのかな? なんでか漠然と畑仕事に惹かれるのってわかるかも」
「私たちと同じ人になるんだよね? 名前も私たちの世界側っぽいし。そうなると、力無くなっちゃったからかもじゃない?」
タカヒロとマイは二人で分かったように話をしていて、レッドは二人に何を分かったのか聞こうとするが、それより先にタカヒロがサバランに質問してしまう。
「彼の周囲にいた人たちってどうなったんですか?」
タカヒロの質問に、レッドはユーセーを取り巻くように女性の冒険者が数人居たことを思い出す。
ユーセーに惹かれていたと言うのもあるだろうが、どちらかと言えば彼の稼ぎであったり、ギルドにおいての彼の地位、立場を目当てにしていたように思い起こされる。
討伐の依頼は報酬が高く、それを多くこなしていたユーセーは結構な蓄えを持っていたはずであり、ギルドで彼に文句をつけた者たちは軒並み倒され、他の人たちはユーセーに逆らわなくなっていたので、近くに居ることで自分たちもその恩恵に与れたためだろうと思われるのだ。

「あ~、彼女たちも全員、冒険者を辞めてしまったよ。まぁ、彼女たちはそこまで腕が立つ冒険者ではなかったし、今のように仕事と冒険者が溢れてきてる状況では、違う職に就けるなら就いて貰えて良かったなって思うよ。一人だけは商会ギルドの人と結婚していて、他の人たちははユーセーについていってるよ。彼女たちも真剣に野菜育ててたねぇ」
冒険者を辞めたユーセーの様子を見に行ったことがあるのだろう。サバランは先ほどから微笑ましい光景を思い起こしながら話していた。
「へぇ~、ついていったんだ。すごいね」
「それだけ魅力的だったってことなんじゃない? タカヒロ君も頑張ってね」
よろしくと肩を叩かれ、タカヒロは目を開いてマイを見た後、覚悟を決めたように、頑張りますと返事をする。
どことなく、タカヒロたちが二人の空気を作り始めていて、レッドはなんとなく面白くない。
面白くないが、若いっていいよね、と眺めるサバランと優しく微笑んで見守るリベルテの前に、邪魔することも出来ず、出されていた水をちびちびと飲んで、タカヒロたちが戻ってくるのを待つしかなかった。

「え~……、すみません」
戻ってきたらしいタカヒロが、周りを見回して頭を下げる。
少し首元が赤くなっているように見えたが、下手に突いてまた長くなっても困るため、レッドはそっと目を逸らした。
ギルドが忙しいからこれ以上はとしてギルドを辞去して、レッドとリベルテは宿に戻る。
タカヒロとマイは街を回ってくるらしく、ギルドを出た所で二手に分かれていた。
「ふぅ~。……あいつが剣を置いたとはなぁ。ひとまず安心していいんだろうか?」
「真面目に畑仕事に就かれているそうですから、問題は起こさないのでは? まぁ、何かを作り出そうとするのはあるかもしれませんね。それでも、自身の仕事に関わることであれば、農作業に関わるものでしょうか? ファルケン伯が大きく関わる所になりますから、勝手に大きな影響を出すことはないのでは、と思います」
「若干、希望が入っているけどな」
レッドが苦笑を見せれば、リベルテも肩を竦める。
『神の玩具』はその力を失ったとしても、そこで大人しくなるものではない。
知識が残っているので、それでこの世界に影響を与えそうな何かを作り出すことが出来なくないのだ。
だから、力を失ったからと警戒しなくてよい、とはレッドたちは考えていなかった。

宿で大人しく、帰りの準備を進めながらリベルテが窓の外に目を向けると、タカヒロたちが宿に向かってきているのが見えた。
両手に荷物を抱えているようなのだが、早い戻りで大量の荷物を持っていると言う時点で食べ物関連なのだろうなと気づいてしまい、リベルテの顔から小さな笑みがこぼれてしまう。
だが、その笑みは一瞬だけだった。
リベルテが少し目線を動かした後、真剣な表情となったのだ。
「リベルテ、どうかしたのか?」
「……また見張りが居ます」
レッドも眉をしかめる。
レッドも誰かが見張っている感じには気づいていたが、相手がどこの者か、そして何を目的としているのかわからないため、下手に動かないようにしていたのである。

「見張りがついているのは、タカヒロたちか?」
リベルテが小さく首を縦に動かす。
二手に分かれたのは、監視しているものが誰を監視しているのか確認することも含んでいたのである。
そして、レッドたちが宿に戻ってきた時には監視しているだろう気配はなく、タカヒロたちが戻ってきているところで、監視している者の気配が戻ってきたのだ。
まだなんとも言えず、二人は頷きあう。
迂闊にタカヒロたちに話さないことを決めたのである。
「ただいま戻りました~。いっぱい美味しそうなのがありましたよ!」
マイが部屋に勢い良く入ってくる。
明るい声で、見てきた店は楽しかったようであり、監視されていることに気づいた様子はまったくなかった。
「マイさんが選んできたとなると、とても楽しみですね」
「へへ~、いっぱいあるから皆で食べましょう。私の奢りです!」
「おお~。ありがたい」

次々とテーブルの上に並べていく。ハーバランドで取れる野菜を使った料理に、ハーバランドから帰らなくてはいけないことが、なんとなく惜しまれてきてしまうものだった。
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