王国冒険者の生活(修正版)

雪月透

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レッドたちは王都への帰路に就いていた。
想定していたよりも予定がすんなりと終わってしまったことに加え、予定よりもお金を使っていたことが理由だった。
「あ~、もう少しくらい居たかったですね。まだ見て回れませんでしたし」
「おまえさんが飯処ばかり見てきただけだろ。武器や防具の出来を見てくるとか、薬師なんだからこちらでよく取れる薬草を買っておくとかあっただろ」
御者をしているレッドから後ろも見ずに言葉をかけられ、マイはむぅっとふくれる。
食べ物を手一杯に買ってきて、それ以上持てないとタカヒロに言われて、他を見てまわるでもなくすぐに宿に戻ることになったのは、自分が原因なので反論出来なかったのだ。

「早く帰ることになったのは、タカヒロ君の用事が早く終わったからだもん。そうじゃなきゃ、もう数日くらい居たでしょう?」
同意を得ようとマイはリベルテの方に視線を向けるが、言っていてタカヒロへの不満に気持ちが向いて、タカヒロに苦情を申し立てる。
リベルテはマイたちのやりとりをいつも通りに微笑んで見守っているのだが、どことなく他に注意を払っているようだったので、マイは邪魔しないようにタカヒロに話を向けただけである。
「そこで僕のせいにされてもねぇ……。早く帰ってゆっくりした方が良くない? お金の問題もないわけじゃないし……」
以前のようにハーバランドで冒険者ギルドの依頼を受けて稼ぎつつならお金の心配は軽減できたが、あれだけ混んでいた上に、タカヒロとマイは冒険者ではなくなっているため、稼ぐことができなくなっているのだ。
さすがに、レッドたちの稼ぎに頼り切るなんて考えをタカヒロは持てなかった。

「伯爵との話はいかがだったのですか?」
リベルテが時折、後方を気にしながらファルケン伯との話はどうだったのか質問してくる。
ハーバランドの宿では聞こうとしなかったし、タカヒロに話をさせもしなかったため、これまでどんな内容だったか話せていなかった。
それと言うのも、ハーバランドがファルケン伯の領地であり、迂闊な話をするのは危険だとリベルテが止めていたからだった。
それが聞いてきたと言うことは、ハーバランドから離れ、内容がどうであれ話をしても良いと、判断したということになる。
ただ、迂闊に話しては危険だからと止められてきた話を本当に話しても良い物かと、タカヒロはリベルテの顔を二度ほど見直し、何も言わなかったので口を開く。
タカヒロ自身も何か感じたものがあったので、リベルテたちに話をしたかったのだ。

「ファルケン伯、すごく彼女のこと褒めてたんですよね。そんなに絶賛する人を他所へ出すものですかね? 居てもらった方が自分にとっても、ハーバランドにとっても良いように思えたんですけど」
「あ~、そう言われて見るとそうだよねぇ」
溜め込んでいた自身の考えを吐き出すタカヒロに、ウンウンとマイが同意する。
リベルテは考え込むように目を瞑り、指先で軽く頭を叩いていた。
「優秀だからこそ、国のために必要だと送った可能性。邪魔になったから送った可能性。問題を起こすだろうと考えて送った可能性。考えられることは多いですね」
リベルテの言葉に、え? と顔を向けるタカヒロとマイ。
「必要だと思ったからって言うのはわかりますよ? 中央がしっかりすればファルケン伯たちの領地にも恩恵はあるのかなって思えますし。でも、邪魔になったからとか、問題を起こしそうだからってなんですか?」
「一番考えやすいのは邪魔になったから、なんですよ。ファルケン伯の相談役になっていたと言うことですが、相談した結果、上手くいったのであれば、その功績は誰のものになると思いますか?」
「ファルケン伯なんじゃないですか? 実際に動いたのは伯爵さんですよね?」
リベルテが首を横に振る。
「必ずしもそうとは認めてくれないのが人の世界ですよ。実際に手配を行ったのは領主であるファルケン伯ですけれど、アンリさんに相談したから上手くいったんだ、成功したんだと言う言葉はどこからか上がってしまうものです。本当に相談されているのですから、否定も出来ません。そうなると、評価され、功績があるとされるのはアンリさんになるのです」

アンリの存在が表に出ていないなら、前に出て実行していたファルケン伯だけが称えられたのかもしれないが、いろいろな施策を口にして実行したり、道具を作ったり、他の人たちの相談にものったりと、彼女は裏に徹しきっていたわけではなかった。
最初は彼女の言葉を信じて、自身にわかるように解釈して、それで実行して成果がでたのだと思う。
初めの頃は、成果に純粋に喜びが勝るだけだっただろう。
だが、段々と彼女に相談する機会が増え、彼女に相談したことで生まれてくる実績に彼女も精力的に動き始めてくる。
いや、周りも彼女の恩恵に預かろうと接触していったというのもあるかもしれない。
それが広がって彼女が前に出てくることで、領主はファルケン伯なのだが、アンリに頼ることが増えていくことにつながってくる。
実際に、彼女が優秀であり、成果を生み出してきているのだから、ファルケン伯より重視する人が出てきても不思議ではない。
ファルケン伯が自身で考えて実施したものでも、成果が出れば彼女に相談したからだとか、失敗すれば彼女に相談しなかったからだと言われるようになっていたことも想像できなくないのだ。
そうなっていたならば、自身の地位、名誉を守るために、彼女を手元に置き続けることを望むか、と言うことになるのだ。

「……そんなことで?」
「そんなことと言いますが、タカヒロさんならばその状況を受け入れられるのですか?」
タカヒロが何かを思い出すように目を上に向け、苦い顔になる。
「ファルケン伯は伯爵位です。貴族としても、領主としても矜持が許さない、と言うのは十分に考えられるのですよ」
「あ、あの。問題を起こしそうって、どうしてそう思ったんでしょうか?」
リベルテに反論出来ず、暗い顔になっていくタカヒロに代わり、マイが手をあげて質問する。
「そうですね……。ファルケン伯を押しのけて前に出るような人であれば、中央に行ったら問題を起こしそうだと思いませんか? 自分より身分が上の方を、自分を拾ってくださった方を押しのけて前に出てくる人ですよ。ファルケン伯は彼女の強くなっていく名声のに手が出せなかったのかもしれませんが、中央ではハーバランドほどの強さはありません。中央に居る貴族の方が強い権力を持っている方も多いですし。王都で問題が起きても、もう中央へ送った後なのですからファルケン伯に責はありませんし、中央で片付ける問題となります」
「え? 推薦したファルケン伯は責められないんですか?」
「まったく無いわけではないのでしょうけれど……、彼女を受け入れたのは中央ですし、ファルケン伯が指示してそうさせただとか、そんな根も葉も無い噂を広げた所でファルケン伯への責にはならないでしょうね。ランサナ砦での功績もありますし。ハーバランドで問題になっていなかったのですから、中央が管理できなかったとかそんな話になるのだと思いますよ」
ファルケン伯がアンリの後ろ盾になるつもりは無く、アンリから手を引いているだろうことを知り、彼女の先を考え、馬車は沈んだ空気となる。
馬車は静かに揺られていく。辺りも静かになっていた。

「リベルテ」
小さくも少し険を含んだ声がレッドから上がる。
リベルテは荷台から身を乗り出さないようにして、後ろを覗き見る。
後方から馬でかなりの速度で近づいてきている者たちが見えたのだ。
「後ろに二! おそらく、周囲にも居るわ!」
「え? 何? 何があったの?」
突如として緊迫した雰囲気になり、不穏さを感じ取ったマイが軽いパニックになって、うっすらと目に涙を浮かべる。
「賊ですか? どうして僕らを!?」
「このタイミングだ、本当に賊かも怪しいぞ」
人数が多く、多少の荷物を載せている馬車の速度より、人一人乗っているだけの馬の方が速い。
見る見るうちに距離が縮まってくる。
そして、ヒュンという風切り音が聞こえてすぐ、荷台の板に刺さる音が響いた。

「うわぁ!?」
「前の方に寄りなさい!」
一本だけで終わるわけがない。
少しでも危険を避けるようにリベルテに促され、マイが荷台の前方の方に身を寄せてうずくまる。
「タカヒロ、やれるか?」
逃げ切れる速さでは無いのだから、身を守るためには戦うしかない。
だが、止まって迎え撃つには周囲に遮蔽物が無く、相手が馬で走りながらではかえって危険な行動となる。
あたりを見回しても遮蔽物に出来そうな物もなければ、平坦な道が続いていた。

「も、森に逃げられないんですか?」
「そこまで相手が待ってくれるならな!」
森の中に馬車で突っ込めはしない。
馬車を降りて走って逃げ込まなくてはいけないのだが、その間は相手からは絶好の的になるだけである。
リベルテが弓を手にしてタカヒロを見る。いつでもいける、と目で訴えていた。
タカヒロは震える手をグッと握り、長く息を吐く。
「よっし、やるよっ!」
タカヒロが後方から迫ってくる相手に向かって腕を振る。
シュンと音が一瞬だけ聞こえると、相手の馬の首元から大きく血が噴出した。
嘶いて棹立ちになった馬から人が落ちる。
そこをリベルテの弓が違わず落馬した相手の喉に刺さり、相手が動かなくなる。
鮮やかな手並みに、タカヒロは思わず唾を飲み込んだ。本気で怖いと思ったのだ。
もう一人の方に続けざまにリベルテが弓を放つが、矢は当たることなく、相手の後方で落ちる。
走っている馬車から動いている相手に当てるのはかなりの腕がいる。
そして、相手は一人やられたことで、大きく警戒しだしたのだから、簡単に当たらない。

荷台から見える範囲に敵の姿が見えなくなって、タカヒロが荷台から身を乗り出そうとする。
「タカヒロ君、あぶないって!!」
マイが乗り出そうとしたタカヒロの服を引っ張って止める。
「なんとかしないと!!」
「タカヒロさん! 岩をばら撒けませんか?」
タカヒロは風の魔法が使い勝手が良いと思っていたため、他の魔法を使うことが浮かんでいなかったことに、あ、と口を開けてしまった。
大きすぎないが小石よりは大き目の岩と呼べるかくらいのものを、荷台から見える範囲の少し外側に向かって撃ち出す。
突然足場が悪くなったことに、馬の足を止めたようであった。
「やった!」
タカヒロが喜んで小さくなっていく敵の姿を見送っていると、血を流して倒れている人を二つほど目にしてしまう。
レッドの方に振り向くと、タカヒロたちの視線に気づいたのかレッドが軽く手をあげる。
どうやら後ろ以外から来ていた敵をレッドが倒していたようであった。
少し視線を落とせば、レッドが腰元に付けていた短剣が二つほどなくなっていた。
レッドたちが改めて強かったことに感心していると、レッドがちょっとすねた様な声でタカヒロを責める。
「俺たちが弱いとか思ったろ? おまえ、モレクで酒おごれな」
「ふふ。いいですね! タカヒロさん、ありがとうございます」
「え? 僕も活躍しましたよね? って言うか、そんなこと思ってませんし、なんでそう思ったんですかー!?」
タカヒロの方を見たわけでもないのに、内心少しだけ思っていたことを指摘されて、タカヒロの声は少し上ずっていた。
少し明るい声が響く馬車から、ハーバランドはすっかりと見えなくなっていた。
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