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3章

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                               angel

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--------もうダメだ

 何度そう思っただろう。

 俺の全身が汗なのか血なのかグッショリと濡れている。
 獣化した俺に敵なんかいないと思っていた。
 沸き上がる力、どこまでも高く飛べる跳躍力。
 俺はうぬぼれていた。


「グゥッ--------!!」

 ゲルゼルもどきの攻撃に弾き飛ばされた場所で蹲り、地面を見つめる。

 --------ここは


 我武者羅に逃げてきたその場所は見覚えがあった。

 --------ここなら


 そう思ったとき


「おぇ…!!!!!!!!!」


 俺の命より大事なアルゼの声が聞こえた。

 焼け焦げた樹々の向こうに見える白い髪。
 離れていたのなんて1ウユーにも満たないだろうにひどく懐かしく感じた。
 と同時にハッと我に返る。

『なぜ戻ってきた!!逃げろ--------!』

 大声を出しゲルゼルもどきの注意をひく。

「おぇ…ケガ。いたぃ…?おぇ、おぇが…!」

 ブゥンと風切り音がなるゲルゼルの一撃をすんでの所でかわし後ずさる。

 --------あと少しなんだ


 そう、ここの後ろは世界の切れ目と言われる深い深い谷。
 誰もその底を見たことがないくらい深くて幅が広くて、この底に行った者は誰もいない。

「---------------------!!!」


 ひときわ大きな唸り声をあげ襲い掛かってきたゲルゼルもどきをかわし背後からその巨体を押さえつける。

「---------------------!!!」

 頭の中まで響く叫び声を近距離で聞かされ、耳がビリビリと震えたのち何も聞こえなくなる。


「………………!!」

 アルゼが何か叫んでいるのに何も聞こえない。

 --------あぁ…。あの可愛らしい声が聞けないのはツライな

 そんな呑気なことを考えていると毛が皮膚が焼ける嫌なにおいがしてきた。
 渾身の力で押さえつけているゲルゼルもどきに俺の体が焼けれているのに、なぜか痛くない。




 --------アルゼ

 叫んでいるであろうアルゼの体を抱きしめ止めているのは若い村人。
 その後ろに見えるのは様々な武器や農機具を手にたたずむ村の男たちと族長。

 --------逃げればいいものを

 ゲルゼルの動きを抑えるのも限界がある。
 首元にくらいつき覚悟を決める。

 --------消えろ消えろ

 顎が砕けようとも構わない。
 こいつを殺さなければ俺の大事なアルゼが…!
 口の中まで焼けただれて感覚がなくなってくる。

 --------アルゼ


 最後に視界の端にアルゼの姿を収めながら体にあふれてくる力を解き放つ。

「ガァアアアーーーーーーー!!!」

 ゲルゼルもどきの体を振り回しそのまま谷底のほうへと放り投げた。


 空高く上がったゲルゼルもどきと視線が絡んだ時、その燃えるように赤かった瞳が揺らめき、一瞬知性のようなものが感じられた。

 ユックリと谷底へと落ちていくゲルゼルは心なしか黒い瘴気が減っているようにも見えたが、俺の意識はそこでプッツリと途切れた。




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