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4章

1 【千早】視点

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 危機は去った。

 数日、警戒して見張っていたが、世界の切れ目へと落ちていったゲルゼルが上がってくることはなかった。


 そして嫌われ者のアルゼ異質な存在の目が覚めることもなかった。
 俺が生まれる数ウユー前にリウアン族の中に生まれた
 見たこともなかったソイツは寝物語に語られる怪物で、子供の頃から恐ろしかった。

 アルゼがおぇと呼ぶ黒獣人を初めて目にした時、ゲルゼルと戦うその姿から目が離せなかった。
 獣化したリウアン族よりもはるかに大きくですべての毛が真っ黒で。
 俺の頭の中では【リウアン族であるはずがない】という確信めいたものが渦巻いていた。


 毎年、冬眠する村のはずれのはずれにアルゼ異質な存在はやってきていて【ちゃんと眠らない悪い子はアルゼ異質な存在に食べられてしまうよ】と脅されたものだった。
 昔、子供の頃のアルゼ異質な存在を見たことがあると言う村人の話によると、アイツの背丈が村1番の屋敷ほどもあってその瞳を見ると足が石に変えられたように動けなくなったそうだ。

 だけど--------

 アルゼ異質な存在よりも大きくて黒い瘴気を体から出しているゲルゼルを抑え込んでいる姿は、恐れていた怪物のイメージとは異なり。

 なんていうか…

 そう、神々しかった。



 長く艶やかな漆黒の毛並み、鍵型に曲がった鋭い爪。
 リウアン族とは違いフサフサの黒い毛に覆われた長い尻尾。
 目の前で血まみれになって戦っている黒獣人は嫌われ者のアルゼ異質な存在のはずなのに。



 現れたら最後、村が壊滅するまで荒らしつくすと言う伝説の生き物ゲルゼルを一人で倒してしまった。


 非力な俺たちは武器を握りしめ見ていることしか出来なかった。





 *

 ゲルゼルを世界の切れ目へと落とした後力尽きたように倒れたアルゼ異質な存在が人型へと変わってゆく。
 獣化していた時から大けがしているであろうことはわかっていたが、その体は傷だらけであるだけではなく、大火傷も負っていて見るに堪えない状態だった。

 --------助からない

 誰もがそう思った。
 嫌われ者のアルゼ異質な存在が伝説のゲルゼルを倒して死んだ--------

 それは美談となり寝物語のあらすじも変わってゆくだろう。




 アルゼ異質な存在に縋り付き泣いているアルゼが、その傷にピンク色の可愛らしい舌を這わせている。

「おぇ--------!…ぃたい。あぁあ、おぇ、…きてぇ。おぎでぇえええ」

 必死に傷を舐めながら呼びかけアルゼ異質な存在を揺するアルゼ。


「ダメだ。」

 そういったのは族長である父親。


 そうアルゼ異質な存在はもうだめだ助かるわけがな…

「揺するんじゃない、そっと運ぶんだ」


 その言葉にその場にいた全員がギョッとした。




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