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4章
2 *族長視点
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生まれた時からとびきり可愛くて、一生守ると決めた妹が流れ者の女の血筋の男と結婚したいと言い出した時。
『アイツだけは駄目だ、お前には相応しくない』と一族中で説得してもどんなに言葉を尽くしても、おとなしくて素直な妹なのにそれだけは頑として聞き入れなかった。
家に閉じ込め会わさないようにすると断食をはじめみるみる痩せ衰えていった。
『あの人と添い遂げれないなら生きていたくないのよ』
そういう妹に折れるしかなかった--------
それから長い間、村のはずれにあるそいつの家で仲睦まじく暮らしていた妹だが、赤子を授かることはなかった。
可愛い妹が産む子供を見てみたくもあったが、素性のしれない流れ者の女の孫であるリウアンもどきの男の血が残らないのはそれはそれでいいと思ってたのに。
アイツが生まれてしまった。
産んだ妹が悲鳴をあげ、その場にいた者が全員逃げ出すほどのアルゼ。
真っ黒な毛に覆われたその体、リウアン族であるはずもなかった。
生まれてすぐなのにしっかりと開いたその瞳は夜空の星に例えるのもおこがましい程ギラギラと光っていた。
族長の妹がアルゼを生んだ。
そんな噂は瞬く間に村中に広まり、アルゼを殺せと集会所に集まる村人たち。
まだ赤子であるのに一緒の部屋にいられないほどの恐怖を感じ、失禁するものまで現れる生き物を生かしておく道理はない。
だが--------
アルゼを殺すと私の最愛の妹がどれほど悲しむだろう。
あれほど欲しがっていた子供をようやく授かり、輝くような笑顔で膨らんできた腹をさすっていた妹。
私が村人を説得する傍らで床に頭をこすりつけ土下座をする流れ者の孫。
喧々諤々の協議の結果、村から追い出すことに決まった。
*
「族長」
ハッと追憶から意識を戻された私の前には村1番の薬師の男が立っていた。
どうだ?と聞くまでもなく頭を左右に振っている。
全身の傷から流れ出す血は思ったより早く止まったが、火傷のほうがひどかった。
『アルゼの診察なんてとんでもない』と拒む薬師の家に、ルセが泣きながら乗り込み居座り懇願しているその横で薬師の子供たちも一緒になって頼んだ。
恐る恐る近づき嫌々診断し、火傷の処置もし、アルゼの全身を包帯でグルグル巻きにした薬師も匙を投げた。
--------やはり助からない。
そのことにホッとしたのは嘘ではない。
長年の頭痛の種だったアルゼがようやく死ぬのだから。
けれど、すぐさま浮かぶのは亡くなった最愛の妹の言葉。
『兄様、あの子を…頼みます。どうか、どうかくれぐれも…』
こんなに若くして亡くなるのは、山頂での厳しい生活のせいなのに。
そしてそんな生活しか許してやれなかった、村人を抑えきれなかった私の力不足のせいなのに。
今際の際まで口にしたのはアルゼの行く末のことだけだった。
体中の水分がなくなってしまう程に泣きすがっていた真っ白なルセが、息子の千早に寄りかかるようにして眠りに落ちている。
アルゼを村はずれの廃屋に運び込んでから3日目。
助かって欲しいという気持ちとこのまま楽になってくれという願いが胸の中に混在していた--------
『アイツだけは駄目だ、お前には相応しくない』と一族中で説得してもどんなに言葉を尽くしても、おとなしくて素直な妹なのにそれだけは頑として聞き入れなかった。
家に閉じ込め会わさないようにすると断食をはじめみるみる痩せ衰えていった。
『あの人と添い遂げれないなら生きていたくないのよ』
そういう妹に折れるしかなかった--------
それから長い間、村のはずれにあるそいつの家で仲睦まじく暮らしていた妹だが、赤子を授かることはなかった。
可愛い妹が産む子供を見てみたくもあったが、素性のしれない流れ者の女の孫であるリウアンもどきの男の血が残らないのはそれはそれでいいと思ってたのに。
アイツが生まれてしまった。
産んだ妹が悲鳴をあげ、その場にいた者が全員逃げ出すほどのアルゼ。
真っ黒な毛に覆われたその体、リウアン族であるはずもなかった。
生まれてすぐなのにしっかりと開いたその瞳は夜空の星に例えるのもおこがましい程ギラギラと光っていた。
族長の妹がアルゼを生んだ。
そんな噂は瞬く間に村中に広まり、アルゼを殺せと集会所に集まる村人たち。
まだ赤子であるのに一緒の部屋にいられないほどの恐怖を感じ、失禁するものまで現れる生き物を生かしておく道理はない。
だが--------
アルゼを殺すと私の最愛の妹がどれほど悲しむだろう。
あれほど欲しがっていた子供をようやく授かり、輝くような笑顔で膨らんできた腹をさすっていた妹。
私が村人を説得する傍らで床に頭をこすりつけ土下座をする流れ者の孫。
喧々諤々の協議の結果、村から追い出すことに決まった。
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「族長」
ハッと追憶から意識を戻された私の前には村1番の薬師の男が立っていた。
どうだ?と聞くまでもなく頭を左右に振っている。
全身の傷から流れ出す血は思ったより早く止まったが、火傷のほうがひどかった。
『アルゼの診察なんてとんでもない』と拒む薬師の家に、ルセが泣きながら乗り込み居座り懇願しているその横で薬師の子供たちも一緒になって頼んだ。
恐る恐る近づき嫌々診断し、火傷の処置もし、アルゼの全身を包帯でグルグル巻きにした薬師も匙を投げた。
--------やはり助からない。
そのことにホッとしたのは嘘ではない。
長年の頭痛の種だったアルゼがようやく死ぬのだから。
けれど、すぐさま浮かぶのは亡くなった最愛の妹の言葉。
『兄様、あの子を…頼みます。どうか、どうかくれぐれも…』
こんなに若くして亡くなるのは、山頂での厳しい生活のせいなのに。
そしてそんな生活しか許してやれなかった、村人を抑えきれなかった私の力不足のせいなのに。
今際の際まで口にしたのはアルゼの行く末のことだけだった。
体中の水分がなくなってしまう程に泣きすがっていた真っ白なルセが、息子の千早に寄りかかるようにして眠りに落ちている。
アルゼを村はずれの廃屋に運び込んでから3日目。
助かって欲しいという気持ちとこのまま楽になってくれという願いが胸の中に混在していた--------
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