66 / 152
【第四章】魔王様との魔界生活
十二話 ユタカと指輪の愛の呪い
しおりを挟む食事も終え、家事をしようと思ったがイーグルがそれを止める。
「お前らはどっか行ってろ」
「え、でも」
「リスドォルの結界から出たくねーし、ほとんどやる事ねーんだから暇潰しの邪魔すんな」
ツンデレもあるだろうけど、暇なのも本当だと思う。
リズ様が魔界では暇だとよく言っていたから、俺も暇潰しの準備はして来た。
だが、突然魔界に滞在する事になったイーグルにはそういったものはないだろうし、何より行動に制限があるのだ。
俺は自分の荷物からゲーム機とタブレットを持って来た。
「じゃあお礼にこれ貸す。壊すなよ」
「なんだこりゃあ」
タブレットには参考書や小説、多くはないが漫画も電子書籍として入っている。
ゲーム機は最近、山里の話題に付き合えるようになりたくて購入した。
山里のオススメのゲームをいくつかダウンロード購入してるし、ネット接続が必要ないようにできる限り本体に保存してある。
使い方を説明すると、慣れない手つきながらもイーグルは直ぐに操作を覚えた。
「すげぇな、魔法のない世界なのに便利じゃねーか」
「魔法がないから誰でも便利に使える物ができていくんだよ」
途中からリズ様も覗き込んで興味深そうにしている。読書が好きなリズ様はタブレットについて質問してきた。
神の力の情報収集は、雑多で膨大な情報から自分で手探りで拾わなければいけない。基本的に時間に余裕のある神に検索エンジンは必要ないという事らしい。
だがリズ様は、神の力よりも限定的であっても決まった情報を得られる読書の方が好きなのだ。
タブレットは次に来た時のお土産にしよう。バイト増やさないとな。
「充電が無くなりそうだったらこれ使っていいから」
更に大容量のモバイルバッテリーもイーグルに渡しておく。
バッテリーを用意しなくても、いつか魔力を電力に変換できるように考えてみた方がいいかもしれない。
だが、改めて考えようにも、そもそも俺自身が電気、電力をよくわかってないのだ。
理科の授業程度の知識で魔力を電力に変化するにはイメージが足りな過ぎる。
雷は呼べるけど、それを電子機器に使えるレベルに調節ってことが難しそうだ。
それより地球に戻って実家で充電した方が圧倒的に楽だな。
うん、帰ろう。
「ユタカ?」
「わっ、すみませんリズ様、なんでしょうか」
考え事をしていたらリズ様が俺の顔を覗き込んでいた。
「イーグルの留守番は決まったとして、私達は指輪の素材採集でもどうかと言ったんだ」
「指輪!」
そうだ、こっちでの目的の一つでもある、正式な結婚指輪。
魔物には結婚指輪という風習はないみたいだけど、贈り物というのは関係性を問わず嬉しいものだ。
「互いに素材を一つ選んで、二種類の合成を試すつもりだ」
相手の事を考えて選んだ素材で作る指輪って良い。とても良い。
「やっぱり鉱石を集めればいいんですか?」
「鉱石でも構わないし、植物でも、氷でも、骨でも魔力が通う物であれば何でもいい」
素材によって様々な効果が付与できるが、原則として指輪は一種類の効果しか持たないらしい。
今回リズ様は二種類の素材を試し、新しい指輪の付与効果を研究したいという目的もある。
俺はそこまで効果を重視しないけど、そういう目的があると素材集めが楽しくなるので乗り気だ。
しかしあまりに自由度が高い。何か素材に目安があるといいんだけど。
「魔力の含有量とかで何か変わったりしますか?」
「用途次第だな」
今つけている指輪は『道標』の役割があって、素材にそこまで魔力を含む必要はないが、地属性を含む、鉱石か植物の素材が必要らしい。
「素材が氷だとどんな効果があるんですか?」
「夏場に冷房のように身のまわりが常に涼しく過ごせる」
「べ、便利」
結婚指輪じゃなくても欲しくなる機能だ。
地球で売って欲しい。
「まあ魔界は気候が安定しているから必要ないがな。他には水属性に関する効果を付けやすいとかもあるが、他の素材でも代用できる」
属性については山里から得たファンタジー作品の知識とほとんど共通していたのでなんとなくわかったが、骨は想像ができない。
「骨はどんな効果がありますか?」
「基本的には呪いだが、地球の言葉で言うなら『浮気防止機能』だな」
魔界に恋愛感情での結婚自体がほとんどないため、浮気という概念がほぼ存在していない。だが所有物として相手の行動を制限したがる場合もあるらしい。
指輪の共有者以外に触れると痛みが走るとか、酷いものだと不貞行為で即死まで幅広い。
「俺達には全く必要ありませんね」
「凄い自信だな」
「俺がリズ様より強くあればいいだけなので。余所見はさせませんよ!」
「くっくっく……それはそうだが、ユタカが私以外の存在に目移りする事は考えていないのか?」
俺がリズ様以外に……?
なるほど、その考えはなかった。
まだまだ俺の愛は足りないようなので、呪いを取り入れるべきかもしれない。
「リズ様が俺の気持ちを疑う余地がまだあるのでしたら、それを解決したいです。少しでも俺が別の存在に恋愛感情を抱いたり性的な気持ちになった瞬間、目が潰れて他の存在に触れられないように手足が瞬時になくなるとか、その上でリズ様が持っている知識の中で最も時間がかかって苦しむ死に方をするようにしたらより安心ですね。是非そういう効果を俺の指輪に付けてください。なんなら骨は俺の骨を使った方が効果ありそうですね」
俺は笑って思い付く限りの提案をしてみた。
しかし、リズ様は静かになるし、イーグルは家から出て行くし、反応が想像と違う。
「ユタカ、怒っているのか」
「何故ですか!? あっ、死ぬとか言わないようにしてたんでした。やっぱり死なずに永遠に苦しむように変更させてください」
「そうではない、悪かった、私が悪かったから、もう二度とお前の気持ちを疑ったりはしないから。いや、そもそも疑っていた訳ではないのだが……」
別に気持ちを疑われてなくても、どうせ絶対に発動しない自信があるので呪いの効果を付けてもいいのだが、呪いは一切付与しないとリズ様に約束させられたのだった。
17
あなたにおすすめの小説
【完結】※セーブポイントに入って一汁三菜の夕飯を頂いた勇者くんは体力が全回復します。
きのこいもむし
BL
ある日突然セーブポイントになってしまった自宅のクローゼットからダンジョン攻略中の勇者くんが出てきたので、一汁三菜の夕飯を作って一緒に食べようねみたいなお料理BLです。
自炊に目覚めた独身フリーターのアラサー男子(27)が、セーブポイントの中に入ると体力が全回復するタイプの勇者くん(19)を餌付けしてそれを肴に旨い酒を飲むだけの逆異世界転移もの。
食いしん坊わんこのローグライク系勇者×料理好きのセーブポイント系平凡受けの超ほんわかした感じの話です。
イケメン後輩のスマホを拾ったらロック画が俺でした
天埜鳩愛
BL
☆本編番外編 完結済✨ 感想嬉しいです!
元バスケ部の俺が拾ったスマホのロック画は、ユニフォーム姿の“俺”。
持ち主は、顔面国宝の一年生。
なんで俺の写真? なんでロック画?
問い詰める間もなく「この人が最優先なんで」って宣言されて、女子の悲鳴の中、肩を掴まれて連行された。……俺、ただスマホ届けに来ただけなんだけど。
頼られたら嫌とは言えない南澤燈真は高校二年生。クールなイケメン後輩、北門唯が置き忘れたスマホを手に取ってみると、ロック画が何故か中学時代の燈真だった! 北門はモテ男ゆえに女子からしつこくされ、燈真が助けることに。その日から学年を越え急激に仲良くなる二人。燈真は誰にも言えなかった悩みを北門にだけ打ち明けて……。一途なメロ後輩 × 絆され男前先輩の、救いすくわれ・持ちつ持たれつラブ!
☆ノベマ!の青春BLコンテスト最終選考作品に加筆&新エピソードを加えたアルファポリス版です。
わがまま放題の悪役令息はイケメンの王に溺愛される
水ノ瀬 あおい
BL
若くして王となった幼馴染のリューラと公爵令息として生まれた頃からチヤホヤされ、神童とも言われて調子に乗っていたサライド。
昔は泣き虫で気弱だったリューラだが、いつの間にか顔も性格も身体つきも政治手腕も剣の腕も……何もかも完璧で、手の届かない眩しい存在になっていた。
年下でもあるリューラに何一つ敵わず、不貞腐れていたサライド。
リューラが国民から愛され、称賛される度にサライドは少し憎らしく思っていた。
【完結】愛されたかった僕の人生
Kanade
BL
✯オメガバース
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
お見合いから一年半の交際を経て、結婚(番婚)をして3年。
今日も《夫》は帰らない。
《夫》には僕以外の『番』がいる。
ねぇ、どうしてなの?
一目惚れだって言ったじゃない。
愛してるって言ってくれたじゃないか。
ねぇ、僕はもう要らないの…?
独りで過ごす『発情期』は辛いよ…。
異世界にやってきたら氷の宰相様が毎日お手製の弁当を持たせてくれる
七瀬京
BL
異世界に召喚された大学生ルイは、この世界を救う「巫覡」として、力を失った宝珠を癒やす役目を与えられる。
だが、異界の食べ物を受けつけない身体に苦しみ、倒れてしまう。
そんな彼を救ったのは、“氷の宰相”と呼ばれる美貌の男・ルースア。
唯一ルイが食べられるのは、彼の手で作られた料理だけ――。
優しさに触れるたび、ルイの胸に芽生える感情は“感謝”か、それとも“恋”か。
穏やかな日々の中で、ふたりの距離は静かに溶け合っていく。
――心と身体を癒やす、年の差主従ファンタジーBL。
竜の生贄になった僕だけど、甘やかされて幸せすぎっ!【完結】
ぬこまる
BL
竜の獣人はスパダリの超絶イケメン!主人公は女の子と間違うほどの美少年。この物語は勘違いから始まるBLです。2人の視点が交互に読めてハラハラドキドキ!面白いと思います。ぜひご覧くださいませ。感想お待ちしております。
俺、転生したら社畜メンタルのまま超絶イケメンになってた件~転生したのに、恋愛難易度はなぜかハードモード
中岡 始
BL
ブラック企業の激務で過労死した40歳の社畜・藤堂悠真。
目を覚ますと、高校2年生の自分に転生していた。
しかも、鏡に映ったのは芸能人レベルの超絶イケメン。
転入初日から女子たちに囲まれ、学園中の話題の的に。
だが、社畜思考が抜けず**「これはマーケティング施策か?」**と疑うばかり。
そして、モテすぎて業務過多状態に陥る。
弁当争奪戦、放課後のデート攻勢…悠真の平穏は完全に崩壊。
そんな中、唯一冷静な男・藤崎颯斗の存在に救われる。
颯斗はやたらと落ち着いていて、悠真をさりげなくフォローする。
「お前といると、楽だ」
次第に悠真の中で、彼の存在が大きくなっていき――。
「お前、俺から逃げるな」
颯斗の言葉に、悠真の心は大きく揺れ動く。
転生×学園ラブコメ×じわじわ迫る恋。
これは、悠真が「本当に選ぶべきもの」を見つける物語。
続編『元社畜の俺、大学生になってまたモテすぎてるけど、今度は恋人がいるので無理です』
かつてブラック企業で心を擦り減らし、過労死した元社畜の男・藤堂悠真は、
転生した高校時代を経て、無事に大学生になった――
恋人である藤崎颯斗と共に。
だが、大学という“自由すぎる”世界は、ふたりの関係を少しずつ揺らがせていく。
「付き合ってるけど、誰にも言っていない」
その選択が、予想以上のすれ違いを生んでいった。
モテ地獄の再来、空気を読み続ける日々、
そして自分で自分を苦しめていた“頑張る癖”。
甘えたくても甘えられない――
そんな悠真の隣で、颯斗はずっと静かに手を差し伸べ続ける。
過去に縛られていた悠真が、未来を見つめ直すまでの
じれ甘・再構築・すれ違いと回復のキャンパス・ラブストーリー。
今度こそ、言葉にする。
「好きだよ」って、ちゃんと。
魔界最強に転生した社畜は、イケメン王子に奪い合われることになりました
タタミ
BL
ブラック企業に務める社畜・佐藤流嘉。
クリスマスも残業確定の非リア人生は、トラックの激突により突然終了する。
死後目覚めると、目の前で見目麗しい天使が微笑んでいた。
「ここは天国ではなく魔界です」
天使に会えたと喜んだのもつかの間、そこは天国などではなく魔法が当たり前にある世界・魔界だと知らされる。そして流嘉は、魔界に君臨する最強の支配者『至上様』に転生していたのだった。
「至上様、私に接吻を」
「あっ。ああ、接吻か……って、接吻!?なんだそれ、まさかキスですか!?」
何が起こっているのかわからないうちに、流嘉の前に現れたのは美しい4人の王子。この4王子にキスをして、結婚相手を選ばなければならないと言われて──!?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる