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奨励賞記念 ジン×デュラム

六話 アジト訪問 デュラム視点

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 ネックレスの効果でちゃんと親子は生きていたが、さすがに意識がなく沈みかけていた。ひとまず沈まない様に頭は魔法で浮かせておいたが、俺とジンが助け上げてしまってはこいつらのメンツが潰れてしまう。船に乗せるのも救命ボートに乗せる事もできない。
 ならばこの世界に一切関係ない存在であれば、プライドやら立場やら関係なく助けても大丈夫だろう。そう考えた俺は魔王を呼んだ。魔力で繋がっているので念話みたいな事ができる。理由を説明したらすぐに来てくれた。本当、いつもありがとう。船員にバレないようにコソコソと魔王に親子を引き渡した。


「この人間を潮の流れで行き着きそうなクードの浜辺に寝かせておけばいいんだな?」
「うん、悪いけどそんな感じで。よろしくお願いします」


 俺が頭を下げると魔王は頬を緩めた。


「お安い御用だ。フランセーズもデュラムも自分から誰かに頼る事を覚えてくれて嬉しいよ。子供達の事も私達に任せてゆっくり休んでくるといい」
「ほんとありがとな。ユタカにもよろしく言っておいて」
「ああ」


 黒い靄が魔王の周囲を覆うと、そのまま風と共に消えていった。
 船はそのままジンの所有する港へ向かった。ジンのアジトで作業が色々あるみたい。俺、初めて行くからちょっとワクワクしてる。


 ■■■


 港に到着するとジンの部下と思しき人間が10人くらいで出迎えてくれた。睨んでいる訳ではないが、全員の俺への視線が痛い。一応俺がジンの伴侶という説明はしてあるらしいが、この視線はどういう意味だろうか。突然現れた珍獣みたいな?
 俺が内心ビクビクしていると、大勢の中の側近っぽい2人が前に出てきた。白い髪の女性と紫の髪の男性だ。


「おかえりなさいませ、ボス」
「ラフィネは私と来い、休暇中の業務の確認だ。リュバンはディーをアジトに案内しろ。彼は自由に行動させていい」
「はい」


 女の人はラフィネか。20歳くらいかな。髪を結わえて高い位置でまとめている秘書って感じの落ち着いた人だ。そして俺の前に来たリュバンはベリショの髪、顎ひげを生やした背の高い30代のザ・悪者みたいな強面。威圧係って感じかな。


「こっちだ。ついて来い」
「はい」


 レンガ造りの建物をいくつか過ぎ、更に歩みを進めると狭い路地に入り、古そうな木の扉をリュバンは開けた。少し進むとまた扉があり、その先には地下へ続く広い階段があった。階段の下は高級ホテルにでもなったみたいに、赤い絨毯が敷き詰められた空間になった。一番奥にある大きな扉を通れば、地下とは思えない高い天井のホールに出た。そこでリュバンは足を止め、俺に振り返った。


「ボスが戻るまでの間、好きな場所へお連れするように言われている。迷子にならないように案内するだけだから、監視というつもりはない。気を悪くしないでくれ」
「ご丁寧にありがとうございます。では……調理場が見たいです」
「ぶふぅっ!!」


 えっ、いきなりリュバンが噴き出したんだけど。そっから腹を抱えて笑いまくってる。なんで。


「あ、あの……私は、何か変な事を言いましたか?」
「いや、ハハッ……失礼……ボスから聞いていたんですけど……まさか本当に最初に調理場って言いだすとは……ウヒヒヒッ!!」
「そんなに面白いですかね?」
「クヒッ……面白いですよ……だって、あのボスが……真面目な顔で『調理場を綺麗にしておけ。パートナーは確実に行きたがる』って言ってて……ウッヒャハハ! 今思い出しても笑える!!」


 なるほど。リュバンはよく笑う人だ。よく泣く俺と正反対だね。明るい空気に俺も緊張が解れてありがたい。


「これでも私はボスの事を胃袋で掴んだので」
「ヴェッヘヘ! あっあの! 食事中に、眉一つ動かさないボスが!」


 ああ、やっぱりここではそんな感じなんだ。ジンってば、ボスとしてめっちゃ大人っぽく振舞おうと頑張ってるもんなぁ。料理の感想が自然と口から出るのを我慢してる顔なんだろうね。可愛い。周りから見たら味にうるさいボスみたいな印象になってそうだけど、実際は何食べても幸せそうにする子ですよ。俺がこの場にいると少しは変化があるだろうか。ちょっと試してみたいかも。


「ボスはここに戻って来るんですよね? あとで煮魚が届くと思うので、それを使ってボスの好きな料理を披露しましょうか」
「ウヒャヒャ!! そりゃあ楽しみですな。では調理場はこっちです、今は誰も使っていないはずなので」


 調理場へ向かう広い通路を歩いている間、少し打ち解けたリュバンが声を掛けてきた。身の上話をしてくれるらしい。


「俺は元は浮浪者で、身なりの良いお坊ちゃんだと思ってボスを襲ったんですよ。金を出せ~ってな。でも何日も食ってなくて、ほとんど力も出なくて……ボスにひと蹴りされただけで倒れてしまいましてね」


 おお、やっぱりジンってば危険な目に遭ってるんだ。でもジンは最低限の護身術はできるし、そこらの一般人ならひと蹴りで済むよな。ジンの成長を感じて嬉しくなる。


「ボスは『食うに困って悪い事をするのはしょうがない。生きるためだし、判断力も鈍っているからな』と倒れている俺に言った。そこからすぐに消化の良い食事を食わされてね……それが出会いでした。さっきいた白い髪のラフィネも、カビたパン欲しさに身体を売ってたような空腹で死にかけてた女だった。そういうヤツをボスはどんどん仲間にしてしまうんです」
「ふふ、なんというかボスらしい。よくわかります」
「ボスのアジトはいくつかあるんだが、どこも調理場が広くて、食材は常に用意されている。全部自由に使っていい。昼と夜は料理人が来て美味い料理も無料で食べられる。どんな下っ端も絶対に食うのだけは困らないんですよ」


 俺の孤児院と似たような感じだな。俺なんかよりずっと規模が大きいのがジンの凄い所だけど。


「だから食うに困っていない俺達構成員は、ちゃんと自分の頭で考え、自分の意思で悪い事をしていると自覚した上で悪事を行えって言うんですよ。ほんっと、ボスはカッコイイよなぁ」


 わかる~って俺もウンウン頷いてしまう。しかし突然の爆弾発言が俺を襲った。


「このボスの信念の基礎をつくったのが、パートナーのディーなのだと言っていました」
「んんんっ!?」
「ウヒヒヒッ……まあ、何が言いたいかっていうと、みんなあなたにも感謝してるってことです」


 船から降りた時の視線ってそういう熱視線だったのか!!
 いやいや、ジンが凄いだけで俺は何もしていない。過大評価だ。いきなりそんなスケールの大きい話のメインキャラにしないで欲しい。俺全然関係ないよ!?
 

「いやっ俺は別にっ」
「グッハッハ! まーまー! ボスが戻るまでは言葉遣いも楽にいきましょうや」


 バシバシと背中を叩かれて反論する余地はなかった。でもまあ、確かに慣れない言葉遣いに疲れてきた所だ。俺はリュバンの心遣いをありがたく受け取ることにした。

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