クロと鈴香の将棋道-カラスが駒を見つけたら-

県田 星

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第4章 棋士の立場

第66話 カラスが指し直し局で戦ったら(その2)

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「佐藤さんの手が伸びていないような気がします」

解説役を務める守口敏内もりぐち としうち九段がそう言うと、聞き手の浜内貴理子はまうち きりこ女流三段が聞き返す。

「どの辺りでしょうか?」

守口が大盤の駒に触れる。

「ここは強く同角と取りたいところです。もっとも角を引く手も悪くはないのですが…」
「あ、評価値も変わりましたね」

これまでほぼ五分だった評価値が少しだけクロに傾いた。

「同角だとどうなったのでしょうか?」
「そうですね…」

守口が大盤で局面を戻す。

「同角と取れば、激しい戦いに突入するでしょう。例えば…」

大盤の駒をパタパタと動かして行く。
飛車角の大駒に加えて桂馬が交換されて、盤面の右側に空間ができる。

「ここで大駒の打ち合いになると思います」
「…なるほど、確かに攻め合いですね」

コトン

ピシリ

カタッ

パチリ

佐藤の手が伸びなかった分、クロが盤面を圧迫してくる。
バランスを重視した左右の金銀をジワジワと前に出す。

カタン

ピシリ

カタッ

パチン

飛車や角の支えもあって、クロ陣が伸び伸びしてくる。
逆に言えば、どこか一カ所でもほころびれば、そこから大きく穴が開くのだが、その隙をクロは見せない。

「また、評価値が…」
「クロに傾きましたね」

55:45くらいでクロにやや振れていた評価値が、60:40とクロの優勢となる。
言うまでもなく、クロの顔色は変わらないものの、佐藤は顔色が悪くなってきた。

「ふーっ」

深呼吸をして、額に浮かぶ汗を拭う。
水をひと口飲むと、3筋と4筋の歩を突き捨てた。

「これは、どんな狙いがあるのでしょうか?」
「何とか局面の打開を目指した手だと思います」

守口が大盤の駒を動かす。

「ここで角を切って…」

クロ陣の桂馬を佐藤の角で取る。
その桂馬を3筋に打ち込んだ。

「すぐに取られますよね」
「ええ、ですが、飛車を大きく転換して…」

守口が飛車をさばく手順を披露した。

「ああ、自陣が穴熊ですので、多少の無理は利きそうですよね」
「形勢は苦しいですけど、これなら勝負系に持ち込めるかと」

飛車が単独で成り込んだくらいでは、形勢をひっくり返すには至らない。
しかし他に目ぼしい手が見つかりそうにない。

ピシリ

コトッ

ピシッ

カタッ

局面は守口が指摘した通りに進む。
佐藤は飛車を成り込んだものの、持ち駒は歩が3枚のみで、そこからクロ陣を荒すのは難しい。

逆に佐藤の竜が封じ込められそうになる。
佐藤はやむを得ず、竜を自陣に引いた。

「竜付きの穴熊となれば随分固いですね」

浜内の言葉に守口が自嘲気味に苦笑する。

「ええ、ここだけ見れば最強ですね。攻める側が嫌になっちゃいます」

クロは手持ちの角を佐藤陣に打ち込んで馬を作り、香車や歩を取っていく。
佐藤は何とか手を作ろうとするが、クロは何もさせないとばかりに馬を引き付けて、自陣の隙を無くした。

「クロ陣は全体的に隙が無いですね。どこから攻めれば良いのか…」

浜内が嘆くと守口が先ほどの言葉を繰り返す。

「やっぱり攻める側が嫌になっちゃいます」

浜内と守口が顔を見合わせて苦笑した。

パチリ

カタッ

パチッ

コトン

どちらもほとんど考えないまま指し手を進める。
佐藤は何とか抵抗したものの、指し手を重ねてクロが2筋にと金を作った。

「これは、ほとんど決め手でしょうね」
「ドンドンと金を作って寄せて行けば良いと…」
「ええ、それを避ける順がありません」

守口と浜内も大盤で指し手を追うだけになっている。

ピシッ

コトリ

ピシッ

カタン

佐藤は強引に竜をさばいて馬と交換した後、クロ陣に角を打ち込んだ。

浜内は「この手は…?」と聞くと、守口が「形作りかなあ」と答えた。

「すると、そろそろ終局?」
「だと思います」

守口が言い切ると、画面の中で佐藤が頭を下げた。

「負けました」
「クワア」
「ありがとうございました」

鈴香とクロも頭を下げた。

「守口先生、2局を振り返って、いかがでしたでしょうか?」
「1局目は佐藤さんも後手番対策が奏功して千日手になったと思います。ですので、2局目の先手番も作戦を考えていたと思うんですけど、途中で手が伸びなくなってクロさんが優勢になりました。あとは着実にリードを広げた感じです」
「なるほど。それでは後は感想戦で」
「はい、ありがとうございました」
「ありがとうございました」

守口と浜内は正面に向かって頭を下げると、急ぎ目に対局場へと向かった。
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