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第5章 会長の思惑
第96話 カラスが永世七冠と対局したら(その4)
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「あっ」
解説を務めていた佐藤巧叡王が声を上げた。
パチッ
壬生善元九段が4段目に玉を進めたからだ。
普通に見ると、クロの攻撃に壬生が玉を逃げたような手となる。
しかし、佐藤は大盤を見つめたまま考え込んだ。
「うーん」
口を開かない佐藤に聞き手の町田麻里代女流三段が話しかける。
「クロさんの攻め、壬生先生の受けと言うか逃げのような感じですが」
佐藤も「ええ」とうなずく。
「それは間違いありません。中段まで玉が逃げる手もよく出てきますし」
「辻井先生が中段まで玉が逃げてから元の位置に戻った、なんてこともありましたね」
「はい」
しかし佐藤の顔は厳しい表情から変わらない。
「ただし壬生先生のこの手は入玉を睨んでいそうです」
「えっ!」
聞き手の町田が驚く。
「もうですか?」
攻撃から逃れた玉が相手陣に逃げ込むのを入玉と言う。
“中段玉は寄せにくし”
“玉は下段に落とせ”
そんな将棋の格言があるように、攻撃する側は攻めやすいように玉を下の方に持って行くことを考えるし、守る側は玉が逃げやすいよう広い中断に進めることが多い。
さらに相手陣にまで入り込んだ玉は攻める側からすれば攻撃しずらいし、守る側からみれば成り駒を作りやすくて玉を固めやすい。
ただし、玉が攻撃から逃げたあげく敵陣に入り込む形が多い。
「この段階で入玉をめざしてるんですか?」
町田の疑問も当然だった。
持久戦となったことで手数は多いものの、入玉を目指すには早そうだ。
「いえ、何となく、ですよ」
クロ陣にも駒が残っているため、簡単に壬生の玉が入り込めるとは思えない。
コトッ
ピシッ
カタリ
読み上げの神奈川千佳女流二段が時間を計る。
「1分経過しました」
「2分経過しました」
「3分経過しました」
パチン
壬生が玉を5段目に上げた。
「これは間違いなさそうですね」
町田が佐藤を見る。
「いやあ、うーん…」
しかし佐藤はまだ判断を明確にしなかった。
「クロさんからすると、まだまだ入玉を防ぐことができそうですし、壬生先生がどう攻略するか」
「はい」
「そしてクロさんが、どこで相入玉を目指すか。それを壬生先生が阻止できるか」
「なるほど」
「いずれにしても、手数が相当伸びると思います」
そこで町田が気づいたように言う。
「もし相入玉となったら、佐藤先生の出番ですよね」
佐藤がハッとして顔を町田に向ける。
「言われてみるとそうなりますね」
「大役、頑張ってください」
町田が大げさに頭を下げると、佐藤が「いやいや」と右手を振る。
「まだ決まった訳ではありませんから…」
「それはそうですね」
「でも、滝川先生くらいが来てくれないかなあ」
七番勝負の第1局で解説兼立会人を務めた滝川光市十七世名人の名前をあげた。
棋力はもちろん、初タイトルを獲得したことをかわれて、この第6局に佐藤が解説兼立会人として呼ばれた。
解説を務めるのに苦はないが、立会人ともなればさすがに貫禄の面で不安は隠せない。
「えっと、他に控室にいた棋士は、木崎九段、田辺九段、田彦九段…」
佐藤が今日来ていた棋士の中からベテラン棋士の名前をあげる。
「だめですよ!佐藤先生が本局の立会人なんですから」
「まあ、そうなんですけど…」
コトリ
ピシッ
カタッ
そうしている間にもクロと壬生の指し手は進んでいた。
解説を務めていた佐藤巧叡王が声を上げた。
パチッ
壬生善元九段が4段目に玉を進めたからだ。
普通に見ると、クロの攻撃に壬生が玉を逃げたような手となる。
しかし、佐藤は大盤を見つめたまま考え込んだ。
「うーん」
口を開かない佐藤に聞き手の町田麻里代女流三段が話しかける。
「クロさんの攻め、壬生先生の受けと言うか逃げのような感じですが」
佐藤も「ええ」とうなずく。
「それは間違いありません。中段まで玉が逃げる手もよく出てきますし」
「辻井先生が中段まで玉が逃げてから元の位置に戻った、なんてこともありましたね」
「はい」
しかし佐藤の顔は厳しい表情から変わらない。
「ただし壬生先生のこの手は入玉を睨んでいそうです」
「えっ!」
聞き手の町田が驚く。
「もうですか?」
攻撃から逃れた玉が相手陣に逃げ込むのを入玉と言う。
“中段玉は寄せにくし”
“玉は下段に落とせ”
そんな将棋の格言があるように、攻撃する側は攻めやすいように玉を下の方に持って行くことを考えるし、守る側は玉が逃げやすいよう広い中断に進めることが多い。
さらに相手陣にまで入り込んだ玉は攻める側からすれば攻撃しずらいし、守る側からみれば成り駒を作りやすくて玉を固めやすい。
ただし、玉が攻撃から逃げたあげく敵陣に入り込む形が多い。
「この段階で入玉をめざしてるんですか?」
町田の疑問も当然だった。
持久戦となったことで手数は多いものの、入玉を目指すには早そうだ。
「いえ、何となく、ですよ」
クロ陣にも駒が残っているため、簡単に壬生の玉が入り込めるとは思えない。
コトッ
ピシッ
カタリ
読み上げの神奈川千佳女流二段が時間を計る。
「1分経過しました」
「2分経過しました」
「3分経過しました」
パチン
壬生が玉を5段目に上げた。
「これは間違いなさそうですね」
町田が佐藤を見る。
「いやあ、うーん…」
しかし佐藤はまだ判断を明確にしなかった。
「クロさんからすると、まだまだ入玉を防ぐことができそうですし、壬生先生がどう攻略するか」
「はい」
「そしてクロさんが、どこで相入玉を目指すか。それを壬生先生が阻止できるか」
「なるほど」
「いずれにしても、手数が相当伸びると思います」
そこで町田が気づいたように言う。
「もし相入玉となったら、佐藤先生の出番ですよね」
佐藤がハッとして顔を町田に向ける。
「言われてみるとそうなりますね」
「大役、頑張ってください」
町田が大げさに頭を下げると、佐藤が「いやいや」と右手を振る。
「まだ決まった訳ではありませんから…」
「それはそうですね」
「でも、滝川先生くらいが来てくれないかなあ」
七番勝負の第1局で解説兼立会人を務めた滝川光市十七世名人の名前をあげた。
棋力はもちろん、初タイトルを獲得したことをかわれて、この第6局に佐藤が解説兼立会人として呼ばれた。
解説を務めるのに苦はないが、立会人ともなればさすがに貫禄の面で不安は隠せない。
「えっと、他に控室にいた棋士は、木崎九段、田辺九段、田彦九段…」
佐藤が今日来ていた棋士の中からベテラン棋士の名前をあげる。
「だめですよ!佐藤先生が本局の立会人なんですから」
「まあ、そうなんですけど…」
コトリ
ピシッ
カタッ
そうしている間にもクロと壬生の指し手は進んでいた。
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