クロと鈴香の将棋道-カラスが駒を見つけたら-

県田 星

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第5章 会長の思惑

第95話 カラスが永世七冠と対局したら(その3)

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壬生みぶ先生、じっくりとこらえていますね」

解説を務める佐藤巧さとう たくみ叡王えいおうが中盤以降の壬生の手について語る。

こらえる…どの辺りでしょうか?」

聞き手の町田麻里代まちだ まりよ女流三段が、佐藤に解説を求めた。

「例えば…」

佐藤が大盤の駒を戻して、クロの手を再現する。

「この手はクロさんが『攻めるぞ!』と大上段に構えた手なんですが…」
「はあ」

次いで壬生陣の駒を動かす。
ただし実戦とは異なる手。

「このように指せば、壬生先生も攻め合いに向かうことになります」
「でも、そうしなかった、と」

佐藤は「ええ」とうなずいた。

「それから…」

別の局面を見せる。

「ここでは壬生先生の方から攻める手もありました」
「うーんと、飛車を回るんでしょうか?」

町田が壬生陣の飛車に触れる。

「はい、それでもいいですし、歩の突き捨てから入ってもいいでしょうね」
「でも壬生先生は攻めなかった」
「ですね」

実戦の手順に戻す。

「もっともクロさんの玉も固いですし、攻めても攻め切れるとは思いません」
「はあ」
「その意味では見せかけの隙と言えそうです」
「すると、その隙に乗らなかった壬生先生の好判断なんですね」

しかし佐藤は「うーん」と同意しない。

「違うんですか?」
「難しいところですが、このままでは先手のクロさんが十分形で攻めて来そうなんですよね」
「なるほど…」
「ですから、後手の壬生先生としては、それを避けたいはずなのですが…」

佐藤の予想通りにクロが十分な形から仕掛けに入った。

コトン

パチッ

コトッ

ピシッ

「佐藤先生の読み通りに、クロさんが攻め始めましたね」
「ええ」

満を持したようにクロの駒が壬生陣に攻めかかる。

コトリ

パチン

カタン

ピシッ

クロは交換した駒を打ち込んで攻めの足がかりを作る。
そこから攻め込もうとするクロに対して、壬生も簡単には崩れない。

パシッ

壬生は交換した駒を自陣に打って固めただけでなく、飛車や角の大駒も守りに効かす。
もちろん守り一辺倒なだけでなく、隙あらばクロ陣に攻めかかるような手も狙いに秘めている。

コトン

クロも飛車を回って攻め駒を増やすとともに、壬生からの反撃を喰らわないように自陣の隙をなくす。

まさに一進一退の攻防が繰り広げられた。

「この辺りのAIの形勢判断はどうですか?」

佐藤に聞かれて、町田が手元のタブレットを見る。

「ほぼ互角が続いてますね」

佐藤が「うーん」と腕組みする。

「こうした攻防をどちらも数分でこなすんですから、壬生先生もクロさんも見事です」

パチッ

カタン

ピシッ

コトリ

その後も激しい攻防が繰り広げられる。
しかしどちらも決めてになりそうな展開にはつながらない。

どちらかと言えば、ジリジリとした地味な攻防が積み重ねられた。

「ふぅ」

壬生が髪をかき上げつつため息をつく。

『ここまでは何とかついてこれたが、この先はどうなるか』

守り一辺倒になるわけでもなく、攻め合いに持ち込むこともしない。
ここからが皆で考えた展開に持ち込む分岐点となる。

ピシッ

壬生は王将をひとつ上がった。

「これは顔面受がんめんうけですか?」

町田が尋ねる。

普通であれば王将は金銀でしっかり守っておくのが形。
しかし王将自ら最前線に向かって守りに出ていくような手を“顔面受がんめんうけ”と表現する。一歩間違えれば、自陣の崩壊につながりかねない危ない選択でもある。

町田の素直な見方に佐藤はすんなり同意しなかった。

「そう…なんで…しょう……か?」

佐藤が大盤を睨んで考えている間に両者の手が進んだ。
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