クロと鈴香の将棋道-カラスが駒を見つけたら-

県田 星

文字の大きさ
106 / 113
第6章 史上最強の棋士

第105話 カラスの負け将棋を棋士が研究したら(その1)

しおりを挟む
「壬生先生が勝ったか…」

Hamabe TVのネット中継を見ていた辻井孝太つじい こうたはモニターから目をそらした。

クロに宣言勝せんげんがちしたことは棋士づたいに聞いていたし、その棋譜も日本将棋協会から送られていた。しかし実際の対局風景を見て得られるものがある。

辻井はパソコンで棋譜を再現していく。

相振あいふ飛車びしゃかあ」

後手となった壬生善元みぶよしもと九段が、クロの先手番に対して、どう戦うかには興味があった。

「もし自分なら…」

辻井は基本的に居飛車党だ。
奨励会時代に、香落ちなどを中心に振り飛車を指したことがあったものの、今ひとつ感覚が合わなかった。
と言って、振り飛車を全く考慮していな訳ではない。

ある種の可能性はあると思っているし、いつか振り飛車を指すことがあるかもしれない。

「自分なら相掛あいがかりか、それとも角換かくがわりか…」

その後も序盤から中盤を並べていく。

「ここは…だめだな」
「こうすると、難しいか」
「ここも…だめか」

クロ陣にも壬生陣にも隙がありそうに思えるが、深く読んでいくとなかなか難しい。

「うーん、まだ互角か」

将棋ソフトの形勢判断も、ほぼ互角から外れていないまま、ずっと続いている。

「これを数分で指し続けるんだからなあ…」

辻井はモニターに棋譜を映した。

指し手の横に考慮時間を記してある。

先手のクロの指し手の横には時折1分とある。
これまでの動画を見ても、クロが1分前後で指しているのは同じ。ごくまれに2分考えることがあるくらい。
第6局の棋譜でも1カ所2分とあるだけだ。

一方、後手の壬生九段も1分、2分が大半で、3分を超えることすら珍しい。
持ち時間を追いかけながら指し手を進めて行くと、両対局者の思考を追っているような感覚になる。

「ここで2分か…」

クロが2分考えたところで、棋譜を止める。
中盤の難所で、持ち時間があれば何時間でも考えたい局面。

「自分なら…」

辻井は思考をめぐらせた。

10秒…20秒…30秒…1分、そして2分。

2分で読めるところまで読んでいく。
実際のクロがどんな手順を考えたかは分からないが、クロの指し手とは異なっていた。

「この手では…互角か」

辻井の指し手を将棋ソフトに判定させる。

クロの手とどっこいどっこいの数値を示した。つまり辻井の考えた手もソフトの判断によれば、悪い手では無いということ。

「まあ、これも一局か…」

簡単に優劣の出にくい局面。
クロとの読み合いで負けていないことを示している。

その後もクロと壬生の指し手を辻井は一手一手追っていく。

そして入玉にゅうぎょくが視野に入った局面となる。

「おそらく壬生先生は、ここで入玉を考えたはず。自分なら…」

あくまで入玉を阻止するのも1局。
逆に相入玉あいにゅうぎょくを目指しても良さそうだ。

「さて…」

辻井がクロと同じように1分かけて考えた手は、クロが指した手とは違っていた。
将棋ソフトに判断させると、わずかに辻井の方が良い。
それでも壬生が入玉するのを阻止するのは難しそうだ。

「そうなると相入玉あいにゅうぎょくで差し直しが再選か…」

その後も辻井は研究を進めて行く。
しかし、はっきりクロ良し、もしくは壬生良しとなる局面は出なかった。

「どうするかな…」

辻井は来たるべき7局目に備えて考え始めた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

中1でEカップって巨乳だから熱く甘く生きたいと思う真理(マリー)と小説家を目指す男子、光(みつ)のラブな日常物語

jun( ̄▽ ̄)ノ
大衆娯楽
 中1でバスト92cmのブラはEカップというマリーと小説家を目指す男子、光の日常ラブ  ★作品はマリーの語り、一人称で進行します。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜

一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m ✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。 【あらすじ】 神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!   そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!  事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます! カクヨム(吉野 ひな)にて、先行投稿しています。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

俺を振ったはずの腐れ縁幼馴染が、俺に告白してきました。

true177
恋愛
一年前、伊藤 健介(いとう けんすけ)は幼馴染の多田 悠奈(ただ ゆうな)に振られた。それも、心無い手紙を下駄箱に入れられて。 それ以来悠奈を避けるようになっていた健介だが、二年生に進級した春になって悠奈がいきなり告白を仕掛けてきた。 これはハニートラップか、一年前の出来事を忘れてしまっているのか……。ともかく、健介は断った。 日常が一変したのは、それからである。やたらと悠奈が絡んでくるようになったのだ。 彼女の狙いは、いったい何なのだろうか……。 ※小説家になろう、ハーメルンにも同一作品を投稿しています。 ※内部進行完結済みです。毎日連載です。

鐘ヶ岡学園女子バレー部の秘密

フロイライン
青春
名門復活を目指し厳しい練習を続ける鐘ヶ岡学園の女子バレー部 キャプテンを務める新田まどかは、身体能力を飛躍的に伸ばすため、ある行動に出るが…

あるフィギュアスケーターの性事情

蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。 しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。 何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。 この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。 そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。 この物語はフィクションです。 実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。

〈社会人百合〉アキとハル

みなはらつかさ
恋愛
 女の子拾いました――。  ある朝起きたら、隣にネイキッドな女の子が寝ていた!?  主人公・紅(くれない)アキは、どういったことかと問いただすと、酔っ払った勢いで、彼女・葵(あおい)ハルと一夜をともにしたらしい。  しかも、ハルは失踪中の大企業令嬢で……? 絵:Novel AI

処理中です...