クロと鈴香の将棋道-カラスが駒を見つけたら-

県田 星

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第6章 史上最強の棋士

第107話 カラスの負け将棋を棋士が研究したら(その3)

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「お疲れ様ー」

ビールやハイボールの入ったグラスが掲げられる。
この日、某所で壬生善元みぶよしもと九段の慰労会が催された。

出席者は守口敏内もりぐち としうち九段、佐山健輝さやま よしてる九段、信濃祐樹しなの ゆうき六段。つまり、先日行われたクロ対策の研究会の面々。それに加えて、芝昭夫しば あきお九段の姿もあった。

およそ30年以上前。

この芝昭夫しば あきお九段を中心として、将棋の研究会が行われていた。通称「芝研(しばけん)」。もちろん通称であって、彼らがそう名乗った訳ではない。

しかし、芝昭夫しば あきお九段が竜王のタイトルを獲得。さらに壬生、守口、佐山が次々にタイトルを獲得していく中で研究会の有用性が認められ、これ以降に棋士達による研究会が恒常的に設けられるようになっていく。

「ふーっ」

ビールを飲み干した芝がグラスを置いた。

「見事な戦いっぷりだったね」

言うまでもなく壬生とクロとの対局のこと。
芝の言葉に守口、佐山、信濃もうなずいた。

「ありがとうございます。芝さんのメールも役立ちました」

芝が「いやあ」と頭をかく。

「棋士は勝つために対局してるし、それを見てクロが将棋を覚えたのなら、それをかわす、つまり勝ちを目指さない戦い方もあるんじゃないかなって、ふと思いついただけでね」

空になった芝のグラスに信濃がビールを注ぐ。
芝は「ありがとう」と言って、ひと口飲んだ。

「でも、それを盤上で実現するんだから、壬生さんの力こそ凄いよね」

そう褒める芝に壬生が苦笑しつつ首を振る。

「いえ、守口さんも佐山さんも信濃さんも協力してくれましたし」
「じゃあ、芝研が30年の時を超えて実を結んだってことでいいのかな?」

壬生が「いいと思います」と同意した。

その後、お酒や料理を口にしながら、なごやかな場に……ならなかった。

「ところで、あの歩打ちは…」
「それは後々の角打ちを目指して…」
「うーん、先に桂跳ねは?」
「それは3九飛車、4五歩、2六銀で…」
「ちょい待ち!3九飛車には、5五歩から金を上がって…」
「いえ、5五歩には銀が出て…」

やはり将棋の話で盛り上がる。

そこでも話題になるのは、壬生が入玉を意識した局面だ。

「どの辺りだったの?」

芝の問いかけに壬生が腕組みする。

「はっきりを意識したのは、86手目の銀を出て玉の道が開いたところですが…」
「なるほど…」

壬生が空中で指先を動かす。

「チラッと頭に出たところまで戻ると…」

空中で指先が止まった。

「34手目ですかね」
「えっ!」

芝が驚き、信濃が目を見開く。
一方で守口を佐山は小さくうなずいた。

「そんなところから…」

慌てて壬生が両手を大きく振った。

「いえいえ、あくまでチラッとですから」

その後も将棋談義で盛り上がる。

話題は第7局の辻井孝太つじい こうた戦となった。

「辻井さんは居飛車いびしゃでしょう」
「それは間違いないでしょうね」
「クロさんが居飛車にするのか、振り飛車にするのか」
「どっちも見てみた気がします」
「もしくは千日手狙いか、持将棋狙いか…」
「それも無いとは、言えないんだよなあ」

七番勝負における壬生や佐藤の活躍もあったが、元から引き分け狙いは後手番の有力な戦法として認められている。

「ただ、後手番の引き分け狙いに辻井さんが、どう応じるかも見ものですね」

一同が大きくうなずいた。
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