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第1章 将棋を指すカラス
第10局 カラスで動画企画を立案したら
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塔京・万駄ヶ谷にある日本将棋協会の会議室では、10人程の人間が話し合っていた。
「うちとしては是非進めたいんです」
これはHamabeTVの関係者の言葉。
「まあ、それは分かりますが…」
渋ってるのは日本将棋協会の関係者、理事や職員だ。
それぞれの前には5枚ほどの紙を挟んだクリアファイルが置かれている。
表紙には「クロ 炎の七番勝負」と印刷されていた。
協会の理事は企画を印刷した紙をめくりつつ、「うーん」と難色を示していた。
そうした様子を見てHamabeTV側の1人が尋ねる。
「まさか他からも企画が上がってるんじゃないですよね。HHKとか…」
「いやいや、それは無いです。本当です」
「じゃあ、是非やりましょうよ!」
結局、HamabeTV側が協会の理事や職員を押し切る形で企画を進めることになった。
企画内容としては単純である。
カラスのクロを呼ぶ。
日本将棋協会に所属する棋士や女流棋士の中から7人を選ぶ。
クロが7人と順番に対局する。
対局をインターネットのHamabeTVで流す。
昨今の将棋ブームにより、インターネット番組でも将棋対局の中継や企画動画の反応は良い。
通常は個人での戦いが主体の将棋に団体戦を取り入れた企画では、将棋ファンはもちろん、棋士自身や将棋関係者からも好評を得ていた。なお、それらの対局では持ち時間を独特かつ短めに設定したことで、普段はごくまれな二歩や王手見逃しのような反則が散見された。しかしそれらのアクシデントも、企画が主体となったお好み対局ならではの光景として甘受されている。
ただし、評価が高くなった要因の1つとして、辻井八冠の人気に頼りがちな面は否定できない。辻井八冠を追いかける若手として、佐藤巧七段や蔦本浜辺四段ら新鋭棋士も出ているのだが、辻井八冠の実績や人気とは大きく水を開けられている。もちろん壬生九段らのベテランや中堅棋士も活躍しており、女流棋士も新顔が増えているため、いろんな話題には事欠かないものの、もうひと押し何か欲しいと思っていたところ。
そこに新たなヒーロー候補が登場した。しかも人間でなくカラスだ。
カラスが将棋を指すだけでも話題になるが、棋士である橋田勝吾五段に完勝している。
つまり将棋の実力はそれなりにあるらしい。しかもインチキなどでも無い様子。
これが注目を集めないわけがない。
このチャンスを逃すまいと地上波テレビ局や大手新聞社も動いているものの、どちらも経営的にはジリ貧状態であり、新たな企画を実行する余力は乏しい。
唯一対抗してきそうなのが、受信料と名付けた税金同然の強制徴収で無類の安定収入を誇るHHKだ。長年、公式戦のひとつであるHHK杯戦を主催、放送してきた実績もある。毎週日曜日に放送しているHHK杯戦は録画ながら、赤白韓流歌合戦や戦国ばっか大河ドラマ、もはやマンネリ朝ドラマほどではないものの、多くの視聴者から好評を得ている番組の1つだった。
日本将棋協会の関係者が渋々承知する。
「じゃあ、クロに好意的な棋士から相手を選ぶってことで」
HamabeTV側の1人がニヤッと笑う。
「何かと嫌がる棋士を対局させて、クロが完勝する絵面なんて面白いんですけどね」
そう言って身を乗り出すが、協会の理事の1人が大きく手を振って拒否する。
「いやいやいや、それは勘弁してください。ゴタゴタしたくないでしょ」
その後は日程や対戦相手の選出に入った。
会議の最中に協会職員が尋ねる。
「ところでクロの飼い主には了承を得ているんですか?」
HamabeTVの関係者が「えっ?いや、まだですが?」と答える。
「それはまずいでしょう。まずあちら様に了解を得ないと」
「大丈夫でしょう。HamabeTVに出られるって言えば、尻尾ならぬカラスの尾っぽを振って出ますよ」
協会の関係者が「うーむ」と首を振る。
「あなたは確かテレビ局出身でしたよね。今の世の中で『出させてやるから喜べ』なんて考え方は止めた方が良いですよ。令和の世は、いや本来昭和や平成であってもそんなことはしちゃいけないんですから。もはやどん底に凋落したテレビはもちろん、視聴者が移行しつつあるネット番組でも傲慢さが垣間見られると、あっという間にファンは逃げていきますよ」
「うっ!」
日本将棋協会関係者からのごくごくまともな指摘に、HamabeTVの関係者は「すみません」と体を小さくした。
「早速、手土産を持って挨拶に行ってきます」
「ですね。橋田五段に取り次いでもらってください」
「うちとしては是非進めたいんです」
これはHamabeTVの関係者の言葉。
「まあ、それは分かりますが…」
渋ってるのは日本将棋協会の関係者、理事や職員だ。
それぞれの前には5枚ほどの紙を挟んだクリアファイルが置かれている。
表紙には「クロ 炎の七番勝負」と印刷されていた。
協会の理事は企画を印刷した紙をめくりつつ、「うーん」と難色を示していた。
そうした様子を見てHamabeTV側の1人が尋ねる。
「まさか他からも企画が上がってるんじゃないですよね。HHKとか…」
「いやいや、それは無いです。本当です」
「じゃあ、是非やりましょうよ!」
結局、HamabeTV側が協会の理事や職員を押し切る形で企画を進めることになった。
企画内容としては単純である。
カラスのクロを呼ぶ。
日本将棋協会に所属する棋士や女流棋士の中から7人を選ぶ。
クロが7人と順番に対局する。
対局をインターネットのHamabeTVで流す。
昨今の将棋ブームにより、インターネット番組でも将棋対局の中継や企画動画の反応は良い。
通常は個人での戦いが主体の将棋に団体戦を取り入れた企画では、将棋ファンはもちろん、棋士自身や将棋関係者からも好評を得ていた。なお、それらの対局では持ち時間を独特かつ短めに設定したことで、普段はごくまれな二歩や王手見逃しのような反則が散見された。しかしそれらのアクシデントも、企画が主体となったお好み対局ならではの光景として甘受されている。
ただし、評価が高くなった要因の1つとして、辻井八冠の人気に頼りがちな面は否定できない。辻井八冠を追いかける若手として、佐藤巧七段や蔦本浜辺四段ら新鋭棋士も出ているのだが、辻井八冠の実績や人気とは大きく水を開けられている。もちろん壬生九段らのベテランや中堅棋士も活躍しており、女流棋士も新顔が増えているため、いろんな話題には事欠かないものの、もうひと押し何か欲しいと思っていたところ。
そこに新たなヒーロー候補が登場した。しかも人間でなくカラスだ。
カラスが将棋を指すだけでも話題になるが、棋士である橋田勝吾五段に完勝している。
つまり将棋の実力はそれなりにあるらしい。しかもインチキなどでも無い様子。
これが注目を集めないわけがない。
このチャンスを逃すまいと地上波テレビ局や大手新聞社も動いているものの、どちらも経営的にはジリ貧状態であり、新たな企画を実行する余力は乏しい。
唯一対抗してきそうなのが、受信料と名付けた税金同然の強制徴収で無類の安定収入を誇るHHKだ。長年、公式戦のひとつであるHHK杯戦を主催、放送してきた実績もある。毎週日曜日に放送しているHHK杯戦は録画ながら、赤白韓流歌合戦や戦国ばっか大河ドラマ、もはやマンネリ朝ドラマほどではないものの、多くの視聴者から好評を得ている番組の1つだった。
日本将棋協会の関係者が渋々承知する。
「じゃあ、クロに好意的な棋士から相手を選ぶってことで」
HamabeTV側の1人がニヤッと笑う。
「何かと嫌がる棋士を対局させて、クロが完勝する絵面なんて面白いんですけどね」
そう言って身を乗り出すが、協会の理事の1人が大きく手を振って拒否する。
「いやいやいや、それは勘弁してください。ゴタゴタしたくないでしょ」
その後は日程や対戦相手の選出に入った。
会議の最中に協会職員が尋ねる。
「ところでクロの飼い主には了承を得ているんですか?」
HamabeTVの関係者が「えっ?いや、まだですが?」と答える。
「それはまずいでしょう。まずあちら様に了解を得ないと」
「大丈夫でしょう。HamabeTVに出られるって言えば、尻尾ならぬカラスの尾っぽを振って出ますよ」
協会の関係者が「うーむ」と首を振る。
「あなたは確かテレビ局出身でしたよね。今の世の中で『出させてやるから喜べ』なんて考え方は止めた方が良いですよ。令和の世は、いや本来昭和や平成であってもそんなことはしちゃいけないんですから。もはやどん底に凋落したテレビはもちろん、視聴者が移行しつつあるネット番組でも傲慢さが垣間見られると、あっという間にファンは逃げていきますよ」
「うっ!」
日本将棋協会関係者からのごくごくまともな指摘に、HamabeTVの関係者は「すみません」と体を小さくした。
「早速、手土産を持って挨拶に行ってきます」
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