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第1章 将棋を指すカラス
第11局 カラスの存在が広まったら
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カラスが将棋を指す!
クロの対局動画が公開されて以降、そうしたニュースが連日、新聞やテレビを賑わ…さなかった。
「カラスのクロやそのご家族に関しての取材は、日本将棋協会を通してのみ受け付けます。許可なく取材を行ったり、不見識と思われる報道を行ったメディアに対しては、日本将棋協会も他の棋士も全ての取材や中継等を禁止する可能性があることをご承知下さい」
多くのメディアを集めた場で日本将棋協会の会長である壬生善元《みぶよしもと》九段が眼鏡の奥から鋭い睨みを利かす。
かつては「壬生《みぶ》の眼力《がんりき》」とも言われた眼光鋭いまなざし。壬生九段からすれば癖のようなもので、無意識に視線を送っているだけ。しかし彼からまなざしを向けられた時、修羅場をくぐってきたベテラン棋士ですら驚いて腰が引けてしまった人もいた。また記録係や観戦記者の中には『気づかないうちに何か失礼をしてしまっただろうか』と勘違いした人も少なからずいたとのこと。
カラスのクロはともかく、広く注目を集めている辻井孝太八冠の取材までできなくなっては元も子もない。つい先日、某メジャーリーガーの豪邸を無作法に取材・報道したことで、選手本人や所属球団、メジャーリーグからも睨まれたテレビ局があるくらいだ。その二の舞にはなりたくないと考えた大手の新聞社やテレビ局は大人しく従った。
ただし、ゴシップ系の新聞社や出版社のチンピラ記者やカメラマン、突撃系の動画を狙った悪質なネット配信者まで抑えるには至らなかった。しかしながら、そうした輩《やから》同然のものに対しては、朝草将棋クラブの席主や佐倉を中心に有志で結成した「クロと鈴香を守る会」が大活躍した。
「私は?」
「ああ、馬場さんは守る会の名誉会長ってことで」
「…えっ!」
クロと鈴香を守る会の会員は近所の散歩を装いつつ見回りを行う。見回る場所として、朝草将棋クラブはもちろん、馬場宅や角野宅、鈴香が通う小学校などがあった。その周辺をうろつく怪しい人間を見かけると、会員は証拠の動画を撮りつつ110番通報した。
「1回なら大目に見るがな…」
顔を照らし合わせて2回以上姿を見かけた場合、席主や佐倉、さらにはバシバシさんの人脈を駆使して対象を特定する。それが記者やカメラマンであれば、日本将棋協会から厳重な抗議を行う。
ネット配信者-中には外国人もいたが-であれば、朝草将棋クラブ常連である将棋ファンの弁護士を通じて厳重に抗議した。むしろ、そうした突撃系のネット動画配信者に対するネットユーザーの目は非常に厳しくなっており、過去の違法動画が掘り返されるなどして、ネット動画の撤退に追い込まれる配信者もいた。
そうした輩が排除された後、少々やっかいな者どもが現れた。
ひとつは動物愛護や動物保護などの名目を掲げる団体。
もうひとつは企業や大学などなどの研究室。
前者は「自分達はイイコトをしている。だから自分達は正しい。だから自分達に逆らうものは間違ってる」と主張。
後者は「自分達はエライ。だから自分達は正しい。だから自分達に逆らうものは間違ってる」と主張。
出所は異なるものの、自分達の主張をごり押しする点は一緒。
両者とも、その次に「自分達にクロを渡せ」と続く。
慰安婦像こそないものの、アジアの半島南側にある国家と同じ主張になるのは、どこかつながる部分があるからだろうか。
「佐倉さん、どうする」
閉店後の朝草将棋クラブで「クロと鈴香を守る会」の打ち合わせが行われた。
この日の出席者は、朝草将棋クラブの席主、佐倉、馬場、田畑、そして橋田五段も。
「心配ない、ここは『泣く子と地頭には勝てぬ』作戦で行こう!」
「うん?何それ?」
「まあ、鈴香達ちゃんに頑張ってもらうんだけどね」
「うちの鈴香に?いや…達って?」
馬場が怪訝な顔をしたが、顔を寄せて話し合うと「ははあ」と納得した。
「橋田さんは協会の方に根回ししてもらえますか?」
「了解」
橋田はグッと親指を立てた。
その週末、朝草将棋クラブでクロが対局している中、先の迷惑団体のいくつかが押し掛けてきた。
もちろん席主や常連がとがめる声も聞かず一方的にがなり立てる。
「クロを差し出しなさい!」
「残酷なことを止めなさい!」
「私達の研究を邪魔するな!」
「さっさとこっちにクロを渡しなさい!」
「お前らでは宝の持ち腐れだ!」
もはや誰が何を叫んでいるかも分からない状況になったところで、あちこちから泣き声が聞こえた。
「みんな、怖いよー!」
「おじさん!ひどい!」
「おばさん!出てけ!」
「将棋の邪魔するな!」
朝草将棋クラブにいた鈴香や歩美ら少年少女が一斉に泣き始めた。
「い、いや、我々は…」
まさに「泣く子と地頭には勝てぬ」である。
席主がカモフラージュで「もしもし警察ですか?」と警察を呼ぶフリをすると、それらの迷惑団体はあっさりと朝草将棋クラブを出ていった。
もちろんそれで終わったわけではない。
迷惑団体が押しかけた中で子供達が泣いている場面の動画がインターネットにアップされた。
子供達にはしっかりとモザイクを、迷惑団体には緩めのモザイクがかけられているため、迷惑団体ついて誰とは分からないものの、特徴的な叫び声や団体名を書いたタスキなどから次々に迷惑団体が特定された。
そこで動いたのは「鈴香タンとついでにクロを守る会」だ。
もちろん鈴香や馬場も知らない非公認な集まり。
彼らによる電凸やSNS凸に始まり、時事系動画制作者の注意喚起動画が無数に立ち上がる。そして橋田を通じて日本将棋協会からの抗議がとどめとなり、それらの迷惑団体は沈黙どころか、一部は解散に追い込まれた。
「クロはもちろん、鈴香ちゃんや歩美ちゃんにも頑張って欲しいしねえ」
朝草将棋クラブの席主がそう言うと、佐倉ら「クロと鈴香を守る会」の会員は皆うなずいた。
クロの対局動画が公開されて以降、そうしたニュースが連日、新聞やテレビを賑わ…さなかった。
「カラスのクロやそのご家族に関しての取材は、日本将棋協会を通してのみ受け付けます。許可なく取材を行ったり、不見識と思われる報道を行ったメディアに対しては、日本将棋協会も他の棋士も全ての取材や中継等を禁止する可能性があることをご承知下さい」
多くのメディアを集めた場で日本将棋協会の会長である壬生善元《みぶよしもと》九段が眼鏡の奥から鋭い睨みを利かす。
かつては「壬生《みぶ》の眼力《がんりき》」とも言われた眼光鋭いまなざし。壬生九段からすれば癖のようなもので、無意識に視線を送っているだけ。しかし彼からまなざしを向けられた時、修羅場をくぐってきたベテラン棋士ですら驚いて腰が引けてしまった人もいた。また記録係や観戦記者の中には『気づかないうちに何か失礼をしてしまっただろうか』と勘違いした人も少なからずいたとのこと。
カラスのクロはともかく、広く注目を集めている辻井孝太八冠の取材までできなくなっては元も子もない。つい先日、某メジャーリーガーの豪邸を無作法に取材・報道したことで、選手本人や所属球団、メジャーリーグからも睨まれたテレビ局があるくらいだ。その二の舞にはなりたくないと考えた大手の新聞社やテレビ局は大人しく従った。
ただし、ゴシップ系の新聞社や出版社のチンピラ記者やカメラマン、突撃系の動画を狙った悪質なネット配信者まで抑えるには至らなかった。しかしながら、そうした輩《やから》同然のものに対しては、朝草将棋クラブの席主や佐倉を中心に有志で結成した「クロと鈴香を守る会」が大活躍した。
「私は?」
「ああ、馬場さんは守る会の名誉会長ってことで」
「…えっ!」
クロと鈴香を守る会の会員は近所の散歩を装いつつ見回りを行う。見回る場所として、朝草将棋クラブはもちろん、馬場宅や角野宅、鈴香が通う小学校などがあった。その周辺をうろつく怪しい人間を見かけると、会員は証拠の動画を撮りつつ110番通報した。
「1回なら大目に見るがな…」
顔を照らし合わせて2回以上姿を見かけた場合、席主や佐倉、さらにはバシバシさんの人脈を駆使して対象を特定する。それが記者やカメラマンであれば、日本将棋協会から厳重な抗議を行う。
ネット配信者-中には外国人もいたが-であれば、朝草将棋クラブ常連である将棋ファンの弁護士を通じて厳重に抗議した。むしろ、そうした突撃系のネット動画配信者に対するネットユーザーの目は非常に厳しくなっており、過去の違法動画が掘り返されるなどして、ネット動画の撤退に追い込まれる配信者もいた。
そうした輩が排除された後、少々やっかいな者どもが現れた。
ひとつは動物愛護や動物保護などの名目を掲げる団体。
もうひとつは企業や大学などなどの研究室。
前者は「自分達はイイコトをしている。だから自分達は正しい。だから自分達に逆らうものは間違ってる」と主張。
後者は「自分達はエライ。だから自分達は正しい。だから自分達に逆らうものは間違ってる」と主張。
出所は異なるものの、自分達の主張をごり押しする点は一緒。
両者とも、その次に「自分達にクロを渡せ」と続く。
慰安婦像こそないものの、アジアの半島南側にある国家と同じ主張になるのは、どこかつながる部分があるからだろうか。
「佐倉さん、どうする」
閉店後の朝草将棋クラブで「クロと鈴香を守る会」の打ち合わせが行われた。
この日の出席者は、朝草将棋クラブの席主、佐倉、馬場、田畑、そして橋田五段も。
「心配ない、ここは『泣く子と地頭には勝てぬ』作戦で行こう!」
「うん?何それ?」
「まあ、鈴香達ちゃんに頑張ってもらうんだけどね」
「うちの鈴香に?いや…達って?」
馬場が怪訝な顔をしたが、顔を寄せて話し合うと「ははあ」と納得した。
「橋田さんは協会の方に根回ししてもらえますか?」
「了解」
橋田はグッと親指を立てた。
その週末、朝草将棋クラブでクロが対局している中、先の迷惑団体のいくつかが押し掛けてきた。
もちろん席主や常連がとがめる声も聞かず一方的にがなり立てる。
「クロを差し出しなさい!」
「残酷なことを止めなさい!」
「私達の研究を邪魔するな!」
「さっさとこっちにクロを渡しなさい!」
「お前らでは宝の持ち腐れだ!」
もはや誰が何を叫んでいるかも分からない状況になったところで、あちこちから泣き声が聞こえた。
「みんな、怖いよー!」
「おじさん!ひどい!」
「おばさん!出てけ!」
「将棋の邪魔するな!」
朝草将棋クラブにいた鈴香や歩美ら少年少女が一斉に泣き始めた。
「い、いや、我々は…」
まさに「泣く子と地頭には勝てぬ」である。
席主がカモフラージュで「もしもし警察ですか?」と警察を呼ぶフリをすると、それらの迷惑団体はあっさりと朝草将棋クラブを出ていった。
もちろんそれで終わったわけではない。
迷惑団体が押しかけた中で子供達が泣いている場面の動画がインターネットにアップされた。
子供達にはしっかりとモザイクを、迷惑団体には緩めのモザイクがかけられているため、迷惑団体ついて誰とは分からないものの、特徴的な叫び声や団体名を書いたタスキなどから次々に迷惑団体が特定された。
そこで動いたのは「鈴香タンとついでにクロを守る会」だ。
もちろん鈴香や馬場も知らない非公認な集まり。
彼らによる電凸やSNS凸に始まり、時事系動画制作者の注意喚起動画が無数に立ち上がる。そして橋田を通じて日本将棋協会からの抗議がとどめとなり、それらの迷惑団体は沈黙どころか、一部は解散に追い込まれた。
「クロはもちろん、鈴香ちゃんや歩美ちゃんにも頑張って欲しいしねえ」
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