クロと鈴香の将棋道-カラスが駒を見つけたら-

県田 星

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第1章 将棋を指すカラス

第15話 カラスがまた棋士に勝ったら

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スマートフォンが鳴る。
「おっ」
持ち主が操作すると「もしもし」と相手の声が聞こえる。
「どうでした?」
スマホの向こうにいるはずの相手は何も答えない。
「何?負けたの?」
「強かったあ」

そう嘆く声の主は富士林金也ふじばやし きんや五段。
そしてスマートフォンの持ち主は高村天地たかむら てんち八段。押しも押されもせぬA級棋士だ。

「えっ、本当に負けたの?」
「2勝2敗でした」
勝ち負けの星数を聞いた高村はホッとする。
「指し分けか、クロも結構強いんだ」
「そう思うでしょ」
富士林の含みを持たせた話ぶりに、高村は「違うの?」とちょっと声のトーンを落として尋ねる。
「1局目は銀落ちで負け、2局目は金落ちで勝ち、3局目は銀落ちで勝ち…」
「ちょ、ちょっと待って!駒落ちだったの?」

富士林はクロとの対局前にクロを連れてきた3人と指導対局を指したこと。
その結果を見てクロが駒を落としたことを話した。

「カラスが手合いを決めたのか…」
「で、4局目は香落ちで負け、と」
「負け、勝ち、勝ち、負け、かあ」
高村は富士林が指した4局の勝ち負けを復唱する。
「つまりクロの判断は、そう間違ってないと」
「悔しいけど、その通りです」
「さっき4局の棋譜は送りましたけど、見てくれました?」

高村は急いでパソコンを立ち上げる。
クロとの駒落ち4局分の棋譜が富士林から送られていた。
「早いねー」
「実は佐倉さんってアマ強豪が居まして…」
富士林は当初からクロの対局を追いかけて記録している佐倉のことを話す。
佐倉が早々にまとめた棋譜は富士林の他、橋田五段や愛媛女流四段らにも送られている。

「佐倉さんによると、辻井さんレベルじゃないかとも言ってるんですけど」
「いやあ…まさか…」
高村は言葉に詰まる。
「どうです?クロと指してみたくないですか?」
「そりゃあ…」
「じゃあ、佐倉さんに伝えておきましょうか?」
「分かった、よろしく」

スマートフォンを切ると、高村は4局の棋譜を並べ始める。
パソコンの画面で再現した棋譜は金や銀を落として戦っている。高村にとってはチラッと聞いたことこそあったものの、いずれも初めて見る形。それでも上手、つまりクロの指し手がどれも厳しいものだと分かる。

最後に4局目の香落ちを並べ終わる。
香一枚の差を中盤で埋めると、そのまま終盤の競り合いで富士林陣を崩していた。
平手ではないが、ソフトの形成判断は滑らかにクロの方へと流れていた。
辻井曲線つじいきょくせんならぬ、クロ曲線か」

将棋の中盤や終盤において、一手で形勢が逆転したり、二転三転したりすることは珍しくない。
しかし辻井孝太つじいこうた八冠の対局では、一旦形勢に差が付くと、ジワジワと差を拡大して寄せに至り、最後まで勝ち切ってしまうことが少なくない。その時の形勢判断の数値をグラフにすると滑らかな曲線を描いていることから、“辻井曲線”と呼ばれている。

「勝てるかなあ」
高村のモニターを見る目が厳しくなっていた。
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