クロと鈴香の将棋道-カラスが駒を見つけたら-

県田 星

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第3章 七番勝負の開始

第46話 カラスが最強の女流棋士と対戦したら

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「福岡葉菜《ふくおか はな》女流五冠はこちら側に座ってください。鈴香さんとクロさんはこちらへどうぞ」
スタッフは第1局と同じ側に2人と一羽を誘導する。

「こんにちはー」
「クワクワ」
改めて鈴香とクロが挨拶すると、福岡も「よろしくね」と返す。
2人と一羽が席に着くと、室内の緊張感が一気に高まる。

「それじゃあ、始めましょう」のひと言で撮影が開始された。

今日の読み上げ係を務めるのは高村女流初段。
「ぬばたまの闇より飛来せり漆黒の翼 クロ七番勝負の第3局を始めます。3局目は福岡女流五冠が先手です。どちらも持ち時間や考慮時間はありませんが、1分ごとに経過時間を読み上げます。それでは対局を始めてください」

「よろしくお願いします」
「よろしくお願いします」
「クワア」
2人と一羽が、ほぼ同時に挨拶した。

ひと呼吸おいて福岡が角道を開ける。
「先手、福岡女流五冠、7六歩」

クロは飛車先の歩をくわえると、ひとつ前に置く。
「後手、角野クロさん、8四歩」

福岡が真ん中の歩をひとつ前に進める。
「先手、5六歩」

クロは右側の銀を上がった。
「後手、6二銀」

福岡は真ん中の筋に飛車を移動させる。
「先手、5八飛車」
福岡が得意とする先方のひとつである中飛車だ。

クロは角道を開けた。
「後手、3四歩」

その後は互いに王将を守るように手を進め、どちらも固く穴熊に囲んだ。

「さて、藤木先生、始まりました」
「うーん、予想通りの振り飛車ですね」

今日の立会人兼解説となったのは藤木尊ふじき たける九段。タイトルの獲得経験もあり、振り飛車党として人気がある棋士の1人だ。特に“藤木システム”と呼ばれる独特な振り飛車戦法の考案者としても有名である。と言って、振り飛車一辺倒ではなく居飛車も指しこなしており、こちらも独特な序盤戦術には提供がある。また、自虐的なコメントをちょくちょく挟む解説にはファンが多い。その聞き手を務めるのが玉根真琴女流二段だ。元は振り飛車党だったが、最近では積極的に居飛車の将棋も指しており、その意味では2人ともクロと同じ二刀流と言っても良いだろう。

「福岡さんが飛車を振るのは予想できたんですが、クロさんがどうするかは分からなかったですね。これまでの棋譜をみたんですが。対抗形も相振りも十分に指しこなしているし」
「私も見ましたが、藤木システムは無いようですね」
「プライベートの将棋は分かりませんが、棋譜には無かったですねえ。藤木システム、どう見てるんだろうなあ」
「クロさんが藤木システムをどう見てるか、私も興味があります」
「案外ね、『もう古いんだカア』とか言われちゃうかも…」
「いえいえ、そんな…」
解説の場に笑いが起こる。

福岡、クロともに王様を固め合った盤上は、どちらも動きづらい状態に陥った。
互いに、飛車、角、銀などをこまめに動かし、攻める間合いを計っている。

そんな折に異変が起きる。
最初に気付いたのはクロだった。

「クワッ!」
突然、ひと鳴きした後、羽根を何度も動かす。
「クロ、ダメだよ、危ないよ」
見かねた鈴香がとがめたものの、クロは羽ばたくのを止めない。さらに鳴き声もあげる。
「クワクワア!」
クロは羽ばたきつつ、鈴香と福岡の顔を交互に見た。

「うん?」
鈴香が福岡の顔を見る。
福岡の顔は明らかに青ざめており、口元はしっかりと噛みしめたように結ばれている。
「ふ、福岡先生…だ、誰か!」

鈴香は椅子から降りると、福岡の背中をさする。
「だ、大丈夫、だから、このまま…」
表情とは裏腹な言葉を返す。

その頃にはスタッフ達も異変に気づく。
「一旦、ストップ、ストォーップ!!!」
「そこのソファに!」
「ゆっくりと!」
「何か飲み物を!」
スタッフが肩を貸して、福岡はソファに横になる。

「ごめんなさい。さっきまでは何ともないと思ったんだけど…」
苦しむ顔をそのままに、しきりに福岡は謝る。

その周囲ではスタッフが走り回る。
「車の手配ができました!」
「よし!病院へ急げ!安全運転でな!」

スタッフらによって運ばれようとした福岡は「ちょっと待って下さい」と止めた。
「いや、でも…」
戸惑うスタッフに福岡は告げる。
「できれば、この先は石川さんにお願いしたいの…」
「えっ!」
「どうか…よろしく…お願い…します」
苦し気にそう言い残して、福岡はスタッフに運ばれていった。
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