クロと鈴香の将棋道-カラスが駒を見つけたら-

県田 星

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第3章 七番勝負の開始

第50話 カラスの七番勝負第3局を振り返ったら

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「将棋ファンの皆さん、こんにちは」
女流棋士の愛媛愛菜えひめ まなが挨拶する。
「先日のクロさん7番勝負の第3局、ご覧になりましたでしょうか?」
そこでひと呼吸おく。
「…残念ながら、日本将棋協会側の3連敗となってしまいましたが、相穴熊の熱戦でした。そこで今日はゲストをお迎えして、棋譜を追いつつ、いろいろ話をお伺いしたいと思います」
愛媛が左手を上げる。
「では、どうぞ!」
頭を下げつつ「こんにちは」と画面に入ってきたのは、女流棋士の石川萌香《いしかわ もか》女流三冠だ。
「今日はよろしくお願いします」
「こちらこそ、よろしくお願いします」
「さて、実際にクロさんと対局したのですが、いかがでしたか?」
「そうですねえ。これまで動画で散々カラスのクロさんが将棋を指すのは見てきたんですが、いざ前にすると違和感がありあしでした」
「あはは、私もです」
「でも、将棋は将棋ですからねえ」
「ええ」

「こんにちは!高村天地たかむら てんちです」
「こんにちは!臼木真面目うすき まじめです」
A級棋士の高村天地八段とアシスタントでアマチュア強豪の臼木真面目が頭を下げる。
「先生、一大事です!」
「はい、一大事ですね!」
「3連敗ですよ!」
「3連敗ですね!」
「そう言えば、先生も3連敗してましたね」
「ううっ!」
大げさに高村が反応する。
「逆に言えば、先生が3連敗したのですから、協会の代表が3連敗しても不思議ではないかもしれませんね」
「今日もグサグサと来ますねー」
「念のために触れておかないと。対局は双方とも穴熊でしたので、将棋ファンの反応も多かったですね」
「ええ、やっぱり対抗形は人気があります」
「じゃあ、先生、対局を振り返ってみましょう」
「はい」
「事前の戦型予想はいかがですか?」
「福岡さんは振り飛車と思いましたが、クロさんも飛車を振るかなと思ってたんですよ」
「その訳は?」
「女流の対局は相振りが多いですからね。クロさんが福岡さんの対局を飼い主さんに見せてもらっていたとすれば、相振りかなと」
「ははあ、なるほど」

ギューン!キュンキュンキュン…
画面中央に「竜」の文字が大きく輝く。
将棋の棋譜解説を中心に動画を展開する「S-1 SHOGI DAYS」だ。
「みなさんおはようこんにちはこんばんは、ゆっくりマリサだべ」
「レイムでござる」
いつもの“まんじゅう”キャラ2体が画面下の左右に登場した。
「本日は202〇年〇月〇日に行われた“ぬばたまの闇より飛来せり漆黒の翼 クロ七番勝負”の第3局をお送りするべ」
福岡葉菜《ふくおか はな》女流五冠とクロの顔写真が登場した。
「人間界に飛来した将棋の化身とも言うべきカラスのクロ。数々の棋士を蹴散らし、ついに日本将棋協会も腰を上げざるを得なかったでござる。そして始まった7番勝負は、なんとクロの2連勝。3局目は女流棋界から最強とも言うべき対局者が登場したでござるよ」
「1局目と同様に3局目は協会側、つまり福岡葉菜《ふくおか はな》女流五冠が先手だべ」
2人が声をそろえる。
「「さあ、それではみなさん ゆっくりしていってね!!!」」
「将棋盤、カモンでござるカピョーン!」
画面中央に将棋盤が登場する。
「今回はマリサが先手、福岡女流五冠」
「レイムが後手のクロでござる。それでは」
「「お願いします」」
「先手、福岡女流五冠、7六歩。得意の振り飛車に向かうべ」
「後手、クロ、8四歩。振り飛車もあったでござるが、早々に居飛車を明らかにするでござる」

「結果的に対抗形となりました。振り飛車ファンは大喜びかと」
将棋動画「元奨励会員アルクの将棋特集」のアルクが解説する。
「解説が藤木システムの藤木九段ですので、藤木システムもありそうですが…」
ささっと藤木システムの形を盤面に作る。
「ただ、クロさんは藤木システムを知っていても、解説が藤木先生であることまでは意識しないでしょうね」
本譜の局面に戻す。
「この辺りではクロさんからの急戦もあるかなと思ったんですが…」
互いの王将を隅に持っていく。
「これで相穴熊です」
両方の銀でそれぞれの王将に蓋をする。
「穴熊の完成です。こうなると昨今の分析では振り飛車が指しづらいってのが多いですね。ただし…」
画面の数字に注目する。
「評価値は、ほぼ互角です」
その後は固め合いの手順を再現した。
「後手は4枚穴熊の堅陣。先手は銀を左に置いてバランスが良い形です」
先手の銀を上下左右に移動させる。
「先手から手を作っていきたいところですが…」

「ここで皆さんにお知らせです」
女流棋士の愛媛がひと区切り付けた。
「福岡さんから連絡がありまして、男の子が誕生したそうです」
愛媛と石川が拍手する。
「「おめでとうございまーす」」
石川がスマホを見せた。
「SNSでご存じの方も多いと思います」
「自分のことではないのですが、やっぱりホッとしました」
「そうですね」
愛媛が付け加える。
「これまでも女流棋士で結婚、出産した方はいましたが、スケジュール的に問題にはなりませんでした」
「そうですね」
「ただ、最近は棋戦数が増えたことで対局数も増えたので、不戦敗になった面もあります」
「何とかしないといけないですね」
盤面に視線を戻す。
「ここから石川さんの出番となりました」
「はい」
「気持ち的にはいかがでしたか?」
「実は中断した際に福岡さんから私に、との言葉をスタッフさんが聞いていたそうなんです」
「はあ、なるほど」
「それを聞いた立会人の藤木九段が壬生先生に相談して…」
「会長ですね」
「はい、それで鈴香ちゃんやクロさんが承諾すれば、相手を交代できると…」
愛媛が首を傾げる。
「クロさんは交代を承諾したってことですね。理解したんでしょうか」
「何でも、以前に馬場さん、あ、鈴香ちゃんのお爺さんですが、の将棋を指し継いだこともあるんだとか」
「なるほど…」

「ここで意外も意外、対局者の交代となりました」
富士林金太ふじばやし きんた五段による「将棋風流記」だ。
「お正月とかのお好み対局では、リレー対局のように対局者が入れ替わることはあるんですけどねえ」
名札を福岡から石川に変える。
「こうした体調悪化による交代は初めてだと思います。そもそも体調不良であれば、そのまま敗戦ですから。もしかすると協会の規定に何らかの変更があるかもしれません。その際にはお知らせしますね」
改めて盤面をにらむ。
「福岡さん同様に石川さんも振り飛車が多いので指し継ぐのは大丈夫かと思います。問題は福岡さんの趣向をどこまで理解しているか、ですね」
左の銀を上下に動かす。
「このまま仕掛けを目指すのであれば、こちらに。固め合いに持ち込むのであれば、銀引きも一局でしょう。あとは…」
角を引いて転換させる。
「こんな風にして後手の飛車のこびんを狙うのもありそうです」
そして今度は端歩を突く。
「相穴熊では往々にしてあるんですが、将来的な端攻めを目指した端歩突きもありそうです」

「先生、いよいよ角引きから7筋の歩を突きましたが、どうでしょうか?」
ハジメが高村に尋ねる。
「予定通りの攻めだったか、それとも石川さんなりの工夫か」
「先生はどっちだと思います?」
「うーん、石川さんの工夫かなあと」
「その心は?」
「この辺りの…」
飛車が飛び出したところを示す。
「捌きが石川さんの好みのように思います」
「なるほど」
互いに大駒を持ちあった局面になる。
「ここでの形勢は?」
高村がハジメに尋ねる。
「ほぼ互角です」
「なるほど」
「先生はどっち持ちですか?」
高村は「うーん」と考え込む。
「解説の藤木先生は先手、つまり振り飛車持ちたいと言っていました」
「そうですか…藤木先生が振り飛車党ってのもあるんでしょう」
「藤木システムですからね。で、先生は?」
「うーん、居飛車かなあ。クロさんの方」
「おっ、分かれましたねー」
「ここはどちらを持って指しやすいかでしょう。振り飛車党なら先手を、居飛車党なら後手をってところです」
「ふむふむ」

「ここでちょっとクロさんに形勢が傾きました」
将棋動画「元奨励会員アルクの将棋特集」のアルクが解説した。
「同じように大駒を打ち込みましたが、ここが分かれ道だったようです」
クロ陣に打ち込んだ大駒を取り除いて、石川の左銀に触れる。
「ソフトでは、この銀の活用を進めた方が良いと出ています。例えば…」
銀が出た形の手順が、銀を引いた後の手順を進める。
「ただ、人間がこの手を指せるかと言えば難しいかもしれませんね」
元の局面へと駒を動かす。
「解説の藤木九段は、銀を餌にしてクロ陣への攻撃を仕掛ける手順を勧めていました」
盤面に歩を打つ。
「ここからと金を作って攻める感じです」
クロの飛車で銀を取って持ち駒に加える。
「遠回りに思えそうですが、銀を手持ちにできるのは大きく、攻めにも守りにも使えます。ただ竜が遊ぶ…」
中段に浮かぶ竜をチョコチョコと動かす。
「まあ、形勢互角だろうとの見方です。ただし、実戦は予想外な形に進みました」

クロが穴熊に馬を引き付けた局面で、愛媛が石川に尋ねる。
「このクロさんの手はどうですか?」
「予想外でした」
石川が大きく首を振った。
「てっきり攻め合いに来るとばかり思ってたので」
「私も攻め合いかなと思っていました」
4枚穴熊に馬が加わって、まさに鉄壁となったクロ陣。
「そう言えば、一文字クロ矢倉とかありましたね」
「ええ、ありました」
「これは何て言うんでしょうね」
2人とも考え込む。
「ここまで作るのに苦労するのと、カラスのクロウにかけて、クロウ穴熊とか」
「それ良いですねー」
会話が盛り上がる一方、形勢は石川に苦しいものになっている。
「この辺りでは、はっきり手詰まりでした」
石川の表情が暗い。
「こちらも守りを固めるとか」
「うーん」
石川の竜や馬を引き付ける手順を考えるが、良さそうな局面にはならなかった。

「振り飛車も崩れてはいないんですが、どうにも攻め手がない」
富士林五段も悩まし気な顔をする。
「やはりもう少し前の局面で何か欲しいかなあ」
手順を戻して大駒を打ち合った局面を出す。
「この盤面をパッと見た限りでは、振り飛車も悪くないですけど…」
クロより先に石川の竜を引き付ける。
「これで攻め合いならぬ守り合いにするか…」
石川陣の銀に触れる。
「この銀を遊び駒にしない工夫が必要です。すると、先に引き付けるか…」
銀を2つ、3つと引いて行く。
「そうなるとAIの手順を追うことになるんですよね。辻井八冠くらいでないと指せないかも…」
局面を実戦の手順に戻す。石川の飛車切りからの最後の攻めだ。
「ほぼ形作りでしょう。まだ穴熊には手つかずですが、これ以上の攻め合いではクロ陣が固すぎます」

「先生、ここまでで石川女流三冠が投了止まりました」
ハジメが高村八段に話を振る。
「うーん、先手としては仕方のない形作りですね」
「他には何か手がありませんか?」
「そうですねえ。あるとすれば、このくらいか…」
高村はと金作りを勧める。
「間に合いますか?」
ハジメの問いかけに高村は大きく首を振る。
「いや、はっきり間に合いません。ただ…」
高村は少し手を進めて、2枚のと金を寄せていく。
「こうすれば、いくらかは攻め合いの形になるかな、と」
「やっぱり形作りなんですね」
「まあ、クロさんが寄せをグズるようなことがあれば、なんですが」
「それは望み薄かと」
「でしょうね」
高村が投了図に局面を戻した。
「これで協会側の3連敗です」
「厳しいですね。次の佐藤巧さとう たくみ七段に頑張ってもらわないと」
「一部では負けたら全員坊主にするなんて声もありますが?」
「いやいやいや、そこまでは…」
ハジメが高村に突っ込む。
「先生は坊主にしなくて良いんですか?」
「あー、また、そう言うことを…」

石川(福岡)-クロ戦の投了図が示される。
「まで、108手で石川女流三冠の投了でござる」
「先手はこれ以上頑張りようがないべ」
「投了も止む無しでござるか」
画面が変わって、クロ側に3勝のロゴが付く。
「これでクロさんが3連勝だべ」
「協会側は土俵際でござるな」
「次局の相手は佐藤巧七段だべ」
佐藤の顔写真が映る。
「昨年の竜王戦、棋王戦では辻井八冠に敗れこそはしたものの、挑戦するだけでも大したものでござるよ」
「開催中の叡王戦でも辻井八冠に挑戦中だべ」
「若手のホープであるのは間違いないが、辻井八冠のライバルに名乗りを上げられるかが見ものでござる」
「さあ、この辺りでお開きにするべ」
「「ご視聴ありがとうございました」」
「YOUTABEをご覧の方は高評価、チャンネル登録を」
「ニロ動をご覧の方は、いいね、フォローをお願いするでござる」
「さあ、それでは皆さん」
「「バイバイ金」」
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