クロと鈴香の将棋道-カラスが駒を見つけたら-

県田 星

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第4章 棋士の立場

第60話 カラスが七番勝負の第4局に向かったら(その1)

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「失礼します」

七番勝負第4局の対局日。
Hamabe TVの控室では棋士達がクロを訪れるのが通例のようになっていた。

今日の対局相手となる佐藤巧さとう たくみ叡王えいおう
それに立会人兼解説役の守口敏内もりぐちとしうち九段。
所属はフリークラスながら、十八世名人の資格も持つベテランの強豪棋士。
そして聞き手の浜内貴理子女流三段と読み上げの岡田絵里香女流二段。
さらに応援の棋士や女流棋士も訪れている。

朝草将棋クラブの席主である大升と常連の佐倉は、今日もサインに写真にと忙しくする。
集まった写真やサイン色紙は、明日にも朝草将棋クラブの壁に飾られるだろう。

「よろしくお願いしまーす」
鈴香と歩美は棋士達にしっかりと握手をしてもらう。
鈴香とのツーショット写真を撮っているのは、祖父である馬場だ。

「研修生かあ、懐かしいなあ」
「本当よねえ」
こうした棋士や女流棋士達の反応も、いつものことだった。
そして…

「クワア」
「カワイイー!」
棋士や女流棋士がクロにチーズやカニカマを食べさせる。
カラスと一緒に自撮りする者もいた。

その一方で佐藤叡王と守口九段は馬場や佐倉とクロについて話しをしている。
「将棋は見て覚えたと聞いたけど…」
「おそらく…」
「勉強法は?」
「棋譜並べをしてるところを…」
「ネット中継を見ていることもありますねえ」
「新聞や現代将棋をみていることもありますよ」
「文字は読める?」
「そこは何とも…」
「指し手に反応するってのは?」
「はっきりとは分かってなくて…」
「餌で釣るとか?」
「うーん、どうでしょうねえ」

カラスのクロについて明確に分かっていることは、飼い主である馬場や鈴香でも少ない。
それが将棋に関することならなおさらだった。

「鈴香ちゃんと比べてどうですか?」

ふと守口九段が尋ねる。
「鈴香と、ですか?」
聞かれた馬場が戸惑う。
「将棋を覚えた早さと言うか、上達の具合と言うか…」
馬場が「ああ」と質問の意図を理解する。

「鈴香はルールから教えましたけど、クロはいつの間にか覚えていたので」
「ふむ」
「ただ、ネット中継を見る時間は伸びていますね」
「ほう」
「鈴香も見たがりますし、クロの方から将棋の動画を見たいように催促されることもあって」
「へえ」
「ただ、将棋に興味があるのか、それとも将棋が終わった後のご褒美が欲しいのか…」

守口と佐藤は「ああ」と顔を見合わせて笑った。

「それでもあっという間に強くなったのは、クロも鈴香ちゃんもプロ棋士らしいですよね」
佐倉の言葉に守口と佐藤も同意する。

覚えてすぐに有段者になった。
将棋の道場やクラブで大人相手に指していた。
出場した大会で優勝するのは当たり前。

これらは棋士に共通するエピソードだ。
もっともそんな経歴を持った少年達でも、研修会や奨励会に入会し、四段の棋士となるのは一握り。
そうした棋士達の中でも名を馳せているのが、佐藤叡王であり守口九段だ。

「持ち時間はどうですか?」

佐藤の質問に馬場が答える。
「指したら対局時計を押す動作はできるのですが、持ち時間や消費時間をどこまで理解できているか…」
「すると、秒読みや切れ負けも?」
「理解できているかは怪しいです」

「そうなんですね」
守口が難しそうな顔をする。
佐倉が「何か?」と聞いた。
「ええ、『クロを棋戦に参加させては?』なんて意見もあるんですよ」
「主催の新聞社やスポンサーの会社ですか?」

単なる将棋ファンの言葉であれば、数は多くてもやり過ごすことができる。
しかし棋戦を主催する新聞社や協賛する会社からの要請となれば話は別。

「確かにカラスが参戦すれば、棋戦は盛り上がるでしょうねえ」

それらのスポンサーからすれば、いや日本将棋協会にとっても、話題になるのは大歓迎だ。
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