クロと鈴香の将棋道-カラスが駒を見つけたら-

県田 星

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第4章 棋士の立場

第61話 カラスが七番勝負の第4局に向かったら(その2)

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「クロだけ持ち時間を変えるとか…」

馬場の言葉に守口が首を振る。
「さすがに無理でしょう」
佐藤と佐倉もうなずいた。

「ハンデを付けた対局が無いわけでもないのですが、それでもせいぜい駒落ちくらいでしょう」
「お好み対局の棋士と女流棋士との対戦で持ち時間に差を付けたことはありましたね」
「ああ!そう言えば。それでも、まあ、お好み対局ですから」
「そうですねえ」

8つあるタイトル戦の予選、本選、そして番勝負において持ち時間を変えるのは難しいだろう。

「一般棋戦のトーナメント戦なら…」
「うーん、それなら…」
「ある…かなあ」

何とかクロの参加を模索する面々。

今は辻井八冠を中心に将棋界は盛り上がっている。
しかしともすれば人気に陰りが見えそうなのが将棋界だ。
それを盛り上げる新たなチャンスとしてクロを見ているのは皆同じだった。

「あっ、佐藤先生、そろそろ用意をされた方が…」
「うん?あっ!」

佐倉が声をかけると、佐藤がハッと気づく。
そもそも今日はクロとの対局でこの場に来ていたのだ。

「どうもお邪魔しました」
「それではまた」
「では、後ほど」

クロ達の控室を訪れていた棋士や女流棋士達が戻っていく。
鈴香や歩美らが「ありがとうございましたー」と見送った。

「いやー、守口名人の写真と色紙はうれしいなあ」

朝草将棋クラブの席主である大升はホクホク顔だ。
守口九段が十八世名人を名乗るのはまだまだ先だろう。
しかし単に九段と呼ぶのは大升には抵抗があった。

「さて、どこに飾ろうか」

朝草将棋クラブに飾るスペースを考える。

テレビゲームなどの流行や趣味の多様化で将棋人気が落ち込み、クラブが経営難で苦しんだ時期もあった。

しかし辻井八冠の登場で戦後何度目かとも言われる将棋ブームが到来。
さらにクロの登場によって、朝草将棋クラブの集客につながっている。
今では棋士の色紙や写真を目当てに朝草将棋クラブを訪れる将棋ファンも少なくない。

「聖地巡礼だってね」

漫画やアニメ、ドラマ、映画などの舞台となった土地や建物を訪れることを聖地巡礼と表現する。
朝草将棋クラブが何かの舞台になった訳ではないものの、ニュースなどで取り上げられる場に興味を持つのは人のさがだ。

ただし悩みもある。

「これで将棋を覚えてくれるとうれしいんだけどねえ」
しょうでしょうね」

なかなかそこまで思うようには行かない。
将棋を指さないが対局の光景などを見て楽しむファンを「しょう」と呼ぶ。
朝草将棋クラブでも色紙や写真を見ただけで「ありがとうございましたー」と帰って行くファンが多い。

「でも子供達は増えていますよ」
「ああ」

佐倉の言葉に大升もうなずく。
終末や祝日などに行っている子供向けの教室は参加者が増えていた。
男の子ばかりでなく、女の子も。

「うちの鈴香や歩美ちゃんのライバルになってくれると良いねえ」
「ああ」
大升は小さくはあっても確かな手ごたえを感じていた。

そんな鈴香と歩美はクロにチーズをあげている。

「あーん」
「クワッ」
「あーん」
「カアー」
「はい、これで最後ね」
「……クワァ」

対局前の腹ごしらえとなる食事が終わった。

「終わったら、またあげるから」
「クワクワッ」

クロは鈴香の言葉を理解したかのようにうれしそうに鳴いた。
そこを歩美が尋ねる。

「トイレは大丈夫?」
「そうだね。クロ、トイレは?」
クロはちょっとだけ頭をかしげると、鈴香の服を突っついた。
「…したいみたい」

鈴香は部屋の隅にペット用のトイレをセットする。
全員が背を向けたのを確認してか、クロが用を済ませる。

「クワア」
「終わった?」
念のため鈴香がクロのお尻をテュッシュで拭く。
クロのトイレを片付けたところで、そろそろ開始の時間となった。
馬場が鈴香に声をかける。

「じゃあ、行くか」
「うん!」
「カア!」

鈴香達は控室を後にした。
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