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第七章 天涯海角
対の双子
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翡翠の簪を銀蓮に渡すように、奕世は言った。
銀蓮は、簪を受け取ったがこちらを見ようともしなかった。
恋人と引き裂かれ、敵国の王に辱めを受けたことは誰にも知られたくなかっただろう。
「銀蓮と服を替えてくるといい」
やっと我々が血まみれであることに気付いたのか、奕世が私たち2人を他のテントへ着替えに行かせてくれた。派手な女が付いてきて、私たちの着替えを手伝う。テントの外には奕世の側近が配備されていて、銀蓮を脱出させるのは難しそうだった。この日殺されたのは王だけではない。テントの周りにはいくつもの死体が転がっていた。
服を変えても血の匂いは消えなかった。
「小龍は生きてるわ」
派手な女が装飾品を取りにテントを出たのを見計らって、小声で私は呟く。無表情だった銀蓮の目に大きな涙が浮かんだ。
「奕晨が介抱してくれてるはずだわ、月華宮に寝かせていたから」
「…よか…った…」
一度泣き出した銀蓮は小さく肩を振るわせながら、嗚咽を止められないでいる。私は銀蓮を抱きしめた。
「私に出来ることはある?」
銀蓮は首を振る。
「小龍さえ…無事なら…いい…もうこのままでいい…」
抱きしめた銀蓮の身体は折れそうに細くて、後宮で着た銀蓮の衣装を思い出すと、随分痩せたのだと思った。
派手な女が戻ってきて、宝飾品で私たちを飾りたて、新王である奕世の元へ連れて行く。ほとんど裸の女たちが場所を開け、奕世は私を膝に乗せた。側に座る銀蓮の目が赤いのに気づく。
「銀蓮もお前に会えて嬉しかったようだな。これからも仲良くするといい」
そして後ろから私を抱きしめて言った。酒臭かった。
「俺はお前を娶った。今夜は結婚の宴だ。お前も飲め」
奕世は口に馬乳酒を含むと、人目を気にせず、私に口移しで飲ませてくる。私は口腔内に直接注がれた酒を飲み込むしか無かった。その後に舌を絡ませ、口づけが続く。他の男や銀蓮に見られているのは嫌だった。私は銀蓮と違って、好きで奕世といるはずだったけれど、だからといって好奇の目にさらされながら辱めを受け入れたいわけじゃない。
「俺は生涯お前しか愛さぬ。アイツのようにお前以外の女を侍らすつもりはない。お前が俺の唯一の妃だ」
眼差しは熱く、奕世が私を想ってくれていることは疑う余地がなかった。その強い気持ちに反して、目の前で首を飛ばし、人前で私を陵辱する奕世は私の好きな奕世と違う人のような錯覚を覚えた。
「お前がなりたかろうが、なりたくなかろうが、俺はお前を皇貴妃にする」
その言葉を聞いた男たちから感嘆が漏れる。
「いいか!俺たちは皇帝をうち、悠久の大地全てを我ら龔駑のものとする!」
男たちから歓声があがる。奕世が杯を高く掲げると、みな杯を掲げた。
新王奕世を讃える怒号のなか乾杯すると、奕世は私を連れて立ち上がり、あとは好きにしろと言った。行く先のない銀蓮の不安そうな瞳がみえた。奕世が娶るのが私だけということは、銀蓮は男たちに下賜されてしまうかもしれない。
「奕世、銀蓮も屋敷に連れてっていい?仲良くなりたいから」
私の頼みを奕世が断るはずもない。そうして、埜薇の双子は対のまま、王が保持することとなった。代わりに配下に宴で下賜されたのは、先王の娘の楠雅であった。仮にも従姉妹だろうに、わけもわからず連れてこられ、服の機能すら成していない薄布を纏わされて、足元に縋り付く楠雅を奕世は迷惑そうに自分から引き剥がすと、ただ宴の餌として下賜した。
「先王の一族は反逆の種火になる」
聞いたこともないような冷たい声だった。
「それも使い終わったらちゃんと殺せ」
テントを出ると外気が寒く、5月だというのに吐く息が白い。奕世は優しく私を毛皮の外套でくるむ。
「今日は疲れたか。宴ではろくに飯も食えなかったたろう。俺も早く帰ってお前と過ごしたい」
私の額に口づけをして、照れたように微笑む奕世は知ってる人、確かに私が好きな人だった。
私を軽々と抱き上げると自らと共に馬に乗せ、銀蓮は護衛とともに輿に乗せられ、我々は家路についた。
銀蓮は、簪を受け取ったがこちらを見ようともしなかった。
恋人と引き裂かれ、敵国の王に辱めを受けたことは誰にも知られたくなかっただろう。
「銀蓮と服を替えてくるといい」
やっと我々が血まみれであることに気付いたのか、奕世が私たち2人を他のテントへ着替えに行かせてくれた。派手な女が付いてきて、私たちの着替えを手伝う。テントの外には奕世の側近が配備されていて、銀蓮を脱出させるのは難しそうだった。この日殺されたのは王だけではない。テントの周りにはいくつもの死体が転がっていた。
服を変えても血の匂いは消えなかった。
「小龍は生きてるわ」
派手な女が装飾品を取りにテントを出たのを見計らって、小声で私は呟く。無表情だった銀蓮の目に大きな涙が浮かんだ。
「奕晨が介抱してくれてるはずだわ、月華宮に寝かせていたから」
「…よか…った…」
一度泣き出した銀蓮は小さく肩を振るわせながら、嗚咽を止められないでいる。私は銀蓮を抱きしめた。
「私に出来ることはある?」
銀蓮は首を振る。
「小龍さえ…無事なら…いい…もうこのままでいい…」
抱きしめた銀蓮の身体は折れそうに細くて、後宮で着た銀蓮の衣装を思い出すと、随分痩せたのだと思った。
派手な女が戻ってきて、宝飾品で私たちを飾りたて、新王である奕世の元へ連れて行く。ほとんど裸の女たちが場所を開け、奕世は私を膝に乗せた。側に座る銀蓮の目が赤いのに気づく。
「銀蓮もお前に会えて嬉しかったようだな。これからも仲良くするといい」
そして後ろから私を抱きしめて言った。酒臭かった。
「俺はお前を娶った。今夜は結婚の宴だ。お前も飲め」
奕世は口に馬乳酒を含むと、人目を気にせず、私に口移しで飲ませてくる。私は口腔内に直接注がれた酒を飲み込むしか無かった。その後に舌を絡ませ、口づけが続く。他の男や銀蓮に見られているのは嫌だった。私は銀蓮と違って、好きで奕世といるはずだったけれど、だからといって好奇の目にさらされながら辱めを受け入れたいわけじゃない。
「俺は生涯お前しか愛さぬ。アイツのようにお前以外の女を侍らすつもりはない。お前が俺の唯一の妃だ」
眼差しは熱く、奕世が私を想ってくれていることは疑う余地がなかった。その強い気持ちに反して、目の前で首を飛ばし、人前で私を陵辱する奕世は私の好きな奕世と違う人のような錯覚を覚えた。
「お前がなりたかろうが、なりたくなかろうが、俺はお前を皇貴妃にする」
その言葉を聞いた男たちから感嘆が漏れる。
「いいか!俺たちは皇帝をうち、悠久の大地全てを我ら龔駑のものとする!」
男たちから歓声があがる。奕世が杯を高く掲げると、みな杯を掲げた。
新王奕世を讃える怒号のなか乾杯すると、奕世は私を連れて立ち上がり、あとは好きにしろと言った。行く先のない銀蓮の不安そうな瞳がみえた。奕世が娶るのが私だけということは、銀蓮は男たちに下賜されてしまうかもしれない。
「奕世、銀蓮も屋敷に連れてっていい?仲良くなりたいから」
私の頼みを奕世が断るはずもない。そうして、埜薇の双子は対のまま、王が保持することとなった。代わりに配下に宴で下賜されたのは、先王の娘の楠雅であった。仮にも従姉妹だろうに、わけもわからず連れてこられ、服の機能すら成していない薄布を纏わされて、足元に縋り付く楠雅を奕世は迷惑そうに自分から引き剥がすと、ただ宴の餌として下賜した。
「先王の一族は反逆の種火になる」
聞いたこともないような冷たい声だった。
「それも使い終わったらちゃんと殺せ」
テントを出ると外気が寒く、5月だというのに吐く息が白い。奕世は優しく私を毛皮の外套でくるむ。
「今日は疲れたか。宴ではろくに飯も食えなかったたろう。俺も早く帰ってお前と過ごしたい」
私の額に口づけをして、照れたように微笑む奕世は知ってる人、確かに私が好きな人だった。
私を軽々と抱き上げると自らと共に馬に乗せ、銀蓮は護衛とともに輿に乗せられ、我々は家路についた。
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