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11 決別の時①
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そして、いよいよ成人の祝いの日を迎えた。
成人の祝いの前日にダレンとの不愉快な邂逅があったが、キスを迫られて以来、身体的な接触はなかった。
成人の祝いは男女問わず、白色をまとうと決まっている。装飾などは自由だ。ルナの家族が衣装などを準備してくれるわけもないので、ヤクばあちゃんとサイラスがシンプルなワンピースを用意してくれた。あまり美しく着飾っても、人の目をひくので、装飾のない体のラインのでないシンプルなワンピースだ。髪もいつものように三つ編みにまとめ、アクセサリーもつけなかった。
「いよいよだね。最後まで気を抜かずに気合いれていくんだよ」
一人会場に向かうルナを、認識阻害の魔術をかけたヤクばあちゃんと、サイラスが見送りに来てくれた。
「ルナ、成人おめでとう。今日まで本当によくがんばったね。シンプルな衣装だけど、本当に女神のように綺麗だよ。今日は姿を隠してずっと見守ってるから。今日は、ルナが危険な目にあったら、相手をぶっとばしてでも守るからね。安心して。一緒に王都に行こうね」
いつものごとく、ルナへの甘さ全開のサイラスの言葉にほっとして、涙がこぼれる。
「ほらほら、一人で泣いてるとおかしいと思われるよ。シャンとして最後の仕事をしてらっしゃい!」
王都へは、サイラスと一緒に行く手筈になっているので、ヤクばあちゃんとはこれで最後だ。そっとヤクばあちゃんを抱擁し、サイラスにうなずくとルナは会場へと歩き出した。
成人祝いの会場へとルナが現れると、会場の空気がざわりと揺れた。
今まで、村の者は皆、ルナのことを嫌悪の対象として、ほとんど視界にいれていなかった。白いワンピースに包まれたルナは、儚い美しさがあり、綺麗な顔立ちに、日の光を浴びてキラキラと輝く銀髪と紫の瞳がさらに彩をそえて、化粧をしていなくても、装飾がなくても、人々の目を惹きつけた。今年、成人を迎える華やかに装った少女達の中で、ルナは一番輝いていた。
村長や村長の娘とともに上座に座るダレンはそんなルナを見て、ちっと舌打ちをして、歯ぎしりをした。そんな婚約者を見て、なにかを察したのか村長の娘のアビゲイルの睨むような目線がルナに刺さる。
成人の儀式が淡々と進む。あんなに成人を待ち焦がれていたのに、意外と感傷もなく、こんなものかといったかんじだった。それよりも、時折感じるダレンからのほの暗く粘りつくような視線とか、今までは忌々し気にされ、視界に入るなといった風情の同世代の男たちから向けられる蛇のようなまとわりつく視線を浴びて、ルナは疲れてしまった。
夕方から宴がはじまった。儀式が終わったので、いつ抜け出してもよいのだが、目立たないよう夕闇にまぎれて出て行く話になっている。
できるだけ無用に絡まれないように、人目がある場所で、女達の中で、雑用をこなした。いつものように女達からもチクチクと不愉快なことを言われたり、小さな嫌がらせをされたが、最後だと思うと、それらもスルーすることができた。
空の色が茜色から徐々に暗い色に染まっていくのをながめて、ルナはよし、と覚悟を決めた。
「ルナ」
呼ばれた声に、条件反射でびくっと肩を揺らす。まさか、こんな人の多いところで堂々と声をかけてくるとは思わず驚く。そこには、白の礼装に身を包んだダレンがいた。
「親父さんが呼んでる。大事な話があるそうだ。家にいくぞ」
いつものようにルナの腕を掴むと、ルナを引きずるように歩き出す。
「ちょっと、ダレンどこに行くのよ!!!」
「あぁ、ルナの親父さんにコイツが呼ばれてるんだ」
「だからって、ダレンが付いて行く必要なんてないでしょ?」
「最近、コイツ反抗ばっかりしてるから、確実に連れて来いって言われてるんだ。連れて行ったらすぐ戻るよ」
ダレンはヒステリックに叫ぶアビゲイルをなだめるように、頬にキスをおとした。片手で、ルナの腕を掴んだまま。
ルナの家の方向に向かって、人気のない道をダレンはずんずん進んでいく。ほとんど引きずられているルナの腕がちぎれそうに痛い。
ルナはパニックと絶望に襲われていた。幼い頃からの恐怖と痛みと嫌悪に染まって、なにもできない弱い自分にたちどころに戻ってしまう。
やっぱり、私がダレンから逃げ出すことなんてできないんだ。
一生この獣みたいな幼馴染に蹂躙されるしかないんだ。
怖い怖い。
嫌だ嫌だ。
コトンッ
その時、胸にはずむ魔石の存在に気づいた。
ルナの恐怖と痛みと嫌悪の気持ちの中から、怒りが湧いてくる。
ヤクばあちゃんから最後に習ったルナの少ない魔力でもかけられる身体強化の魔術を、掴まれているのと逆の手にかけると、ダレンの指を一本ずつひきはがした。ダレンの手が離れるとその勢いで、ルナは後ろにふっとんで、転がった。
「もう、その手を放して。あんたなんかに従わないんだから」
ルナはすぐに体勢を整えると、立ち上がる。目の前では、一瞬何が起きたかわからずに、ダレンが目を瞬いている。
「今日、私はこの村を出て行くの。成人したら家長に子どもに関する権限はなくなるわ。人をゴミみたいに見てのけ者にする村の人達も、人をいないものとして扱う家族も、人の気持ちも考えずに所有物のように扱う幼馴染も、もういらないの」
「は? なんの取柄もないお前がこの村を出て行っても、野垂れ死にするだけだぞ。いい加減、その反抗的な態度を改めろよ」
「ちゃんと村を出て行く算段も、暮らしていく手段もあるわ。だから、もう私に干渉しないで!!!」
怒りで目をぎらぎらさせて獣のように唸っているダレンのことが、怖くて、足を一歩後ろに引きそうになる。
今すぐに、逃げ出したい。
でも、きちんと自分の意思を伝えておかないとどこまでも追ってきそうな予感がして、足を踏みしめ、目をそらさず、ダレンに対峙する。
「お前の意思を尊重してやりたかったけど、しょうがないな。成人までは自由にさせてやっただろ。もう二度とそんな生意気な口がきけないようにしつけてやるよ」
怒りで顔色が赤から土気色になったダレンが襲い掛かってくる。体がすくんで、逃げられない。
頭が真っ白になって、ルナはなにもできずに固まった。
成人の祝いの前日にダレンとの不愉快な邂逅があったが、キスを迫られて以来、身体的な接触はなかった。
成人の祝いは男女問わず、白色をまとうと決まっている。装飾などは自由だ。ルナの家族が衣装などを準備してくれるわけもないので、ヤクばあちゃんとサイラスがシンプルなワンピースを用意してくれた。あまり美しく着飾っても、人の目をひくので、装飾のない体のラインのでないシンプルなワンピースだ。髪もいつものように三つ編みにまとめ、アクセサリーもつけなかった。
「いよいよだね。最後まで気を抜かずに気合いれていくんだよ」
一人会場に向かうルナを、認識阻害の魔術をかけたヤクばあちゃんと、サイラスが見送りに来てくれた。
「ルナ、成人おめでとう。今日まで本当によくがんばったね。シンプルな衣装だけど、本当に女神のように綺麗だよ。今日は姿を隠してずっと見守ってるから。今日は、ルナが危険な目にあったら、相手をぶっとばしてでも守るからね。安心して。一緒に王都に行こうね」
いつものごとく、ルナへの甘さ全開のサイラスの言葉にほっとして、涙がこぼれる。
「ほらほら、一人で泣いてるとおかしいと思われるよ。シャンとして最後の仕事をしてらっしゃい!」
王都へは、サイラスと一緒に行く手筈になっているので、ヤクばあちゃんとはこれで最後だ。そっとヤクばあちゃんを抱擁し、サイラスにうなずくとルナは会場へと歩き出した。
成人祝いの会場へとルナが現れると、会場の空気がざわりと揺れた。
今まで、村の者は皆、ルナのことを嫌悪の対象として、ほとんど視界にいれていなかった。白いワンピースに包まれたルナは、儚い美しさがあり、綺麗な顔立ちに、日の光を浴びてキラキラと輝く銀髪と紫の瞳がさらに彩をそえて、化粧をしていなくても、装飾がなくても、人々の目を惹きつけた。今年、成人を迎える華やかに装った少女達の中で、ルナは一番輝いていた。
村長や村長の娘とともに上座に座るダレンはそんなルナを見て、ちっと舌打ちをして、歯ぎしりをした。そんな婚約者を見て、なにかを察したのか村長の娘のアビゲイルの睨むような目線がルナに刺さる。
成人の儀式が淡々と進む。あんなに成人を待ち焦がれていたのに、意外と感傷もなく、こんなものかといったかんじだった。それよりも、時折感じるダレンからのほの暗く粘りつくような視線とか、今までは忌々し気にされ、視界に入るなといった風情の同世代の男たちから向けられる蛇のようなまとわりつく視線を浴びて、ルナは疲れてしまった。
夕方から宴がはじまった。儀式が終わったので、いつ抜け出してもよいのだが、目立たないよう夕闇にまぎれて出て行く話になっている。
できるだけ無用に絡まれないように、人目がある場所で、女達の中で、雑用をこなした。いつものように女達からもチクチクと不愉快なことを言われたり、小さな嫌がらせをされたが、最後だと思うと、それらもスルーすることができた。
空の色が茜色から徐々に暗い色に染まっていくのをながめて、ルナはよし、と覚悟を決めた。
「ルナ」
呼ばれた声に、条件反射でびくっと肩を揺らす。まさか、こんな人の多いところで堂々と声をかけてくるとは思わず驚く。そこには、白の礼装に身を包んだダレンがいた。
「親父さんが呼んでる。大事な話があるそうだ。家にいくぞ」
いつものようにルナの腕を掴むと、ルナを引きずるように歩き出す。
「ちょっと、ダレンどこに行くのよ!!!」
「あぁ、ルナの親父さんにコイツが呼ばれてるんだ」
「だからって、ダレンが付いて行く必要なんてないでしょ?」
「最近、コイツ反抗ばっかりしてるから、確実に連れて来いって言われてるんだ。連れて行ったらすぐ戻るよ」
ダレンはヒステリックに叫ぶアビゲイルをなだめるように、頬にキスをおとした。片手で、ルナの腕を掴んだまま。
ルナの家の方向に向かって、人気のない道をダレンはずんずん進んでいく。ほとんど引きずられているルナの腕がちぎれそうに痛い。
ルナはパニックと絶望に襲われていた。幼い頃からの恐怖と痛みと嫌悪に染まって、なにもできない弱い自分にたちどころに戻ってしまう。
やっぱり、私がダレンから逃げ出すことなんてできないんだ。
一生この獣みたいな幼馴染に蹂躙されるしかないんだ。
怖い怖い。
嫌だ嫌だ。
コトンッ
その時、胸にはずむ魔石の存在に気づいた。
ルナの恐怖と痛みと嫌悪の気持ちの中から、怒りが湧いてくる。
ヤクばあちゃんから最後に習ったルナの少ない魔力でもかけられる身体強化の魔術を、掴まれているのと逆の手にかけると、ダレンの指を一本ずつひきはがした。ダレンの手が離れるとその勢いで、ルナは後ろにふっとんで、転がった。
「もう、その手を放して。あんたなんかに従わないんだから」
ルナはすぐに体勢を整えると、立ち上がる。目の前では、一瞬何が起きたかわからずに、ダレンが目を瞬いている。
「今日、私はこの村を出て行くの。成人したら家長に子どもに関する権限はなくなるわ。人をゴミみたいに見てのけ者にする村の人達も、人をいないものとして扱う家族も、人の気持ちも考えずに所有物のように扱う幼馴染も、もういらないの」
「は? なんの取柄もないお前がこの村を出て行っても、野垂れ死にするだけだぞ。いい加減、その反抗的な態度を改めろよ」
「ちゃんと村を出て行く算段も、暮らしていく手段もあるわ。だから、もう私に干渉しないで!!!」
怒りで目をぎらぎらさせて獣のように唸っているダレンのことが、怖くて、足を一歩後ろに引きそうになる。
今すぐに、逃げ出したい。
でも、きちんと自分の意思を伝えておかないとどこまでも追ってきそうな予感がして、足を踏みしめ、目をそらさず、ダレンに対峙する。
「お前の意思を尊重してやりたかったけど、しょうがないな。成人までは自由にさせてやっただろ。もう二度とそんな生意気な口がきけないようにしつけてやるよ」
怒りで顔色が赤から土気色になったダレンが襲い掛かってくる。体がすくんで、逃げられない。
頭が真っ白になって、ルナはなにもできずに固まった。
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