【完結】その手を放してください~イケメンの幼馴染だからって、恋に落ちるとはかぎらない~

紺青

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10 問われる覚悟

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 それから成人までの日々は、サイラスと想いが通じ合った分、これまでより長く感じた。ヤクばあちゃんは、サイラスが会いに来るたび、ルナへの甘さを全開にするので、うんざりしていた。王都へ行った後の話をすると、ルナがそんな夢のようなことが叶うのかと余計に不安に苛まれるのを察して、サイラスは今までのように、何気ない会話しかしなかった。それでもサイラスが隣にいてくれて、一緒に過ごせる時間があるだけで、ルナは幸せだった。

 そんなある日、サイラスではない客人がヤクばあちゃんの小屋に現れた。
 
 「この人はあんたの客人だ。王都の冒険者ギルドの本部のギルド長をしている。サイラスの上司だよ。なんかあんたに話があるんだって」
 ヤクばあちゃんは天気の話でもするみたいに何気ない口調で、目の前に座る威厳漂う人の紹介をする。手早くお茶を淹れると、部屋の隅へと行き、傍観する構えだ。

 目の前に座る人は、王都の人というだけあって、サイラスと同じように洗練されているが、戦闘を常としているのかその体つきはしっかりしていて威圧感がある。撫でつけられている髪やギルドの制服とそこにきらめく腕章、鋭い眼光に怯みそうになる。

 ルナは震えそうになる両手の拳をぎゅっと握りしめた。意を決して、目の前の人をまっすぐに見つめる。

 「はじめまして、ルナです。今日の訪問の用件はサイラスとの交際のことでしょうか?」

 「王都の冒険者ギルドの本部のギルド長をしているマークだ。サイラスの上司でもある。君がサイラスとつきあうことになったのは、聞いている。サイラスは有能でね、ギルドでも大切な人材なんだ。今日は、君がどういうつもりで、サイラスと交際しているのかを聞きにきたんだ。ざっくばらんに話してほしい」

 今になって、初めの頃にヤクばあちゃんに釘を刺されたことを思い出す。サイラスがいつも優しくてルナを甘やかしてくれるから、忘れていたけど、サイラスは優秀な魔術師で、王都の冒険者ギルドの職員だ。本当なら辺境の小娘に構っている暇はないのかもしれない。それでも、ルナは想いの通じ合ったサイラスの手を自分から放すことはできない。

 「つきあうといっても、私は成人までこの村を離れられないので、気持ちが通じ合った以外は、これまでと変わらないと思います。サイラスがヤクばあちゃんの家に来た時にお茶をする、それだけの間柄です。サイラスには、成人まで王都に行けないことも伝えてありますし、気が変わったら、いつでも別れるということも伝えてあります」

 「で、王都にきたらどうするの? 結婚するの? サイラスのとこに転がり込んで養ってもらうのかな?」

  マークの真剣な瞳に、彼もサイラスのことを思い心配しているのが伝わってくる。きちんと伝えなくては。ルナはサイラスが大好きだけど、足を引っ張ったり、お荷物にはなりたくない。その気持ちだけは伝えないといけない。

 「王都に行った時に、サイラスの気持ちが変わっていなかったら、そのままおつきあいしたいと思っています。結婚についてはわかりません。

 住むところは探すのを手伝ってもらったりするかもしれませんが、初期費用と当面の生活費は今コツコツとヤクばあちゃん経由で辺境の冒険者ギルドに納品している薬代で賄う予定です。サイラスの家に住むつもりはありません。

 冒険者登録をして薬師として、身を立てる予定です。薬草を使った調剤はヤクばあちゃんにお墨付きをもらっていますし、今ポーション作りも教わっているので、なんとか食べていく分は稼げるのではと思っています。もし、薬が売れなくても、冒険者の最初のランクは私にもできる雑用もあると聞いているので、自分のことは自分で養っていくつもりです」

 腕を組んで、難しい顔をしているマークに、ルナは不安になる。やっぱり自分はサイラスに不釣り合いなのだろうか? もう、今の時点でサイラスのお荷物になっているのだろうか? 何か迷惑をかけているのだろうか?

 もしそうであっても、サイラスと一緒にいたい。気持ちがあふれてきて、焦って言葉を重ねてしまう。

 「私はただ、サイラスと一緒にいたいだけなんです。いえ、会えるだけで十分なんです。許していただけるでしょうか? サイラスの気が変わったり、お仕事の邪魔になるようでしたらすぐ別れます。王都から出て行きます。つきまとったりしません。だから、サイラスとつきあうのを許してください」

 ルナの目からぽろりと大粒の涙が一粒零れる。それをぐいっと手で乱暴にぬぐうと、口を一文字に結んだ。泣き落としなんて手は使いたくない。目元に力を入れる。

 「ルナ!!!」
 周りの空気が魔術の気配にぶわりと揺れると、サイラスに抱き込まれる。マークも驚いた顔をしているので、サイラスが来ることは想定外なのだろう。

 「マーク、なにしにきたの? ことと次第によってはただじゃおかないよ? ルナ、このおっさんにいじめられたの? 大丈夫。コイツなんて偉そうにしてるけど、ほんとにそのへんの虫くらい大したことないからね。気にしちゃだめだよ。泣いたの? ルナを泣かせたの? あのおっさん」
 サイラスの腕の中で、ルナはほっとして、その気のゆるみから静かに涙をこぼしながら、首を横に振る。

 「サイラスをよろしくって……それだけ……サイラスに会えてうれしくて……泣けてきちゃって……お仕事大丈夫?」

 「仕事は秒で終わらせたから、大丈夫。僕に会いたかったの、かーわい。ほんとにあのおっさん、余計なこと言ってない?」
 
 マークは無言で、ヤクばあちゃんに頷くと席を立った。彼からはサイラスとの交際に否とも諾とも言われていない。怖いけど、これだけは確認しないと。ルナは焦ってサイラスの腕から抜け出して、マークに近づく。

 「ギルド長さん、サイラスとの交際は認めてもらえますか?」
 ルナが小声で訊ねると、マークはサイラスの方をちらちらと見て、冷や汗をかいている。
 「うんうん、もちろんだよ。王都で待ってるよ」

 「これからもよろしくお願いします。もし、私がお仕事の邪魔になったり、サイラスに好きな人ができても言い出せない時とか教えてください。それでは、お気をつけて」
 サイラスが来たことで、ルナに強く出られないのかもしれない。それでも、一応許可をもらったので、サイラスの元に戻る。
 
 「サイラス、今日はお仕事は終わり? お茶する時間はある?」
 今日は週に一回のお茶の日ではないけど、きっとヤクばあちゃんも大目に見てくれるだろうと、サイラスに訊ねる。

 「うん、お茶しようか。急いで来たから、今日はおみやげがなくてごめんね」
 「サイラスとお茶できるだけでうれしいからいいの。今日、パンを焼いたから食べる? くるみの入った甘くないやつだから、サイラスも食べられると思うの」
 「ルナの手作りかぁ。楽しみ」
 サイラスはルナの頬を優しくなでてくれる。いつもと変わらない態度にほっとする。

 いつもと同じようにサイラスとお茶をしながらも、ルナは少し上の空だった。
 ずっと成人の日を迎えて、この村を出て行くことばかりを考えていた。でも、サイラスとずっと一緒にいたいのなら、その先のこともちゃんと考えなければいけない。マークからその覚悟を問われた気がした。

 できることをしようと気持ちを切り替えて、薬草の採取、選別に続き、調合で合格点をもらい、さらに、ポーション作りの練習をはじめた。ルナは魔力量が少ないが、ポーションを作るには十分らしく、慎重に、手順を正確に踏んで作業するルナは調合やポーション作りに向いているらしい。王都に行ってサイラスのお荷物になりたくないルナは、少しでも稼げるようにポーション作りの精度をあげるよう、日々精進した。

 ダレンは村長の娘のアビゲイルと恋人同士になり、十四歳の時に婚約した。さすがに、他の女との関係は切り、身綺麗にしたらしい。常にアビゲイルを侍らせているが、相変わらず人のいない時に、ルナに声をかけてきた。
 そしてしょっちゅう、隣にアビゲイルがいる時でも、ルナのことを上から下まで舐めるように見てくる。結局、婚約してもダレンのルナへの執着は消えることはなかった。
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