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17 1111回目のプロポーズ side ルナ&サイラス
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「ねぇ、ルナ、僕と結婚してくれる?」
それは、3年前から繰り返されている愛しいサイラスからの何回目かもわからないプロポーズ。
今日もお気に入りの丘にピクニックに来ていて、二人で朝から作ったサンドイッチを食べて、のんびり休憩している所だ。最近、仕事が忙しかったサイラスに膝枕をして、その猫のように柔らかい銀の髪をやさしくなでる。のんびりした時間、寝っ転がってるサイラス。ルナの負担にならないように、いつもこんな何気ないひと時にプロポーズしてくれる。
もっと仕事や自分に自信がもてるまでは結婚できないというルナに、それでも自分の気持ちは伝えたいと。世界でもっとも軽くて重いプロポーズを毎日してくれるのだ。
「返事をする前に、私の話を聞いてくれる?」
猫がまどろむように、目を閉じていたサイラスのまぶたが上がり、綺麗なオッドアイが覗く。
「もちろん、僕の愛しいルナの話ならいつでもどれくらいでも聞くよ!」
切れ長の目を細めると、またサイラスはまどろみに戻っていった。うとうとしているように見えて、ルナの話を全身耳にして聞いているのであろうサイラスに向けて、ルナはやさしく語りだす。
◇◇
それから、ルナは優しいおとぎ話のようにサイラスとの出会いからこれまでの出来事やサイラスへの想いを隠すことなく語った。
さらには、サイラスが気にしている事に話は進んだ。
「この前、ギルド長のマークさんと私、お話したでしょう? 後からマークさんに、私が他の男の人を知らない事、サイラスの知らない面とか私への重い執着が懸念事項で、きっとサイラスも気にしているんじゃないかって言っていたから、そのことも話していい?」
サイラスが目線で諾と伝えると、ルナは話を続ける。
「サイラスは私と会う前、怠惰だって聞いたわ。ふふふ、まるで猫みたいに暇さえあれば、だらーんとしていたんですってね。そんなサイラスも私見てみたい。きっととってもかわいかったでしょうね。そんなサイラスの隣で一緒にまったりしたかったわ。あのね、隣国の絵本に、『三年寝た猫』って話があるの。最近、読んだ絵本なんだけどね。ずーっと三年間眠り続けた猫が、起きて国の危機を救うって話なの。サイラスみたいじゃない? サイラスが救ったのは国じゃなくて、私だけどね。
きっと、他にも私の知らないサイラスがいるんだと思う。隠したかったら隠していいし、もしよかったら教えてほしいの。どんなあなたでも知りたいし、きっと私はますますあなたを好きになってしまうわ」
ルナはまるで猫を撫でるようにサイラスの頭を撫でている。
「私は確かに、ダレンっていう最低な男の人と、サイラスっていう最高な男の人のことしか知らないわ。でも、サイラスといるとふわふわして温かい気持ちになってとても居心地がいいの。ごはんを食べる時、お茶する時、散歩する時、買い物する時、サイラスが隣にいるだけで幸せな気持ちになるの。そして、はじめて会ったときから今日まで、いつ会ってもあなたにときめいてしまうの、あまりにカッコよくて、やさしくて、すてきで、心がせつなくなるの。居心地がいいっていう穏やかな気持ちと、ドキドキとときめく気持ち。その正反対の気持ちが同居することは奇跡だってこと、私にはわかる。男の人は知らないけど、そんな人がサイラス以外にいないってことは知ってる。
例え、サイラスの澱が重なったような執着から解放されて、色々な男の人に会ったとして、この気持ちは変わらないの。自分の気持ちってね、ちゃんとわかるものなのよ。例え、虐げられて愛を与えられなくても。自分にとって大切なものは、自分でちゃんとわかるの。
私はちゃんと選んでサイラスの隣にいるの。自分の意思で。
サイラスの思いが重たいってこと、大きいってこと、紫の魔石や、ピアスからもわかるわ。それがどんなに幸せなことかわかる? 私、きっと愛情をもらったことがないから、愛情を入れる器が空っぽだったの。そこに愛を注いでくれたのは、サイラスだった。空っぽだったからいくらでも入るのよ。本当にそのサイラスの大きな愛のおかげで、私の空っぽだった心がどれだけ満たされたかわかる? 潔癖症なのに私にだけ触れてくれたり、安心できるまで言葉を尽くしてくれたり、愛を知らない私はサイラスのわかりやすい愛情表現がぴったりなの。だから、どんどん愛を注いでくれていいのよ。あら、ちょっと欲張りかしら? 私からの愛も伝わってる? 私からもサイラスに愛を注いでいくから覚悟してね」
いつもルナに対しては気持ちも言葉もあふれてくるのに、ルナの長い独白を聞いて、ただただ涙があふれるだけで、1つも言葉が出てこなかった。実はお互い気持ちが通じ合ってるようで、わかっていなかったのかもしれない。ルナのサイラスへの愛は、サイラスが思っているよりとてもとても深かった。
「待っていてくれてありがとう。サイラス。大好き。愛してる。結婚しましょう」
「ルナが泣かせにきてる……うう、返事がイエスなら、もっとちゃんとした場所選んだのに……」
「ふふふ、なんか天気が良くて、景色もきれいで、ごはんがおいしくて、サイラスが一緒にいてくれて幸せだなあと思ったら、自然にあふれてきちゃったの」
そう言って、照れたように笑うルナを見ていたら、たまらなくなって、体を起こして唇を重ねる。
「よし、そうと決まったら、結婚式をあげよう! 家はどこにする? ルナのドレスはどんなのがいいかな? ドレスに合わせてアクセサリーも作らないとかな? あールナの花嫁姿楽しみ。でも、綺麗すぎて誰にも見せたくないかも。もう二人だけで式挙げちゃうかな……あー悩ましい」
そうして、僕の1111回目(もちろん愛するルナに関することなので正確にカウントしている)のプロポーズは成功したのだった。
ヤクばあちゃんが魔術の修業の時も、ルナが薬師として修業いているときも、口を酸っぱくして言ってるけど物事はやっぱり千回は繰り返さないと成果がでないのかもしれないな……
それは、3年前から繰り返されている愛しいサイラスからの何回目かもわからないプロポーズ。
今日もお気に入りの丘にピクニックに来ていて、二人で朝から作ったサンドイッチを食べて、のんびり休憩している所だ。最近、仕事が忙しかったサイラスに膝枕をして、その猫のように柔らかい銀の髪をやさしくなでる。のんびりした時間、寝っ転がってるサイラス。ルナの負担にならないように、いつもこんな何気ないひと時にプロポーズしてくれる。
もっと仕事や自分に自信がもてるまでは結婚できないというルナに、それでも自分の気持ちは伝えたいと。世界でもっとも軽くて重いプロポーズを毎日してくれるのだ。
「返事をする前に、私の話を聞いてくれる?」
猫がまどろむように、目を閉じていたサイラスのまぶたが上がり、綺麗なオッドアイが覗く。
「もちろん、僕の愛しいルナの話ならいつでもどれくらいでも聞くよ!」
切れ長の目を細めると、またサイラスはまどろみに戻っていった。うとうとしているように見えて、ルナの話を全身耳にして聞いているのであろうサイラスに向けて、ルナはやさしく語りだす。
◇◇
それから、ルナは優しいおとぎ話のようにサイラスとの出会いからこれまでの出来事やサイラスへの想いを隠すことなく語った。
さらには、サイラスが気にしている事に話は進んだ。
「この前、ギルド長のマークさんと私、お話したでしょう? 後からマークさんに、私が他の男の人を知らない事、サイラスの知らない面とか私への重い執着が懸念事項で、きっとサイラスも気にしているんじゃないかって言っていたから、そのことも話していい?」
サイラスが目線で諾と伝えると、ルナは話を続ける。
「サイラスは私と会う前、怠惰だって聞いたわ。ふふふ、まるで猫みたいに暇さえあれば、だらーんとしていたんですってね。そんなサイラスも私見てみたい。きっととってもかわいかったでしょうね。そんなサイラスの隣で一緒にまったりしたかったわ。あのね、隣国の絵本に、『三年寝た猫』って話があるの。最近、読んだ絵本なんだけどね。ずーっと三年間眠り続けた猫が、起きて国の危機を救うって話なの。サイラスみたいじゃない? サイラスが救ったのは国じゃなくて、私だけどね。
きっと、他にも私の知らないサイラスがいるんだと思う。隠したかったら隠していいし、もしよかったら教えてほしいの。どんなあなたでも知りたいし、きっと私はますますあなたを好きになってしまうわ」
ルナはまるで猫を撫でるようにサイラスの頭を撫でている。
「私は確かに、ダレンっていう最低な男の人と、サイラスっていう最高な男の人のことしか知らないわ。でも、サイラスといるとふわふわして温かい気持ちになってとても居心地がいいの。ごはんを食べる時、お茶する時、散歩する時、買い物する時、サイラスが隣にいるだけで幸せな気持ちになるの。そして、はじめて会ったときから今日まで、いつ会ってもあなたにときめいてしまうの、あまりにカッコよくて、やさしくて、すてきで、心がせつなくなるの。居心地がいいっていう穏やかな気持ちと、ドキドキとときめく気持ち。その正反対の気持ちが同居することは奇跡だってこと、私にはわかる。男の人は知らないけど、そんな人がサイラス以外にいないってことは知ってる。
例え、サイラスの澱が重なったような執着から解放されて、色々な男の人に会ったとして、この気持ちは変わらないの。自分の気持ちってね、ちゃんとわかるものなのよ。例え、虐げられて愛を与えられなくても。自分にとって大切なものは、自分でちゃんとわかるの。
私はちゃんと選んでサイラスの隣にいるの。自分の意思で。
サイラスの思いが重たいってこと、大きいってこと、紫の魔石や、ピアスからもわかるわ。それがどんなに幸せなことかわかる? 私、きっと愛情をもらったことがないから、愛情を入れる器が空っぽだったの。そこに愛を注いでくれたのは、サイラスだった。空っぽだったからいくらでも入るのよ。本当にそのサイラスの大きな愛のおかげで、私の空っぽだった心がどれだけ満たされたかわかる? 潔癖症なのに私にだけ触れてくれたり、安心できるまで言葉を尽くしてくれたり、愛を知らない私はサイラスのわかりやすい愛情表現がぴったりなの。だから、どんどん愛を注いでくれていいのよ。あら、ちょっと欲張りかしら? 私からの愛も伝わってる? 私からもサイラスに愛を注いでいくから覚悟してね」
いつもルナに対しては気持ちも言葉もあふれてくるのに、ルナの長い独白を聞いて、ただただ涙があふれるだけで、1つも言葉が出てこなかった。実はお互い気持ちが通じ合ってるようで、わかっていなかったのかもしれない。ルナのサイラスへの愛は、サイラスが思っているよりとてもとても深かった。
「待っていてくれてありがとう。サイラス。大好き。愛してる。結婚しましょう」
「ルナが泣かせにきてる……うう、返事がイエスなら、もっとちゃんとした場所選んだのに……」
「ふふふ、なんか天気が良くて、景色もきれいで、ごはんがおいしくて、サイラスが一緒にいてくれて幸せだなあと思ったら、自然にあふれてきちゃったの」
そう言って、照れたように笑うルナを見ていたら、たまらなくなって、体を起こして唇を重ねる。
「よし、そうと決まったら、結婚式をあげよう! 家はどこにする? ルナのドレスはどんなのがいいかな? ドレスに合わせてアクセサリーも作らないとかな? あールナの花嫁姿楽しみ。でも、綺麗すぎて誰にも見せたくないかも。もう二人だけで式挙げちゃうかな……あー悩ましい」
そうして、僕の1111回目(もちろん愛するルナに関することなので正確にカウントしている)のプロポーズは成功したのだった。
ヤクばあちゃんが魔術の修業の時も、ルナが薬師として修業いているときも、口を酸っぱくして言ってるけど物事はやっぱり千回は繰り返さないと成果がでないのかもしれないな……
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