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16 再び問われる覚悟
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ルナが王都にきて三年の月日が経った。サイラスのプロポーズが三桁を越えたある日、ルナはギルド長のマークに呼び出された。今日はサイラスは西の辺境への出張があると言っていたはずだ。
冒険者ギルドのルナが初めて入るギルド長の執務室。重厚感のあるローテーブルに対面で座る。
既視感のあるこの光景。マークに初めて会った時を思い出させる状況にルナに緊張が走る。
あの時は、辺境の村のヤクばあちゃんの小屋で、古びたテーブルだったけど。マークの真剣な表情はあの時と同じだ。
「ギルド長、今日はなんのお話でしょうか?」
あれから、成人して年も重ねた。薬師として仕事もきちんとしていると思う。自分で部屋を借りて、自分で自分の世話をして養っている。あの時にマークに宣言したことはできているはずだ。
それでも、ルナはマークから何を言われるのか怖くて仕方ない。あの時のように震える左手を右手で押さえて、マークをまっすぐに見つめた。
「ルナちゃんは、本当にサイラスが相手でいいのかい?」
マークの質問の意図がわからなくて、ルナは困惑した。
「ルナちゃんの出会った男って、クソな幼馴染とサイラスだけでしょう? サイラスは君を囲い込んじゃってるから、他の男を知らない。それで、サイラスを選んで、一生サイラスだけでいいの?」
マークは大事な事を問う時にしかルナを呼び出すことはない。一生懸命、その質問の意図について考える。
マークはルナの覚悟を再度、問うてるのかもしれない。サイラスとダレンという二人の男の人しか知らないルナが、王都に来て、たくさんの男の人を見て、それでもサイラスを思い続けられるのか? 目移りしないのか? サイラスを捨てることはないのか?
「確かに、私は他の男の人を知りません。でも、出会った時から一緒にいると温かい気持ちになって、ふわふわして幸せで、サイラスといると穏やかな幸せを感じるんです。それに、男らしい手とか、やわらかい髪とか澄んだ瞳とか見惚れてしまうし、抱きしめられるとドキドキするんです。穏やかな気持ちとときめく気持ち、相反するような気持ちを抱ける相手が稀有なものであることは、私にだってわかります。他の男の人は知りません。でも、サイラスが私の唯一だってことはわかります」
少し恥ずかしいけれど、正直な想いを言葉にして改めて思う。ルナにはサイラスしかいない。
「……でもさ、サイラスの全部の面は知らないでしょ? あいつ、ルナちゃんと会う前はすっごい怠惰な奴だったし、気に入らない奴にけっこうえげつない事するし、ルナちゃんへの思いって、たぶん君が知るよりめちゃくちゃ重たいよ? それに耐えられる? 好きでい続けられる?」
やはり、あの時のようにマークは更に畳みかけてくる。
「確かに、私が知っているのはサイラスの一部なのでしょう。でも、サイラスが優しいってことは知っています。私のために、時に苛烈な事をしているのも全部ではないけど知っています。それに……サイラスの気持ちが重いの……私、うれしいんです。私、誰からも愛情をかけられた事がないから、まっすぐにたくさん愛情を表現してくれて、うれしいんです。どれだけでも、サイラスの愛情が欲しいんです。この紫の魔石も、ピアスもどれだけすごい物なのか今はわかるつもりです。その思いも束縛もうれしいんです。安心するんです」
ルナには自分の思いをそのまま告げるしかできない。マークの顔はどんどん険しくなる。何か言葉を間違えたのだろうか?
「私、まだサイラスの隣に立つのにふさわしくないでしょうか?」
もしかしたら、マークの質問の意図をルナは読み違えたのかもしれない。サイラスは最近、ギルドの副長に就任した。ルナ如きではサイラスの交際相手として足りないのだろうか? 泣きたくないのに、また涙が溜まってくる。王都でサイラスに甘やかされて、ルナの涙腺はずいぶん緩くなった。こういう所がダメなのだろうか?
「いやいやいやいやいや。違う違う。今回はそうじゃないんだよ。もうそろそろ結婚かなーって思って。サイラスの激重な気持ちに少しでも怯む気持ちがあるなら王都からそっと逃がしてあげようかと思ったりなんかしちゃって……」
マークがなにか早口で、小声でつぶやいているが、ルナにはよく聞こえない。
その時、執務室の扉がバ――――ンッと開いた。
「マ――――――ク!!!!!!!!!!」
派手に登場したサイラスを見て、堪えていた涙が零れる。いつものように優しくサイラスに抱きしめられて、ほっとする。
「ルナがピアスを音声通話にして、僕に会話聞かせてくれてなかったら、お前今頃、頭と体がサヨナラしてたからね。………まぁ、僕も気になってたことではあるけど。これで遠慮はいらないってことか」
サイラスはルナを横抱きにすると、颯爽と執務室を後にした。
「ねぇ、サイラス。ギルド長まだお話終わってないと思うの……」
「あのカスのことは忘れていいよ。よりによって、僕からルナを取り上げようとするなんていい度胸だ」
「サイラス、お仕事は?」
「そんなの秒で終わらせてきたよ」
転移魔術でサイラスの家へと移動し、薬草茶をサイラスが淹れてくれた。それを飲んでルナはやっと人心地ついた。
「サイラス、私、サイラスとつきあう資格あるのかな?」
「ルナ、僕たちは大人だよ。つきあう資格を他人に決められる必要はない」
「サイラス、これからも一緒にいてくれる?」
「もちろんだよ。ルナが嫌になっても離さないから」
「ふふふ、よかった」
結局、今日のマークの呼び出しの意図がわからないルナだったけど、きっとがんばっていけばマークに認めてもらえる日がくるだろうと前向きに考えることにした。
大事なのはサイラスとルナの気持ちなのだから。
冒険者ギルドのルナが初めて入るギルド長の執務室。重厚感のあるローテーブルに対面で座る。
既視感のあるこの光景。マークに初めて会った時を思い出させる状況にルナに緊張が走る。
あの時は、辺境の村のヤクばあちゃんの小屋で、古びたテーブルだったけど。マークの真剣な表情はあの時と同じだ。
「ギルド長、今日はなんのお話でしょうか?」
あれから、成人して年も重ねた。薬師として仕事もきちんとしていると思う。自分で部屋を借りて、自分で自分の世話をして養っている。あの時にマークに宣言したことはできているはずだ。
それでも、ルナはマークから何を言われるのか怖くて仕方ない。あの時のように震える左手を右手で押さえて、マークをまっすぐに見つめた。
「ルナちゃんは、本当にサイラスが相手でいいのかい?」
マークの質問の意図がわからなくて、ルナは困惑した。
「ルナちゃんの出会った男って、クソな幼馴染とサイラスだけでしょう? サイラスは君を囲い込んじゃってるから、他の男を知らない。それで、サイラスを選んで、一生サイラスだけでいいの?」
マークは大事な事を問う時にしかルナを呼び出すことはない。一生懸命、その質問の意図について考える。
マークはルナの覚悟を再度、問うてるのかもしれない。サイラスとダレンという二人の男の人しか知らないルナが、王都に来て、たくさんの男の人を見て、それでもサイラスを思い続けられるのか? 目移りしないのか? サイラスを捨てることはないのか?
「確かに、私は他の男の人を知りません。でも、出会った時から一緒にいると温かい気持ちになって、ふわふわして幸せで、サイラスといると穏やかな幸せを感じるんです。それに、男らしい手とか、やわらかい髪とか澄んだ瞳とか見惚れてしまうし、抱きしめられるとドキドキするんです。穏やかな気持ちとときめく気持ち、相反するような気持ちを抱ける相手が稀有なものであることは、私にだってわかります。他の男の人は知りません。でも、サイラスが私の唯一だってことはわかります」
少し恥ずかしいけれど、正直な想いを言葉にして改めて思う。ルナにはサイラスしかいない。
「……でもさ、サイラスの全部の面は知らないでしょ? あいつ、ルナちゃんと会う前はすっごい怠惰な奴だったし、気に入らない奴にけっこうえげつない事するし、ルナちゃんへの思いって、たぶん君が知るよりめちゃくちゃ重たいよ? それに耐えられる? 好きでい続けられる?」
やはり、あの時のようにマークは更に畳みかけてくる。
「確かに、私が知っているのはサイラスの一部なのでしょう。でも、サイラスが優しいってことは知っています。私のために、時に苛烈な事をしているのも全部ではないけど知っています。それに……サイラスの気持ちが重いの……私、うれしいんです。私、誰からも愛情をかけられた事がないから、まっすぐにたくさん愛情を表現してくれて、うれしいんです。どれだけでも、サイラスの愛情が欲しいんです。この紫の魔石も、ピアスもどれだけすごい物なのか今はわかるつもりです。その思いも束縛もうれしいんです。安心するんです」
ルナには自分の思いをそのまま告げるしかできない。マークの顔はどんどん険しくなる。何か言葉を間違えたのだろうか?
「私、まだサイラスの隣に立つのにふさわしくないでしょうか?」
もしかしたら、マークの質問の意図をルナは読み違えたのかもしれない。サイラスは最近、ギルドの副長に就任した。ルナ如きではサイラスの交際相手として足りないのだろうか? 泣きたくないのに、また涙が溜まってくる。王都でサイラスに甘やかされて、ルナの涙腺はずいぶん緩くなった。こういう所がダメなのだろうか?
「いやいやいやいやいや。違う違う。今回はそうじゃないんだよ。もうそろそろ結婚かなーって思って。サイラスの激重な気持ちに少しでも怯む気持ちがあるなら王都からそっと逃がしてあげようかと思ったりなんかしちゃって……」
マークがなにか早口で、小声でつぶやいているが、ルナにはよく聞こえない。
その時、執務室の扉がバ――――ンッと開いた。
「マ――――――ク!!!!!!!!!!」
派手に登場したサイラスを見て、堪えていた涙が零れる。いつものように優しくサイラスに抱きしめられて、ほっとする。
「ルナがピアスを音声通話にして、僕に会話聞かせてくれてなかったら、お前今頃、頭と体がサヨナラしてたからね。………まぁ、僕も気になってたことではあるけど。これで遠慮はいらないってことか」
サイラスはルナを横抱きにすると、颯爽と執務室を後にした。
「ねぇ、サイラス。ギルド長まだお話終わってないと思うの……」
「あのカスのことは忘れていいよ。よりによって、僕からルナを取り上げようとするなんていい度胸だ」
「サイラス、お仕事は?」
「そんなの秒で終わらせてきたよ」
転移魔術でサイラスの家へと移動し、薬草茶をサイラスが淹れてくれた。それを飲んでルナはやっと人心地ついた。
「サイラス、私、サイラスとつきあう資格あるのかな?」
「ルナ、僕たちは大人だよ。つきあう資格を他人に決められる必要はない」
「サイラス、これからも一緒にいてくれる?」
「もちろんだよ。ルナが嫌になっても離さないから」
「ふふふ、よかった」
結局、今日のマークの呼び出しの意図がわからないルナだったけど、きっとがんばっていけばマークに認めてもらえる日がくるだろうと前向きに考えることにした。
大事なのはサイラスとルナの気持ちなのだから。
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